血塗られたシステム 決着編 その6 (約2400文字)



「ゴッド・ハンドをぶち殺せえっ」


「侵入者は皆殺しだあっ」


真鍮色のアーマーを身に纏った

少年に無数の兵士が殺到する。


「分析完了 攻撃フェーズ開始」


無機質な電子音声が鳴り響き、


パ ァ ン


次の瞬間、先頭にいた敵兵の

顔面が楕円形に陥没し、

数本の歯が空中に散らばった。


「今の僕はアウトキャストの体術、

レッドラムの捕縛術、

リディアの身体能力と

トゥームストーンの射撃術、

そしてスワッシュバックラーの

剣術を学習AIで模倣しています」


「で…でたらめを言うなあっ」


兵士が帯電警棒を振り上げて

素早く接近する。常人ならば

避ける事すら難しいだろうが…


バシュッ  グシャアッ!


エイジは腰に差した自動拳銃を

ホルスターから素早く抜き放つと

兵士の右膝に弾丸を叩き込み、

姿勢を崩して無防備になった顔面に

鋭いハイキックを打ち込んで

一撃で失神させる!


「はうっ」


「無意味に傷つけたくない……

大人しく降伏して下さい、

貴方たちに責任を取らせるような

真似はさせませんから」


声変わりを迎える前の高い、

しかし張りのある声で凄む。


「黙れガキめ……どの道

お前らを始末しなければあの人の

理想は叶わず、俺たちは

居場所を失ってしまう……!」


「ああそうだ、あんたの作った

義肢には助けられたが……

心身を病んだ元軍人が家族を

養う方法など、野盗になるか

ここの警備をするしかない!」


「それじゃ奴等の思うつぼだ!

貴方たちがこんな仕事をしてるのは

連中が世界中に武器を流して

各地の紛争を煽ってるから……」


「黙れ!」


「お前たちに何が分かる!」


激昂した兵士たちが剣を抜き、

エイジは咄嗟に身構えるが

そこに白い影が割って入る!


火遁龍尾斬かとんりゅうびざん!」


ゴ オ ォ ッ !


鞭のように伸びる炎の斬撃が

敵集団に絡みついて引き裂き、

血の焦げた臭いが辺りに漂う。


「……………」


「無駄だ……連中の頭では

世界情勢など理解できんだろう。

貴様らの国ではどうだか知らんが、

この辺りの軍人上がりは戦のせいで

学業が疎かになっていて、

読み書きすら怪しい連中も多い」


「……あぁ、分かってる。」


エイジは血の通わぬ鉄の腕を

震わせ、嗚咽を押し殺しながら

ゆっくりと前に進む。


「なぁ……僕っておかしいのかな?

友達が命懸けで守ってくれたのに、

まるで敵の肩を持つようn」


ガッ


リディアは思い切りエイジを

殴り飛ばし、彼は尻餅をついた。


「ふざけた事を抜かすな!」


彼女はエイジの胸倉を掴んで

持ち上げると、声を張り上げる。


「人を斬り殺しておいて平気で

酒を飲むような女がまともに

見えるというのか、貴様は!?

ふざけるのも大概にしろ……」


「えっ」


「私がなぜ人を斬るか分かるか?

放っておけば争って殺し合うからだ!

人間がエルフを殺せばエルフの息子が

その人間を殺す!更にその娘が

成長して兵士となりエルフを殺す!

私の故郷はそうして滅んだのだ!」


一周回って冷静になったリディアは

エイジを地面に降ろし、質問をする。


「お前は何処にでもいる只の人間が

“鬼”になる瞬間を見た事があるか?」


「……ない」


「私は……自分が生きている内に

あんなものが二度も生まれる位なら

人を殺してでも争いを終わらせる。

それが天命だと信じているからな」


リディアはそう言ってエイジを

庇うように立つと、刀を抜いた。


「だからお前はこのままでいい!

その甘い考えを一生引き摺って、

精々世の中をマシにしていろ!」


「居たぞ、撃ち殺せ!」


「覚悟しろ!」


先程の十倍近い兵士が包囲する中、

二人は一切怯む事なく前に出た。


(チッ……数が中々に多いな、

全員斬り殺すことは容易いが

ここでの消耗は後に響く)


二人が身構えた瞬間だった。


バシュン!


「あうっ……」


空間を稲妻が切り裂く。


瞬時に数億ボルトの電流が流れた

警備兵の防刃服が火花を散らし、

屈強な肉体が膝から崩れ落ちる。


「……行こう!」


「わ、分かった!」


リディアは相手の動揺を突いて

目の前の兵士を何人か斬り捨てると

エイジの手を引いて駆け出した。


「追いかけろ!」


ザ ク ッ


「はうっ」


そう叫んだ兵士が背後を振り返った

瞬間、暗闇から飛んで来た手斧が

ヘルメットを割り脳漿を散らす。


「タフなシチュエーションだな、

俺なら対価もなしにこんな仕事を

するのは死んでも御免だ」


トゥームストーンは

血塗れの黒いコートを靡かせ、

自身の右腕を庇っていた。


「そう?君も大概だと思うけど」


ベラドンナはそう言うと鞘から長剣を

抜き、意地の悪い笑みを浮かべる。


「よくも仲間を!」


姿勢を崩しているトゥームストーンに

ナイフを持った兵士が襲い掛かる!


「ガ”ァ”ァ”ッ!!」


おぞましい咆哮と同時に

龍のそれを思わせる鱗と鋭い爪が

生え揃った禍々しい右腕が

兵士の頭を鷲掴みにし、そのまま

地面に叩きつけて赤い染みにした。


「血を浴びすぎるとそうなるん

でしょ?難儀なカラダだよねぇ。

昏睡状態で機械に繋がれた

子供たちを見た途端、研究員相手に

そんな状態になるまで暴れてさ…」


「くっ……」


「正直カッコよかったよ♡」


トゥームストーンは怒りを

通り越して冷静になったらしく、

冷ややかな目線で彼を睨んだ。


「ぁ……冗談じゃないからね」


「死ね、裏切り者ォ!」


先頭の兵士が上げた悲鳴に近い

絶叫を皮切りに、完全武装した

人間雪崩が二人に襲いかかった。


影穿剣ブラインドピン!」


赫雷サング・トニト!」


盲点を突いた超光速の連続刺突と

異形の爪による稲妻のような斬撃が

一度に10人余りを蹴散らす。


人造獣キマイラを放てっ」


「ウ オ オ オ オ 」


ゴリラをベースにした異形の怪物が

二人の前に飛び込んで拳を放つが、

トゥームストーンが蹴りで相殺し

ベラドンナが雷魔法で弾き飛ばす!


「いいの?エイジ君にあげちゃって。

上にいる人やっつけたら何百万も

貰えるんでしょ?」


「男が自分の人生に決着をつける

一世一代の好機だ、俺とて

水を差さない程度の分別はある…

そう言うお前はどうなんだ」


「君と同じ…僕たち気が合うね」


「残念だがそうらしいなぁっ」



二人の怪物は狩りの予感に身震いし、

短い言葉を交わして死地に踏み込んだ。




続く

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