第10話 逃さない

 俺は、三嶋に騙されて男装して合コンに参加する羽目になった経緯を綾那に説明した。

 最終的に俺はノリノリで合コンに参加したわけだが、そのことは心に秘めておく。


「なるほど、そんなところに私が女の子ってバレる発言をしちゃったわけかー」


 おおよそ状況を理解したところで、綾那はうーんと唸った。


「申し訳なかったというべきなのかなー。そもそも性別偽って合コンとか、まあまあ罪重くない?」


 全くおっしゃる通りでグウの音も出ない。


「それで、全てを有耶無耶にするために、いきなりあんなこと言い出して私を連れ出したわけかー。まあ、あの場をごまかすとしたらこんな方法しかないよねー」


 綾那はどうやら、俺の告白をあの場を切り抜けるためのでまかせと判断したようだった。


「綾那......俺は......」


 告白が本気だったと訂正しようとする俺を綾那は手で制した。


「あー、全然気にしないで。 私もあの合コンから抜け出せて本当に助かったんだー」


 こちらの話の腰を折られ、俺は仕方なく綾那の話の続きに耳を傾ける。


「私も似たような状況でさー。あの子達に人数が足りなくなったからって無理矢理連れてこられたんだよ」


 なるほど。

 まあ、雰囲気的にそんなことだろうとは思っていたが。


「たぶん、夜までにあの子達から連絡くるだろうけど適当に誤魔化しとくよ。女の子が男装して合コンとか、悪い評判が広がるだろうから」


 もし、そうなったとしたら被害が大きいのは三嶋だ。

 おそらく近辺の学校の女子とはもう合コンなんてできなくなるだろう。


「ごめん、ありがとう」


 全部三嶋のせいにすれば、俺自身はさしたる被害はないが、綾那の気遣いに一応礼を言っておく。


「さて、これからどうしようか? 元々今日何も予定なかったんだー」


 そう言って綾那は携帯を起動させた。


 お互い元々は望まぬ合コンだったし、勢いで抜け出してしまったので、このまま解散してもいいところである。


 だが、10年間求め続けていた思い人と奇しくも再会できたのだ。


「ちょっと行きたいところがあるんだけど、付き合ってくれないか?」


 無論、俺はこの機を逃すつもりは毛頭ない。


「ん? いいよ。どうせ暇だし。どこ?」


 綾那は気軽に了承してくれた。


 俺は心の中でガッツポーズをとりながらも、次の言葉に窮した。


 行きたいところがあるというのは、綾那を逃さないための方便だ。


 困った......

 どこにしよう......


 事前に考えていたわけではないので、全くアテがない。


「えーとね、ここなんだー......」


 俺はスマホの画面を開き、行き先の画像を出すふりをしながら、大急ぎで行き先を検索する。

 急いでいるので、検索キーワードは短く“東京デート”。

 記事を読むような時間はないので、画像のインスピレーションで探す。


 しかし、画面に出てくるのは社会人が夜に行くようなデートスポットばかりだった。

 高校生が昼間に行くようなところがあまり出てこない。


「ねー、どこー?」


 綾那が口を尖らせて催促してくる。


 えーい、もうヤケクソだ!!


 焦った俺はトキトーにタップした画面を確認もせずに綾那に突き出した。


「ここなんだ!!」


 綾那は画面をまじまじと見たあと、「あー」と声を上げた。


「いいよ、行こ」


 綾那はそう言ってにっこりと笑ってくれた。


 俺はほっとため息つきつつ、いったいどこにらなったんだろうと画面を覗き込んだ。


 そこにあったのは、日本一高いタワーの姿だった。



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