"笑って食事する"すべての人たちへ…

ある日突如として異星人がやってきたら――

侵略される? 宇宙戦争がはじまる?
いえいえ、あれは映画のなかでの話です。そもそもはるか遠く銀河のかなたから地球まで飛来できる異星人が、言語も通じず服も着ず、「キャシャアアッ」と牙を剥いたり犬猫まで襲ったり牛の内臓を抜き取るようなものであるはずがありません。

異星人が現れてからまもなくして、核が廃棄させられました。原発が停まりました。戦争がなくなりました。

戦争を続けようとした国はすべて滅ぼされました。
当然です。

鎖星から開星の時代への転換です。

刻々と地球の文化が変貌していくなか、星交式で「星歌」なるものを披露しなければならないことになりました。一大事です。何故ならば、地球は「国歌」はあっても「星歌」なんてグローバルなものはなかったのですから。
斯くして、星歌を創るために、主要国首脳会議が開かれた――

「笑って食事をする者」という地球人にたいする通称を、外星人があらためるところからはじまりますが、これはシベリアやアラスカに暮らす民族を表す「エスキモー」が差別語として「イヌイット」に変更されたことに関係するのでは、と考察しています。
アイロニー(皮肉的)でありながらユートピア思想すら感じさせ、それでいて、ディストピアでもある。
作中の事例はともすれば荒唐無稽に感じますが、その実、現実でも似たような事例がわんさか残っていて、ぐうの音もでません。事実は小説よりも奇なり、というか、なんというか。
劇作家オスカー・ワイルドは「サーカズム(風刺)」こそが「知性の最高形態」と語りましたが、まさしくその通りです。
著者様の才能が遺憾なく発揮された今作、これを読まずして「カクヨムWeb小説短編賞2023」を終えるのはもったいなすぎます。ぜひとも御一読ください、胸を張っておすすめいたします!

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