秋が来たから

 コーヒーを飲みながら。


 秋が来た。それは暦の上の話で明瞭ではない。

 けれども人は数字に左右される生き物だから9月になれば秋が来たと感じる。

 そういうふうにできている。


 しかしそれで何か劇的な変化が起こるかと言えばそういうことではなくて人間の定義は自然に影響を与えない。せいぜい人の観察する感覚を変化させるだけだ。

 しかししかし私たちは人で観察する側であろうとするからその感覚の変化はやはり世界に大きな影響を与える。そして私たちには内的世界が全てである。


 そういうわけでシキフは旅に出ることにした。


 別段、彼は何を失ってもいなかったけれども何を欠けているとも感じていなかったけれども旅に出ることにした。

 生物がいろいろな外的刺激に反応するようにシキフもまた日付という外的刺激に反応したに過ぎない。それが少し生物一般として不自然だっただけだ。


 目的を持っていなかったので彼は道なりに進むことにした。

 進んでいるという感覚さえあれば方向はどっちでもよかった。


 道のつながっている先は中央か辺境かのどちらかだ。

 太くまとまっていく方に進めば中央に行きつくし細く別れている方に進めば辺境に行き着く。

 わかりやすい。


 それらの構造は人体内部と似ているけれども違ったところがあるとすれば中央が複数あって同じ道を進んでいっても中央と辺境が交互に現れることだ。


 そういうわけでシキフは大きな街に出くわした。

 それは道を歩いていく上での必然の出来事で多少手順の前後はあっても避けられないことだった。


 街には城壁があって門番がいる。門番は彼の判断によってあやしいものを通さない。

 それは個人的な感覚ではあったが彼もまた街の住民であったから大きく外れてはいなかった。


 シキフはといえば目的を持たない旅人であってそこに定住するつもりはなかったからあっさり通された。

 彼は約束どおりに一晩そこにとどまって街を出ていった。


 それでシキフに何が得られたかと言えば情報を得られた。情報は彼に目的を作らせるのに役立った。

 それは途方もない噂であって話しているものもそれを信じてはいなかった。


 遠く七つの森を越えた先の都で大宝石がみつかったという。

 それは家一軒ほどの大きさで覗き込めば時間とともにいろいろな光と色を見せてくれるらしい。


 あるいはその大宝石はある種の次元跳躍装置であって覗き込んだ末に引きずり込まれて別次元に移動させられたものもあるそうだ。

 故に近々封印される予定。


 それらの話のすべてを信じたわけではなかったがシキフはその大宝石を見に行くことにした。

 きっとそれはとてつもなく綺麗だろうから。



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