ピック

 ピックは人生に不足を感じてその不足がなんなのか突き詰めて考えた時それは女だった。

 その女というのは彼の育った村にて手に入るものではなく、つまり彼はまだ見ない女というものを求めていて、旅に出ざるをえなかった。あるいは旅に出るための口実が女だったとも言える。ともかくピックにはなにか不足があってそれを補うためのなにかは狭い世界の内側にはなくその外側へと必ず出ていかなければならなかった。

 占い師のババアは言った、太陽の沈む方向へと歩いていけ。そうすればお前の求めるものが見つかるはずだから。実のところこのババアは適当なことを言っているだけである。しかしそれでもババアは集落において十分な機能を果たしている。彼女に求められている役割とは問題を内部で解決するか外部で解決するか、それを決定することだ。正確な判断すら求められていない。大きく外れていなければそれで用は足りる。すべての問題は当人によってしか解決されないしまた当人によって解決されなければならないから。

 ピックは本人の感覚としてはぼんやりとした不足により、本人の思考としては女を求めて、占いババアの役割としてはなんとなく、それらをごちゃまぜにした結果、東に向かって歩き出した。人は道の上を歩く。特別の理由がない限りそれを外れることはしない。その是非についてはこの話の問うところではない。ただすべての道はローマに通じていて、彼の足は自然の成り行きで都にまでたどりついた。

 たどりけばすぐそこで女が手に入るかと言えばそんな簡単な話はない。ではどうするか。彼は生活しなければならない。生活するには善にしろ悪にしろ生業がいる。都に紛れ込んだピックに与えられた仕事は穴堀であった。その穴の通じるところをピックは教えられずとも知っていた。女である。それが道理というものだ。

 暗闇の中で土を掘り返す。少しずつ前へと進んでいく。穴の深くなるにつれ土は硬くなる。それはピックの成長速度を上回る。結果、穴が深くなるにつれその進展速度は低下していく。とてつもなく硬い岩盤にピックは突き当たった。進展が五感において感じられなくなる。自分は前に進んでいるという信念だけが頼りだった。

 それからどれだけの月日が流れたのか知らない。ついにピックはその岩盤を突き破った。穴を掘って行き着く先は常にひとつしかない。地底である。土の王は言った。地の底までたどり着きし者よ、何を求める。ピックの答えは決まっていた。女。

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