第6話 タイプ

 結局俺は三嶋のセッティングした合コンに参加することにした。


 男のフリをしてかわいい女の子たちと話す。


 よくよく考えれば俺にとっては願ってもないことだった。

 女子とは普段からしゃべっているが、女子として女子と話すのと、男として女の子と話すのは全く違うのだ。


 どう言えば伝わるだろうか?

 そうだな......

 女子として女子と話すのは少女漫画を読んでいるようなカンジなのだ。

 少女漫画に出てくる女子たちは感情移入の対象であって、決して恋愛対象ではない。

 一方、男として女の子と話すのは、少年漫画のラブコメを読むようなカンジである。

 登場する女の子は皆可愛く、皆愛しく、誰か一人なんて選べない!!


 ん?

 何を言っているか意味がわからないって?

 安心しろ。

 俺もだんだんわけがわからなくなってきた。


 まあ、何を言いたいかというと、女の子に異性として接するというのは、胸がときめく。

 そういうことだ。


 そうこうしているうちに相手の女子が現れた。

 しかし、その場に来たのは一人だけだった。


 ややゆるくウェーブのかかったロングの茶髪、目立つか目立たないかギリギリくらいのメイク。

 ひと目見て遊んでそうな印象の子だった。


「ごめん、もう全員来てるんだけど、一人恥ずかしがっちゃって、外でまごついてるんだ......」


 そう言ってその子は申し訳なさそうに両手を合わせてゴメンネというポーズをする。


「あー、こういうの慣れてない子もいるからねー。うちも今日、一人慣れてないやつがいるから」


 三嶋はそう言って俺の頭をぽんぽんと叩いた。


 うるせ!!

 こちとらこの十年女として生きてきてるんだ!!

 男として合コンに出た経験なんかあってたまるか!?


 まあ、女としても経験ないんだけど......


「あ、きたきた! こっちー、早くー!!」


 先にきていた子が門の方に向けて手を振り、残りの二人がやってくる。

 一人はショートヘアに長身で少しボーイッシュな印象があり、見た目的には俺の容姿に近い系統だ。

 もう一人は黒髪にほぼノーメイクで、他の二人と異なり大人しそう印象だった。

 ボーイッシュな方が大人しそうな方の手を引いており、見た目の印象からも察するにこの大人しそうな方が問題の渋っていた子だろう。


「ごめんなさい、お待たせしちゃって!!」


 俺たちのところに駆け寄ってくるや否や、ボーイッシュの子がそう言って頭を下げた。


「あー、全然大丈夫ー。気にしないでー」


 三嶋はそう言って、女の子たちに優しく微笑む。


 三嶋め。

 今までそういう話をしたことがなかったけど、コイツまあまあ遊んでるな。

 気をつけないと三嶋に全部持ってかれる。


 くそ!!

 俺だって参加する以上、モブで終わったりしねーからな!!


 俺は女の子3人を見渡した。

 俺の目は参加を渋っていたと思しき大人しそうな子に吸い込まれた。

 ここに来てからも俺たちと目を合わせず、恥ずかしそうに斜め下のほうに目を泳がせている。

 黒髪のセミロングで身長は俺より10cmほど低い。

 ノーメイクかと思ったが、よく見るとほんのり薄く手を入れている。

 顔は小さいのに目の輪郭は大きく、同年代のアイドルグループにいても申し分ない容姿だ。


 はっきり言って、完全に俺のタイプだった。

 俺の気持ちは完全にその子に持っていかれた。


 決めた。

 三嶋たちには、絶対この子は渡さない。



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