第4話 黄色い声援

 放課後のグラウンドを、俺はサッカーボールを蹴りながら走っていた。

 相手チームの一人が、俺の前に立ちはだかる。

 数秒のうちに右か左かの千日手の如き攻防が繰り広げられた後、相手の一瞬の虚をつき、俺は左に抜けた。

 少し進んだところで今度は二人が迫ってくる。


「佐久良!! こっちだ!!」


 斜め前、数メートル先に俺を誘った三嶋が走り込んでいた。

 俺は三嶋に向けて、力いっぱいボールを蹴りこんだ。

 その勢いで俺のスカートがふわりとめくれ上がる。

 男の視線を集めそうな動きだが、俺はスカートの下にスポーツスパッツを履いているし、参加している男子たちももうこの光景を見慣れており、こちらに見向きもしない。


 俺からのパスを受けた三嶋はさらに敵陣深くに潜り、ゴールを目指す。

 だが、三嶋の侵攻は敵ディフェンスに程なく阻まれる。


「三嶋!! いったんこっち戻せ!!」


 俺は三嶋の斜め後方数メートルから、手を上げて三嶋に合図する。

 しかし、目線は三嶋の方を見ず、前方に向けている。


 三嶋は俺の合図にうなずき、ボールの向きを俺の方に向ける。

 が、その間に敵チーム数人が入り、コースが阻まれる。


 三嶋は自分と俺の間に敵チームの意識集まっているのを確認し、そのコースとは全く違う方向にボールを高く蹴り上げた。


「はは、三嶋、焦りすぎだ!!」


 敵チームのメンバーがそう揶揄する。


 ボールは宙を舞い、ゴール前数メートルの誰もいない空白地点に着地する。

 が、そこで、敵チームのキーパーが叫ぶ。


「お前ら!! 下がれ!! 佐久良が走りこんでる!!」


 キーパーの言葉で、敵チームが震撼する。


 だが、遅い!!


 俺はすでにボールの落下地点にたどり着いていた。


「佐久良のヤツ、なんであんなところにいるんだ!?」


 敵チームの悲鳴が響く。


 ふふ、なんでかって?

 最初からここに落とすように、三嶋に目線で合図を送ってたんだよ!!

「いったん、こっちに戻せ!!」と言ったのはフェイク!!

 俺と三嶋の間に敵メンバーが集まったところで、目標ポイントに向かって走り込んだのだ!!


 ボールを確保した俺はそのままゴールを目指して走る。

 敵チームが集まってくるが、もう遅い。

 俺は渾身の力を込めてゴールにボールを蹴り込んだ。

 キーパーが飛びボールを弾こうとするが、俺のシュートの力が勝ってキーパの手を弾き返し、次の瞬間にはボールはゴールネットに吸い込まれていた。


「きゃあああぁぁぁっ!!」

「佐久良さあああぁぁぁんっ!!」

「憂っっっ!!」


 ゴールが決まり、観戦していた女子たちから黄色い声援が上がる。

 俺がそんな女子たちににこやかに手を振ると、声援は一際大きくなった。

 そのやり取りを見て、敵チームも味方チームも恨めしそうな視線を俺に向ける。


 すまん、みんな!!

 お前らもそうだろうが、俺は女子にモテたいのだ!!


 その後、5分ほどでゲーム時間が終わり、3対2で俺たちのチームが勝利した。


 女子の一人からタオルを借りて、汗を吹いていると、三嶋が俺に話かけてきた。


「ナイスプレー、佐久良!! やっぱ、お前に入ってもらって良かったわ!!」


 こちらチームの得点の3点中2点は俺が入れたものだった。


「ところでさ、佐久良、今週の土曜空いているか?」


「土曜? 空いてるよ」


「他校のやつと3on3やるんだけど、予定してたメンツが一人都合わるくなっちゃってさ。悪いんだけど、穴埋めではいってくれないか?」


 あー、バスケかー。

 久しぶりだな〜。


「うん、いいよ」


 俺は二つ返事承諾した。


「さんきゅ。じゃあ、場所とか時間とかあとでRAINするわ」


 三嶋はそう言い残して、そそくさと去っていった。


 俺はそのとき気付くべきだった。

 去り際の三嶋が、何か企んでいるような笑顔を浮かべていたことに......






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