屋根の上の蛙

 蛙を投げたらぽーんと屋根の上にのっかった。

 投げられた方の蛙はいきなり景色が変わったことに驚いた。

 ここはどこだ?

 自分の意図しない運動によって別空間に移動させられたことだけわかった。

 いつもより空が近い。

 ひとまずぴょこぴょこと歩き回ってみることにした。あんまり広くはない場所だった。

 世界の端はまっすぐにすとんと落ちていて、そこから降りることはできそうになかった。

 まったく困ったことになったものだ。

 お日様は天高くじりじりと日差しを浴びせてきて、このままでは遅くないうちに自分は干からびてしまうことだろう。だのにこの空に近い場所には日差しから逃げる空間が用意されていないのだ。

 運を天にまかせて飛び降りるか、それともこのまま座して死を待つか?

 よし! こうなったら自分の運命をひとつ試してやろうじゃないか!

 蛙はそう思うとそのままためらわずに屋根の端から飛び出した。

 びゅうびゅうと風が肌にあたってくる。体中の水分という水分が吹き飛ばされてしまいそうだ。

 考えてなかったけれどどう着地したらいいのだろう。足からそれとも手から。

 そもそもきちんと降りる場所の選定をすべきだった。今さらだ。今さら考えても仕方のないことだ。

 あきらめて蛙は周りを眺めた。自分は空にいる。空を落ちていっている。

 いったいこの落下はいつまでつづくのか? いつ終わるのか?

 それはだれにもわからないことだ。わからないことだが今もなお蛙が落ちていってることは確かである。

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