d̷h҉u̴̶f̵҉e̸l̴҈a̶̶s̷o̷̷q̶a̸の星歌斉唱
詩一
d̷h҉u̴̶f̵҉e̸l̴҈a̶̶s̷o̷̷q̶a̸
——
彼らの言葉で“笑って食事する者”と言う意味らしい。
しかし近年
宇宙人に観測されてこの方、地球人の生活は一変した。呼ばれ方だけではないのだ。文化が大きく変わった。
まず、核を廃棄させられた。原発も同じくして。
反発した国もあったが、反発していた国には地球外から光の柱(当時はレーザーと言われたもの)が打ち落とされて滅びた。その国の名前は直ちに抹消され、二度と呼んではならないとされたので、今はどの国が
その後に発生した核廃棄物の問題は、
原発がなくなることでエネルギー不足に陥った先進国だったが、海から水素を取り出し発電する水素発電所が要所に建設され、それらの問題は解決した。
またときを同じくして、全世界へ戦争の停止を命令した。しかし発展途上国のほとんどは
光の柱によって滅んだ国はまるでそこに初めからなにもなかったかのような更地になる。そこは
せめて流れ弾を回避するだけの科学力を身に付けなくてはならない。
明治維新後に積極的に外国の文化を取り入れていった日本のように、地球も今、
ヒトの申し出を、
しかし当然向こうとは違う価値観は正していかなければいけない。
さっそく信仰の部分という極めてデリケートな部分に口出しをされる。
「そもそもなぜ、宇宙の法則に背こうとしているのか?」
一神教であれ多神教であれ、地球人が言う神と言うのは、大概の場合宇宙の法則に基づいていない力を行使する場合が多い。石をパンに変えたり、神が顔を洗ったらそこから他の神がボロボロ出て来たり、宇宙の法則から外れた場所を幸福な土地としたり。特に今生きて居るこの宇宙とは違う場所があり、そこの方が圧倒的に優れていると言う考え方は、宇宙の法則を舐めているし、これだけ宇宙の法則の恩恵に
こういうとき、否定しない人の意見はあまり当てにならない。なぜなら興味のなさゆえにそう言うことを言えるからだ。子育てと同じだ。子供のやることに口を出したくなるのは、子供のことを思っているから。なにも言わないのは自由にさせてあげたいのではなく、興味がないからなのだ。つまり、「地球人が我々と同じフィールドで文明を築きたいと言うのなら、ある程度物申すよ」という人の意見の方がためになるのだ。
地球は信仰の自由を尊重して来た。しかし実際どうだろう。自由にしてきたがあまりに対立が起き、戦争に発展した国もある。これはチャンスなのかもしれない。
それに、幸いなことにこの『宇宙の法則』という考え方は地球人にとって初見ではない。バールーフ・デ・スピノザの
なにかを得ようとするとき、自らの信念や生活を変えることは仕方のないことだ。これは日本人が特によく学んでいる。諸外国に野蛮だと言われれば、諸外国の価値観に合わせた文化を取り入れ築き上げた。
結婚式がそうだ。日本には室町時代から結納はあったものの、結婚式と言う文化はなかった。しかし諸外国に神の下で愛を誓わないなど野蛮だと言われ、結婚式を執りおこなうようにした。明治時代に皇族が初めておこなったのだ。多神教である日本は、取り急ぎ天照大御神の前で愛を誓った。これを神前式と言ったが、正直ピンと来てなかった大衆の温度感とそもそも外国から伝わった文化ということが相まって、どちらかと言うと教会で行う欧米式の結婚式が増えていった。多神教でありながら、唯一絶対神に愛を誓う謎の行為を、しかし外国は野蛮だとは言わなかった。要するに形さえなんとかなっていればいいのだ。
おそらく宇宙の法則を信仰するようになったら、この結婚式の形態も変わっていくのだろう。
こうして価値観が変わっていくことは良いとも悪いとも言えないが、代わりに得られる科学力や文明は必ず人間に良い効果をもたらす。実際に科学を発展させてきた国は、飢えて死ぬ人は少なくなったのだから。
特に親身になって話を聞き、意見を出してくれていた星があった。その星が
「——と、ここでヒトの星の
それぞれの星には
これはあまりにも失礼な話である。だから初めは隠し通そうと考えた首脳たちだったが、すぐに見破られた。親切な星の人は、「まあまあ、仕方ないでしょう」と言ってくれた。
「しかし次の議会が開かれる日までに
かくして
ここでは別に各首脳が作詞作曲をするわけではない。誰に頼むのが適切かと言う話だった。日本の総理は『
「きっとこれは答えが出ない問題だ」
弱音にも聞こえる言葉を放った。
「匙を投げるのか?」
「そうじゃない。視点を、考え方を変えるんだ。どこの国の誰が適しているかとか、その地位に居るかとか、そんなことを考えているから埒が明かない。それに、結局我々主要国の首脳が決めたものでは、不公平感が出る。例えばここで満場一致したとしてもそのアーティストが白人なら、差別だと言われる。そうは思わないか?」
「言えている。と言うかもう今、瞼の裏に見えたわ」
「じゃあどうする? 全世界にアンケートでも取るか?」
「それでも同じこと。人口の多い国のアーティストが勝つだろう。それに、そもそもネットの環境が整ってない国の票はどうやって取りに行く?」
「おいおい。そんなところにまで配慮しろと言うのか?」
「そうだ。配慮だ。今まで散々野蛮な星だと言われて来たのだ。今度は逆に、我々の方から野蛮ではないことを、ここが配慮の星だと言うことをアピールしよう」
「ああ、それは良いな。今までだってたくさんの名作を配慮によって駄さ……より良い映画にしてきたもんな……」
「配慮こそが我々のベースってことだな」
主要国首脳はできる限りの配慮を尽くすことを決めた。
「先は白人だとまずいとか言っていたが、肌の色など関係なくそもそも先進国が有利過ぎる。発展途上国の人たちにも配慮しよう。先進国からは選ばないようにしよう」
「既存の音楽家の中から選ぶのも公平性がない。だってそんな職業がある国は、国として余裕がある国と言うことだろう? 一日中水を運ぶだけで終わるような国の人に音楽家なんて概念はない。それでもきっと音楽と言う概念自体はある。民族的な音楽はあるし、それを楽しむ文化もある。だから音楽家じゃなくて一般人から選ぼう」
「ルッキズムにも配慮しよう。イケメンや美女はNGだ。あと細身、高身長、巨乳もダメ」
「必ずしも健常者から選ばなければいけないことにはなっていないものの、それを知らない人からすれば、差別したのだと思われるかもしれない。障碍者から選ぼう」
「逆に絞り過ぎてないか? と言うか、発展途上国の障碍を持った低身長貧乳デブスって、逆に選んだときに恨まれないか? 理由を聞いたときになんて答えればいい」
「そうだな。あ、じゃあ、一人ではなくいろんな人に歌詞などを書いてもらうのはどうだろう? カテゴリ分けするのがそもそも差別だからな」
「とは言え、その中に音楽家を入れるのはまずいよな。音楽家がほとんど創ってしまいそうだ」
「言えている。素人の集団の中にプロが混ざったらほとんどプロの手が加えられて原型がなくなりそうだ。だからやはり最初に言っていた一般人から選ぶと言うのは変えないで行こう」
「言語もバラバラな方が良いだろうなあ。全部英語だと国際問題に発展しかねない。歌の中でもとにかく自由をアピールしたいところだ」
「あ、でも冒頭に
「そうだな。今まで世界一丸となってやってきた目標なんだ。それだけは入れてもらおう」
「これだけ配慮していればもう
こうして、各国で連携してあらゆる国の垣根を越えて、素人の人々に歌詞の作成をお願いした。
この作詞に関してはあくまでもメッセージだ。本来の歌詞は韻を踏んだり字数を整えたりするものだが、そこは求めない。形式を決めず、とにかく文字にさえなっていれば良い。しかし作曲はさすがに素人では難しいと言うことで、世界最古の曲『セイキロスの
一度精査した方が良いのではないかと言う話もあったが、それでは結局同じこと。先進国の誰かが手を加えたら意味がないのだ。
満場一致でそのまま行くことになった。
※ ※ ※ ※
来たる
世界各国の、特に歌手でもなんでもない人々が集められた。
——星歌斉唱。
——△——▽——△——▽——
——△——▽——△——▽——
「終わった」
通訳の言葉を聞いて歌詞を理解した主要国首脳たちは全員そう言って膝から崩れ落ちた。本当に精査していなかったのだ。
しかし、
初めは、曲調がウケたのかと思った。しかし、
と言うことは、歌詞に対しても拍手をしているのである。
「自分の星を悪く言わないのではなく、あえて今の問題をそのまま切り抜いて周知させることで現状のヒトを保存した。たとえこのあとどれだけヒトの文明が良くなり、不幸な人が一人もいなくなったとしても、この星にはずっと昔にはこういう時代があったのだと言うのを残して置ける。素晴らしい歌だ」
そんなとんでもない賞賛を受けた。
こうしてヒトは
d̷h҉u̴̶f̵҉e̸l̴҈a̶̶s̷o̷̷q̶a̸の星歌斉唱 詩一 @serch
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