妖精の森
多分、運命は回転式に振り分けられるものだ。根拠はない。そんな風な気がしているだけ。
ストローは南の街まで歩くことにした。理屈によって動いていては運命から逃れることができそうになかったから。そうしてあえて道から外れていく。それもまた運命から逃走するための一手に他ならない。あるいは闘争だろうかそれはどちらに運命がいるのかそれによってかわるからそれの実態を掴みきれないストローにはわからない話だった。故にストローは運命論者であり非運命論者である。どっちだっていい。
そうしてあえてストローが森に踏み込んだところで古い大きな樹に妖精が一匹磔にされていた。助けてくれと妖精は言った。こうした妖精を助けることでいいことがある場合と悪いことがある場合と両方あってそれなら無視してしまえばいいかというと助けないことでいいことがある場合と悪いことがある場合があったからストローにはどうすればいいかわからなかった。しかたがないのでその妖精に直接聞いたところ助けてくれればいいことがあるよと教えてくれた。しかしその答えを聞いてから気づいたのだけれどその妖精としては助けてほしいのだからそういう他ないのは当然のことだった。
ストローは近くにあった平らな岩にすわりこんだ。お前の名前は? ストローは妖精に尋ねた。その質問に対し妖精は首を横にふった。答えられない。私たちにとってそれは非常に重要なもので場合によっては命よりも価値が高い。たとえ助けられたとしてもそれでは割の合わないことになる。ではどうしてそんなことになっているんだ? 話せば長いことになるが聞く気があるなら語ろう。そうして妖精は長い長い話をはじめた。
妖精というのはもとより植物や何かと似たような存在で地面から生えてくる。基本的に外敵はおらず、というより初期は存在の濃度が薄いがためにほとんど感知されることはない。そうしてふわふわと飛んでいるうちにだんだんと自我が芽生えてくるとともに他者からも感知されるようになる。その微妙な時期が他者に見つかりながらそれを拒絶する力を持たないもっとも危険な時期だと言われているが他の妖精にはもうちょっと早い段階から認知されるからそこは妖精同士の協力があってなんとかなっている。でもそこらへんのところはきっちり決めてあるわけではなくてわりと適当にやっている。妖精たちの間で小さな妖精を守ろうだとかそういう取り決めがあるわけでなしなんとなく仲間を大切にしようという考えがある程度のことだ……。
長い長い長い話がつづいてストローはほんの短い時間だけ眠ってしまって気づけばあたりに森は消えていた。自分がどこにいるのだか彼にはもうわからなかった。
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