第11話 神様の住まい

 1時間後、俺と綾那は東京スカイツリーの展望デッキ行のエレベーターに乗っていた。


 実は俺は、スカイツリーに来るのは初めてだった。

 東京育ちで東京一•二の名所に来たことがないのは珍しく思われるかもしれないが、うちの家は家族で外出となると、スポーツ観戦か格闘技観戦と決まっているのだ。

 下の子供がどんなに小さくてもお構いなし。

 俺の幼少期の一番古い記憶は、ムキムキの男たちが殴り合う格闘技イベントだったりする。

 物心つくかつかないかくらいの幼女をそんなところに連れて行く父や兄たちの神経はどうかと思うが、その当時の俺はケタケタ笑って喜んだそうだ。

 そこから後は、現在に至るまでプロ野球とJリーグとプロレスのローテーション。

 お陰で俺はディズニーランドにも未だに行ったことがない。


 いかがだろう。

 俺がこんな風に育つのも無理はないとご理解頂けただろうか?


 そんなことを思い返しているうちに、エレベーターはあっと言う間に展望デッキに到着した。

 たしか、最高速度は時速36kmでたったの50秒で展望デッキに着くということだった。

 あまりの速さに度肝を抜かれながらも、俺は綾那の手を引いてエレベーターの外に出た。


 初めて来た俺の目には、その空間はまるで宇宙船のように映った。


 上下にカーブを描いた柱、窓枠、ガラス、そして、それらがより大きなカーブを描いて左右に広がっていく。


 そのガラス越しに見えるのは一面の青い空。

 エレベーターを降りてすぐの位置からは他の建造物は一切見えない。

 窓際まで駆け寄り、下を見下ろしてはじめて東京のビル群が視界に入ってくる。

 地上でみたらとても大きなはずのビルがすごく小さく見える。

 とても同じ人間が作った建造物から見ているとは思えない。

 まるで神様の住まいから地上を見下ろしているかのようだった。

 無論、地上の人間の姿は見えない。


 俺は思った。


 もし、本当に神様がいたとして、こんなカンジで地上を見てるんだとしたら、個々の人間のことなんてわからないし、どーでもいいよなー。


 地上の人間はみなそれぞれ問題を抱えて困っている。

 かく言う俺も、ヘンテコに育ってしまって、周りと折り合いをつけるのに苦しんだ。


 いや、今も苦しんでいるし、これからも苦しむのだろう。


 俺はそんなことを考えながら、真横に立つ悩みの種に目を向けた。

 綾那だ。


 綾那は「おー、やっぱり高いねー」と言いながらニコニコして地上を見下ろしている。


 勢いでこんなところまで連れてきてしまったが、この笑顔が俺のものになることはない。

 綾那からすれば、俺は幼馴染みの同性であり、恋愛対象にはならない。

 俺がこれからどんなアプローチをしたとしても、綾那が俺に振り向くことはない。


 俺と綾那が結ばれるなんてこと......

 神様が許さない......


 いや......

 先程の言で言えば......

 神様はそんなことに興味はないか......



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俺は女の子だけど、俺が好きなのは女の子だ!! 阿々 亜 @self-actualization

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