d̷h҉u̴̶f̵҉e̸l̴҈a̶̶s̷o̷̷q̶a̸の星歌斉唱

詩一

d̷h҉u̴̶f̵҉e̸l̴҈a̶̶s̷o̷̷q̶a̸

 ——d̷h҉u̴̶デュf̵҉e̸l̴҈a̶̶フェラs̷o̷̷q̶a̸ソクァ


 外星人がいせいじんから地球人はこのように呼ばれていた。

 彼らの言葉で“笑って食事する者”と言う意味らしい。

 しかし近年諸外星しょがいせいでは、このような呼び方はその星の民を侮辱しているのではないか? と言う議論が交わされ、ヒトと呼ばれることになった。“笑って食事する者”がそれほど屈辱的な呼ばれ方だと地球のほとんどの人は思っていなかったが、食事の際に笑うことが野蛮であると考える外星人からしてみれば、充分に侮辱を伴った言葉であったらしい。


 宇宙人に観測されてこの方、地球人の生活は一変した。呼ばれ方だけではないのだ。文化が大きく変わった。


 まず、核を廃棄させられた。原発も同じくして。

 反発した国もあったが、反発していた国には地球外から光の柱(当時はレーザーと言われたもの)が打ち落とされて滅びた。その国の名前は直ちに抹消され、二度と呼んではならないとされたので、今はどの国が外星人がいせいじんに反発したのかもわからない。そもそも、どの国であっても地球外のしかも何光年も離れた場所へロケットを飛ばす技術など持ち合わせていなかったので、外星人がいせいじんの要求は呑むしかなかった。

 その後に発生した核廃棄物の問題は、諸外星しょがいせいが解決してくれた。地球上のすべての核とその廃棄物を大気圏外に出したあと、まとめて太陽に射出してくれたのだ。


 諸外星しょがいせいにとって地球の存在はどちらかと言えばあった方が便利という程度の価値だった。だから侵略する気はない。核を捨てさせたのは攻め滅ぼすためではなく、仲間内で殺し合って外星人がいせいじんが観光に来られなくなるのを防ぐ目的だった。


 原発がなくなることでエネルギー不足に陥った先進国だったが、海から水素を取り出し発電する水素発電所が要所に建設され、それらの問題は解決した。外星人がいせいじんが作り上げてくれた発電所に欠陥はなく、事故も不具合もなくエネルギーは供給された。


 またときを同じくして、全世界へ戦争の停止を命令した。しかし発展途上国のほとんどは外星人がいせいじんの介入に懐疑的であり、脅威を感じていなかったためそのまま戦争を続けた。数日後に戦争をしていた国は滅んだ。例の光の柱によって。

 光の柱によって滅んだ国はまるでそこに初めからなにもなかったかのような更地になる。そこは諸外星しょがいせいの宇宙艦の発着場になることになった。


 諸外星しょがいせいの力は圧倒的であり、価値観を合わせる必要があった。積極的に攻めてこないとはいえ、このまま施しを受け続けるだけではいけない。いつか諸外星しょがいせいに飽きられたらゴミ捨て場のようになってしまうかもしれない。さながら、観光地として魅力を失った田舎のように。それに、諸外星しょがいせい同士での戦争に巻き込まれたらどうする。流れ弾で地球が消えかねない。

 せめて流れ弾を回避するだけの科学力を身に付けなくてはならない。

 明治維新後に積極的に外国の文化を取り入れていった日本のように、地球も今、鎖星させいを終わらせて宇宙的にグローバルな星にならなければいけない。


 ヒトの申し出を、諸外星しょがいせいの人々は快く受けてくれた。

 しかし当然向こうとは違う価値観は正していかなければいけない。

 さっそく信仰の部分という極めてデリケートな部分に口出しをされる。


「そもそもなぜ、宇宙の法則に背こうとしているのか?」


 一神教であれ多神教であれ、地球人が言う神と言うのは、大概の場合宇宙の法則に基づいていない力を行使する場合が多い。石をパンに変えたり、神が顔を洗ったらそこから他の神がボロボロ出て来たり、宇宙の法則から外れた場所を幸福な土地としたり。特に今生きて居るこの宇宙とは違う場所があり、そこの方が圧倒的に優れていると言う考え方は、宇宙の法則を舐めているし、これだけ宇宙の法則の恩恵にあずかって置きながら、勝手が過ぎる考えである。宇宙の法則がなければ川は逆流するかもしれないし、海が沸騰するかもしれないし、雲が鉛になって降ってくるかもしれない。そうならないのは宇宙の法則のおかげなのだ。あまりに宇宙の法則をバカにした宗教観に、諸外星しょがいせいの人々はドン引きしていたし、もっと宇宙の法則に感謝すべきとの意見が多かった。


 こういうとき、否定しない人の意見はあまり当てにならない。なぜなら興味のなさゆえにそう言うことを言えるからだ。子育てと同じだ。子供のやることに口を出したくなるのは、子供のことを思っているから。なにも言わないのは自由にさせてあげたいのではなく、興味がないからなのだ。つまり、「地球人が我々と同じフィールドで文明を築きたいと言うのなら、ある程度物申すよ」という人の意見の方がためになるのだ。


 地球は信仰の自由を尊重して来た。しかし実際どうだろう。自由にしてきたがあまりに対立が起き、戦争に発展した国もある。これはチャンスなのかもしれない。

 それに、幸いなことにこの『宇宙の法則』という考え方は地球人にとって初見ではない。バールーフ・デ・スピノザの汎神論はんしんろんが、外星人がいせいじんの言う宇宙の法則と同じなのである。これは世紀の物理学者、アルベルト・アインシュタインも仰いだ信仰である。アインシュタインは「宗教なき科学は不完全であり、科学なき宗教は盲目である」と言った。ついに地球人は、科学なき宗教から脱却する日が来たと言うことだ。


 なにかを得ようとするとき、自らの信念や生活を変えることは仕方のないことだ。これは日本人が特によく学んでいる。諸外国に野蛮だと言われれば、諸外国の価値観に合わせた文化を取り入れ築き上げた。

 結婚式がそうだ。日本には室町時代から結納はあったものの、結婚式と言う文化はなかった。しかし諸外国に神の下で愛を誓わないなど野蛮だと言われ、結婚式を執りおこなうようにした。明治時代に皇族が初めておこなったのだ。多神教である日本は、取り急ぎ天照大御神の前で愛を誓った。これを神前式と言ったが、正直ピンと来てなかった大衆の温度感とそもそも外国から伝わった文化ということが相まって、どちらかと言うと教会で行う欧米式の結婚式が増えていった。多神教でありながら、唯一絶対神に愛を誓う謎の行為を、しかし外国は野蛮だとは言わなかった。要するに形さえなんとかなっていればいいのだ。

 おそらく宇宙の法則を信仰するようになったら、この結婚式の形態も変わっていくのだろう。


 こうして価値観が変わっていくことは良いとも悪いとも言えないが、代わりに得られる科学力や文明は必ず人間に良い効果をもたらす。実際に科学を発展させてきた国は、飢えて死ぬ人は少なくなったのだから。


 特に親身になって話を聞き、意見を出してくれていた星があった。その星が諸外星しょがいせいの中では最も権力があるようだった。とりあえずは、その星の言うことを聞いていれば良さそうだ。それからも色々と文化や価値観に介入されていき、その都度直し、いよいよその星以外も含んだ諸外星しょがいせい星交せいこうを結べる星交式せいこうしきの話をしているときに、不意打ちを食らう。


「——と、ここでヒトの星の星歌せいかを歌っていただき……」


 それぞれの星には星歌せいかと言うものがある。考えても見たらそれはそうだ。地球にだってそれぞれの国の国歌はある。なぜか。自分が住む国以外にも国があることを知っているからだ。人類は今まで宇宙人の存在を信じながら、実は本当に存在していると思っていなかったのだ。だから星歌せいかがない。他星たせいを意識していなかったから。

 これはあまりにも失礼な話である。だから初めは隠し通そうと考えた首脳たちだったが、すぐに見破られた。親切な星の人は、「まあまあ、仕方ないでしょう」と言ってくれた。


「しかし次の議会が開かれる日までに星歌せいかを用意してくださいね。さもなくば、他星からまた野蛮だ、失礼だと言われてしまいますよ」


 かくして星歌せいかを創るために、主要国首脳会議が開かれた。

 ここでは別に各首脳が作詞作曲をするわけではない。誰に頼むのが適切かと言う話だった。日本の総理は『DREAMSドリ TRUE』一択一点張りだったが各首脳が止めた。しかしやはり各国の推しのアーティストが上がってしまい、星を代表する歌がそれで良いのかと言う意見に行きついてしまう。


「きっとこれは答えが出ない問題だ」


 弱音にも聞こえる言葉を放った。


「匙を投げるのか?」

「そうじゃない。視点を、考え方を変えるんだ。どこの国の誰が適しているかとか、その地位に居るかとか、そんなことを考えているから埒が明かない。それに、結局我々主要国の首脳が決めたものでは、不公平感が出る。例えばここで満場一致したとしてもそのアーティストが白人なら、差別だと言われる。そうは思わないか?」

「言えている。と言うかもう今、瞼の裏に見えたわ」

「じゃあどうする? 全世界にアンケートでも取るか?」

「それでも同じこと。人口の多い国のアーティストが勝つだろう。それに、そもそもネットの環境が整ってない国の票はどうやって取りに行く?」

「おいおい。そんなところにまで配慮しろと言うのか?」

「そうだ。配慮だ。今まで散々野蛮な星だと言われて来たのだ。今度は逆に、我々の方から野蛮ではないことを、ここが配慮の星だと言うことをアピールしよう」

「ああ、それは良いな。今までだってたくさんの名作を配慮によって駄さ……より良い映画にしてきたもんな……」

「配慮こそが我々のベースってことだな」


 主要国首脳はできる限りの配慮を尽くすことを決めた。


「先は白人だとまずいとか言っていたが、肌の色など関係なくそもそも先進国が有利過ぎる。発展途上国の人たちにも配慮しよう。先進国からは選ばないようにしよう」

「既存の音楽家の中から選ぶのも公平性がない。だってそんな職業がある国は、国として余裕がある国と言うことだろう? 一日中水を運ぶだけで終わるような国の人に音楽家なんて概念はない。それでもきっと音楽と言う概念自体はある。民族的な音楽はあるし、それを楽しむ文化もある。だから音楽家じゃなくて一般人から選ぼう」

「ルッキズムにも配慮しよう。イケメンや美女はNGだ。あと細身、高身長、巨乳もダメ」

「必ずしも健常者から選ばなければいけないことにはなっていないものの、それを知らない人からすれば、差別したのだと思われるかもしれない。障碍者から選ぼう」

「逆に絞り過ぎてないか? と言うか、発展途上国の障碍を持った低身長貧乳デブスって、逆に選んだときに恨まれないか? 理由を聞いたときになんて答えればいい」

「そうだな。あ、じゃあ、一人ではなくいろんな人に歌詞などを書いてもらうのはどうだろう? カテゴリ分けするのがそもそも差別だからな」

「とは言え、その中に音楽家を入れるのはまずいよな。音楽家がほとんど創ってしまいそうだ」

「言えている。素人の集団の中にプロが混ざったらほとんどプロの手が加えられて原型がなくなりそうだ。だからやはり最初に言っていた一般人から選ぶと言うのは変えないで行こう」

「言語もバラバラな方が良いだろうなあ。全部英語だと国際問題に発展しかねない。歌の中でもとにかく自由をアピールしたいところだ」

「あ、でも冒頭にSDGsエスディージーズの一言は欲しい。そこだけはこちらで先に付けてしまおう」

「そうだな。今まで世界一丸となってやってきた目標なんだ。それだけは入れてもらおう」

「これだけ配慮していればもう諸外星しょがいせいの人々から野蛮と言われることもないだろう」


 こうして、各国で連携してあらゆる国の垣根を越えて、素人の人々に歌詞の作成をお願いした。

 この作詞に関してはあくまでもメッセージだ。本来の歌詞は韻を踏んだり字数を整えたりするものだが、そこは求めない。形式を決めず、とにかく文字にさえなっていれば良い。しかし作曲はさすがに素人では難しいと言うことで、世界最古の曲『セイキロスの墓碑銘ぼひめい』を編曲して長くしたものにした。どこの国と言うより、世界最古と言うところに気が向くので問題ないだろう。完璧に配慮されている。


 一度精査した方が良いのではないかと言う話もあったが、それでは結局同じこと。先進国の誰かが手を加えたら意味がないのだ。

 満場一致でそのまま行くことになった。



 ※  ※  ※  ※



 来たる星交式せいこうしき諸外星しょがいせいの人々が集まる中、次々とプログラムは進行していく。

 世界各国の、特に歌手でもなんでもない人々が集められた。


 ——星歌斉唱。








 ——△——▽——△——▽——


 SDGsエスディージーズ

 Kyse on kestävän持続可能な kehityksen開発目標 tavoitteistaのことさ


 I want to eat meat肉が食べたい

 Mig langar焼いてb að borða食べたい það grillað


 

 Qu'il pleuve雨が降りますように

 নামবেন না降りませんように



 Lần sau tôi đào今度掘ったら

 ちゃんとちゃんと

 Да水が из出てтеきまчеすよ воうにдата


 Ou te fia alu学校に行って i le aoga ma勉強したい suesue

 स्वदेशस्य自分の国を विकासं कर्तुम्開発したい इच्छन्ति


 L'objectif直近の immédiat est目標は d'aller dans先進国へ un pays行くこと développé

 Chuyển tiền先進国で kiếm được稼いだお金を ở các仕送り nướcします phát triển



 хмふーーん



 добреいいから, дай мені薬をよこせ ліки

 a ko俺らにb ni ojo iwaju未来なんてねえ

 အိပ်မက်ဆို悪夢みたいးတစ်ခုလိုပါပဲ။なもんなんだ

 ክትበራበር覚める ዝኽእለሉ መንገዲ የለን方法なんてねえ

 Хэрэвあるとしたら байгааあの世逝き бол нөгөө ертөнц өнгөрнө


 நான்神を கடவுளைぶん殴りてえ அடிக்க வேண்டும்

 వన్-వే片道 టిక్కెట్切符 మంచిదిでもいい

 ik heb俺には het rechtそれをする om het te doen権利がある


 Pole hullu良いから, ära tule enamもう来ないで

 bakka kanaこの場所から keessaa ba'aa出て行って


 Meze nezaいい気になってる

 žudikai殺人鬼たちが

 sis ik不幸だなんだ haw pechと言っている

 그런 말을そんなこと言う 할 권리는 없을 것입니다.権利はないはずだ

 چونکە تۆなぜなら جێگەی我々の ئێمەت گر居場所をتەوە奪った

 nem felejtették el忘れてはいない

 विसरले नात忘れてはいない

 زه یوازې پوهیږمただ争いは چې جګړه هیڅ شی なにも生まないとنه راوړي知っているだけ

 e hoomaikai aku感謝しろ

 Gommeそして le ka mohla二度と o se ke wa lla gape弱音を吐くな


 ——△——▽——△——▽——






「終わった」


 通訳の言葉を聞いて歌詞を理解した主要国首脳たちは全員そう言って膝から崩れ落ちた。本当に精査していなかったのだ。


 しかし、諸外星しょがいせいからとんでもないほどの大きな拍手が送られた。

 初めは、曲調がウケたのかと思った。しかし、外星人がいせいじんはみなこちらの言語を翻訳機なしで理解していたし、こちらにわかるような言葉で話してくれていた。きっとどんな言葉も自星じせいの言葉に一瞬で翻訳することができるのだろう。

 と言うことは、歌詞に対しても拍手をしているのである。


「自分の星を悪く言わないのではなく、あえて今の問題をそのまま切り抜いて周知させることで現状のヒトを保存した。たとえこのあとどれだけヒトの文明が良くなり、不幸な人が一人もいなくなったとしても、この星にはずっと昔にはこういう時代があったのだと言うのを残して置ける。素晴らしい歌だ」


 そんなとんでもない賞賛を受けた。

 こうしてヒトは諸外星しょがいせいに認められた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

d̷h҉u̴̶f̵҉e̸l̴҈a̶̶s̷o̷̷q̶a̸の星歌斉唱 詩一 @serch

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説