川の流れ
桟が川岸で桶を洗っていたところ、川の上流から何か丸いものが流れてきて桶にすっぽり入った。持ち上げて中身を確認してみると、それは小さな赤ん坊で、子のない桟はそれを育てることにした。
桶太郎と名づけられたその子はみるみるうちに大きくなっていってたったの3年で立派な男になった。
桟は「お前はもうここにいてはいけないよ。広い世界を見に旅立ちなさい」と桶太郎を家から追い出した。彼を拾った時の桶ひとつだけを持たせて。
桶太郎はその後なんやかんやあって悪い鬼を退治するなりなんなりして大金持ちになるのだがそんな話はそちらで勝手に想像してくれ。
問題は桟の方で子育ての終わった桟は前々から気になっていた川を遡ることを始めた。そもそも桶太郎がいったいどこから来たのか気になって仕方がなかったのだ。
といってもきちんと準備して出かけたわけではなくて、新しい桶を洗うついでに散歩気分で山を登っていった。水源を辿っていくとそこには門があった。
なんでそんなところに門が? と思うかもしれないがあったのだから仕方のない。それは石造りの立派な門でところどころ苔むしていた。
桟はそのまわりをぐるりと一周してみたが確かにその門から川は流れでていた。どうしたものかと考えてもいいアイディアは浮かばなかったので、ひとまず持っていた桶を門に投げ込んでみることにした。
するとぴかりと門は白い光を放って、そうしてその光が消えるとともに門も消えていた。なんだったんだろうと思いはしたが自分はこのためにここまでやってきたのだと桟は自分を納得させた。
話はこれでしまいである。その後の桟の人生が特に幸福であったとか不幸であったとか別段どちらでもなかった。起きることが起きて、起きないことは起きない、そういうものだった。
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