俺は女の子だけど、俺が好きなのは女の子だ!!

阿々 亜

第1話 俺は女が好きだ!!

 俺は女が好きだ!!


 いや、今ブラバしようとしたそこの君、ちょっと待ってくれ。

 君は今こう思ったことだろう。

 思春期で盛りのついた男子が自分の欲求を垂れ流していると。

 一部は確かにそのようなものなのだが、俺の場合少々事情が違う。

 え?

 どう違うかって?

 それはだな......


佐久良さくら!! 入学したときからずっと気になってた!! 付き合ってくれ!!」


 俺の目の前にいるのは、隣のクラスのイケメン城戸きどである。

 サッカー部の部員で、1年にも関わらずすでにレギュラー入りしている。

 我が校において、彼氏にしたいランキングベスト10に入る男だ。

 校舎裏でたった今、俺はこの男に告白を受けた。

 言っておくが、この城戸は男が好きな男というわけではない。

 昨今は何を持ってノーマルとするか議論が紛糾するところだが、ややこしいので古い価値観に照らし合わせて言わせてもらうと城戸はノーマルだ。

 いや、近年でも通用する言い方をすれば、性的マジョリティーと言うべきか。

 そう、問題は城戸ではなく俺の方なのだ。


 話を分かりやすくするために、ここら辺で俺の容姿を描写しよう。

 身長163cm、髪はほんの少し茶色がかった黒のショートヘア、大きく明るく輝く瞳、小さく柔らかい曲線を描く鼻、小さく薄い唇。

 自分で言うのもなんだが、浜辺〇波にちょっと似ていると思っている。

 そして、服装。

 我が校の制服は、一般的なデザインのブレザーにストライプのネクタイ、チェックのスカートである。

 大事なことなのでもう一度言う。

 である!!

 そう、もうお分かり頂けただろう。


 俺はの名前は佐久良憂さくら ゆう

 俺は“女”である。


 なぜ、俺が“女”にも関わらず、一人称が“俺”なのか説明するにはもうしばらく時間と文字数を要するが、その前に俺に思いの丈をぶつけたきた城戸に応えてやらねばならない。


 俺は城戸の目を見て、全身全霊の微笑みを叩きつける。

 そんな俺の笑顔を見て、城戸の頬が赤らみ、口元が緩む。

 俺はその笑顔のままこう呟いた。


「ごめんなさい」


 俺のその短い一言に、城戸の緩んでいた顔がみるみる絶望に染まっていく。


 数秒後、城戸はなんとか冷静さを取り戻し、言葉をひねり出す。


「そっか......好きなヤツでもいるのか?......」


 フラれたあとにこう聞いてくるのは、自分のスペックは申し分はないはずだという自信の現れだろう。

 なかなか見上げたものだ。

 それだけ自信があれば、すぐに別の彼女ができることだろう。


「うん......まあ......そんなところ......」


 俺は口を濁して、城戸に背を向けた。


「じゃあ......行くね......」


 そう言い残して、俺はすたすたとその場を後にした。


 ハイスペックで自信家の城戸はなぜ自分がフラれたのか理解に苦しんでいることだろう。

 城戸には悪いが、その理由を教えてやるわけにはいかない。

 そう、口が裂けても言えない。


 ここでようやく冒頭の話に戻るわけだ。


 俺は女が好きだ!!



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