スティール・パイソン(約8000文字)
ーエンディア自治領西部、赤鉄砂漠ー
鮮血のように真っ赤な地平線を、一台の大きな馬車が進む……王国と自治領の三年間に渡る戦争で数万人の血を啜ったこの荒野では、今でもミイラ化した兵士の死体が時折見つかるのだという。
「全く、なんでこんなに日差しが強いんだ?予報じゃ今週はずっと曇りの筈だぜ。」
高級スーツ姿の小柄な白人が葉巻に点火しながらぼやく。
「クソ、このゴミライターめ!全然火が点かないじゃねぇか!」
「落ち着け兄弟……あと1時間ばかし辛抱すりゃ、涼しい部屋といい女が待ってるさ。」
用心棒らしい筋肉質な黒人の男が彼を諌め、マッチを擦って葉巻に火をつけてやる。
「ん?外を見ろよ……誰か手を振ってる。」
「どうした兄ちゃん、何か入り用か?」
白人が軽く窓を開け、馬に乗った小柄な覆面の男に話しかける……
彼の頭上には数匹のハゲワシが飛んでおり、コートから時折覗く肌は死人のような灰色だった。
「その……具合が悪いのか?」
「あぁ、飲み水と食糧を切らしてしまったんだ。この際アルコールでもいい、売ってくれ……相場の5倍出そう。」
「悪いがこれは売り物じゃ……」
素直に答えようとした黒人の口を白人が手で押さえ、馬車を止めてドアを開ける。
「外は暑いだろ、なんか飲んでけ。」
「すまない。」
(どういうつもりだ、積荷は全部あの人への贈り物だぜ!?勝手に売ったら殺される!)
黒人は身勝手な相棒を問い詰めるが、彼は
悪辣な笑みを浮かべて質問に答える。
(バカだな、本当に売る訳ねぇだろ!金だけ貰ったら身ぐるみ剥がして砂漠に捨ててやるのさ……)
(ナイスアイディア!)
それを聞いた黒人も歯を見せて笑い、もみ手をして男を出迎える。
「それで旦那……今は幾ら持ってるので?」
「4万と5万、手持ちの1万と合わせて約10万といったところか。」
「え?」
何故、わざわざ分けて説明した?二人は顔を見合わせる。
「馬鹿め……」
ズドドォン!!
男はおもむろに二挺のリボルバーを抜き放ち、車体の隙間から御者と馬を射殺!
「なっ!?」
男のコートから二枚の手配書を取り出し、二人に投げ渡す……
レッドキャラコ・ブラザーズ頭目、
「ビッグアーノルドJr. 」懸賞金 5万G
レッドキャラコ・ブラザーズ幹部、
「スクリューキング 」懸賞金4万G
「自分の
「こ、殺せ!」
アーノルドの指示を受けたスクリューキングが鉄仮面の男に殴りかかる!男はパンチを正面から受け止めるが、そのまま壁を突き破って吹き飛ぶ!
「……ここなら積荷に気兼ねなく遊べる。」
男はコートに付着した砂を落とし、帽子の位置を調整した。
「この野郎オォォ!!」
スクリューキングはガントレットを打ち鳴らし、両腕に突風を纏わせる!
「死ね!」
大振りのテレフォンパンチで地面が抉れ、
砂嵐が巻き起こったが、男の姿はない……
「上だ」
トゥームストーンは枯れ木の枝に飛び乗ると重金属製ワイヤーを束ねた首吊り縄を投擲、スクリューキングの首に引っ掛ける!
「イデェェッ!?」
彼の首吊り縄には途中で抜けられないよう、有刺鉄線めいた無数の「返し」が付いている……例え相手がバッファローだろうと逃れる事は出来ない。
「……死ね」
男は首吊り縄を手繰り寄せ、スクリューキングの首を瓢箪のように締め上げた!
ギリギリギリギリギリ……!
「アガ、アアァ!アァッ……」
喉から大量の血を流すうちにスクリューキングの丸太のような手足からは力が抜け、目から光が消えていった。
「ひ、ひいぃ!?」
バァンッ!!
男は弟分を置いて逃げ出したアーノルドに向かって発砲、背後から両膝を撃ち抜く!
「言い残した事は?」
「た、助けてくれ……金ならやる!アジトにざっと10万Gはあるんだ、それに見逃してくれるなら毎月1万ずつアンタに払おう、な?」
ズドォンッ!!
「……愚問だったか。」
男は死体を革袋に詰めて馬車に放り込むと、中の積荷をほとんど降ろして岩の下に埋めた。
「行け……」
「キュォォォォ!」
彼が地平線の先の小さな街を指差すと、
不気味な馬は甲高く嘶いて走り出す……
ー数時間後ー
砂漠を暫く歩いていると「BAD’S DEN」と書かれた風変わりな看板が目に入った……サルーンと呼ばれる総合施設の一種だ。
男は馬から降りると、用心棒に話しかけた。
「申し訳ない、グリフォンの羽ペンを1ダース頂けないだろうか。」
用心棒は無地の黒い巻物を開くと、そこに
赤い蝙蝠の紋章と文字の羅列が浮かび上がった……
「トゥームストーン様ですね、こちらへ。」
用心棒は男を貨物運搬用の大型エレベーターへと案内し、馬車を乗せてから地下行きのスイッチを押す。
\チーン/
エレベーターの扉が開くと、広大な地下空間が二人の眼前に広がる……「BAD’S DEN」は単なるサルーンではない。その実態はブラックマーケットや闇カジノ、暗黒闘技場が一体となった非合法施設なのだ。
「代替品じゃない本物のエルフブラッドが1リットルたったの銀貨1枚、10リットルで2割引きの銀貨8枚だ!買った買った!」
その証拠に、彼の行きつけの闇診療所ではさも当然のように出所不明の血液バッグや未認可の薬剤、得体の知れぬ廃棄食品が安値で大量に売られている……
「久しぶりだな
「旦那、今日のは格別よ!菜食主義者の血液ですから雑味がないし、何より病院から直送されて来たので超安全で超新鮮!」
顔馴染みの吸血鬼がトゥームストーンを呼び止め、血の入ったショットグラスを差し出す。
「随分と安いな、病原菌や混ぜ物もない……特に質が悪いとは思えないが。」
「それが、保存タンクの故障で人間の血がほんの少し混じったらしいね……そんなもの身体に入れるなら死んだ方がマシだーって。酷い話でしょ?」
紫蝶は呆れた様子でトゥームストーンの疑問に答えた……彼女は合理主義者の為、因習に縛られる事を何よりも嫌っている。
エルフと人間は生物学的な近縁種であり、輸血や臓器の移植もほとんど問題なく行える。しかし、過去に何度も対立して来た両者の関係は冷え切って久しいのだ。
「30本くれ、送り先はいつもの場所に。そのうち2本は今すぐ貰おうか。」
「じゃあ24枚……旦那なら20枚でいいよ、どうせ病院から金貰って引き取ったものだ。」
「いつも悪いな、また頼む。」
「謝々!」
紫蝶に銀貨を手渡すと、トゥームストーンはその足で娼館に向かう……美女や美少年が目当てではない。彼にとって、他者の肉体とは愛でるものではなく破壊するものだ。
「邪魔するぞ、フィクサー。」
「Mr.トゥームストーン……来る頃だと思っていたわ。」
玉座めいたソファに座った、大柄かつ中性的な人物がトゥームストーンを出迎える……彼もしくは彼女こそ、この「BAD’S DEN」を仕切る元Sランク冒険者、”フィクサー”であった。
「……土産だ。」
トゥームストーンは二つの革袋を取り出し、フィクサーに投げ渡す。
「あら、もう
「もう一つある、残念ながら
トゥームストーンが手を叩くと、フィクサーの部下が2メートル程度の檻を何個か運んで来た……
「……ッ!」
「暴れて死なれても困るので薬で眠らせているが……下手な動物園よりも見応えがある筈だ。」
中には焼印が刻まれた様々な希少種族の子供が乱雑に詰め込まれており、この場にいる全員が顔を曇らせる。
「マカイロドゥス種の獣人に、アルビノのハイエルフ……こっちはトキの鳥人とツチノコの蛇人、今の相場なら一匹売り払うだけでも50万Gは下らない。」
フィクサーは神妙な面持ちで彼らを見つめ、
静かに頷いた。
「任せて、私の縄張りで命に値札はつけさせないわ……この子たちの命と私の面子を守ってくれてありがとう。」
「この街の協力があってこその成果だ。しかし、最近は西部も金鉱やら鉄道やらで騒がしく……」
差し出されたコーヒーをマスクの隙間から飲み、銃の手入れをしながらトゥームストーンが口を開いた瞬間だった……
「フィクさん……大変です!」
慌てた様子でフィクサーの部下がドアを開く……大きく負傷しており、歩くのも困難な様子だ。
「ジェイド君、一体どうしたの!?」
「サツだ、しかもただのサツじゃない……自治領の軍警察がこっちに……部隊には手練れの冒険者もいる、奴等本気だぜ!」
「憲兵ではなく軍警察だと!?不可侵条約はどうなっている!伺いも立てず踏み込んで来るとは……戦争になるぞ!」
「あぁ、その場にいたクラウザー将軍とジャックがブチ切れてありったけの兵隊をかき集めてる……早く加勢するべきです!」
「いや待て……フィクサー、急いで二人に待機命令を!まずは俺が出る。」
トゥームストーンは頭巾の上から鉄仮面を装着、ブーツに仕込んだ大型ナイフを腰のベルトに移してリボルバーに鉄鋼弾を詰めた。
「やる気?私も腕が鳴るわね……!」
しかし、トゥームストーンはフィクサーを遮った。
「私が出よう、切り札は温存すべきだ。」
「ちょっと!?」
「戦力面で見れば、確かに貴女やクラウザー達がいた方が遥かに良いだろう……しかし貴女は組織のトップ、指導者が宣戦布告に応じれば戦争になる。」
「そりゃ分かるけど、じゃあせめて援軍くらい」
「それに、こちらの数が揃えば向こうは言い掛かりをつけて来るかも知れん……だが、たった一人なら話は別だ……単なる襲撃事件で終わる。」
トゥームストーンの目が一瞬にして激しい殺気を帯び、フィクサーを威圧した。
「これだから若い子は……止めても無駄みたいね。」
「不満か?」
「……派手に暴れて来なさい。」
「感謝する。」
トゥームストーンは帽子を傾けて礼をすると、血液バッグを半分ほど飲み干して娼館を後にした……
ー数分後ー
「控えよ下郎ども、上院議員直々のご命令だ!逆らうものは容赦なく逮捕する!」
黒い軍服を着たスノーエルフの女性が拡声器を片手に怒鳴り、その背後を何人もの警官が従者めいて守る……既に三人もの市民が逮捕されており、彼らに逆らう者はいないと思われた。
「Amazing grace how sweet the sound……」
「誰だ!?」
どこからか讃美歌が聞こえて来る……この緊迫した状況下で、誰にも遠慮せず歌っている者がいるのだ。警官隊は一斉に盾を構え、警戒体制に入る。
「That saved a wretch like me……I once was lost but now I am found……」
「誰が歌っている!?」
「Was blind, but now I see……俺だ。」
娼館まで一直線に行進する重武装警官隊の前に、一人の男が立ち塞がった。
「ご清聴どうもありがとう。」
「貴様……何が目的だ?」
「この歌は友人から教えて貰ったが、本来は葬式で故人を偲ぶ時に歌うものらしい……」
「質問に答えr」
バァンッ!!
盾の覗き穴から弾丸が撃ち込まれ、警官の一人が脳漿を撒き散らして倒れる。
「質問には答えた、お前達を殺す。」
「死刑だ、早急に捕らえよ!」
彼の目の前にいた重装兵が鋼鉄警棒を軽々と振り降ろす!
「フン!」
トゥームストーンは回し蹴りで枝のように警棒をへし折り、ガラ空きになった胴にゼロ距離射撃!
「もういい撃て!この場で射殺しろ!」
バシュン!バシュン!
堅牢な陣形から小型クロスボウの三段撃ちが繰り出される!特殊部隊仕様のミスリル製ボルトは金属鎧すら容易く貫く威力、当たれば吸血鬼とて無視出来ぬダメージを負う!
「シャアッ!!」
蛇めいた呼吸音を発すると、撃ち出されたボルトと地下街の建物を足場代わりに蹴って移動し、敵陣に接近!
「
ズドドドドドォン!!
二挺拳銃を抜いて12発の早撃ちを繰り出し、ヘッドショットを食らった数名が即死!
「このっ!」
リロードの隙を狙って着地地点で待機していた優秀な兵士が剣を抜くが、大型ナイフで喉を裂かれて倒れる。
「これが次世代の特殊部隊……落ちたものよ。」
「馬鹿な、我が精鋭が一瞬で……!」
「この程度で精鋭だと?笑わせるな……戦時中の奴等なら5人1組で並以上の冒険者とも渡り合えたぞ!」
トゥームストーンは一瞬でリロードを済ませ、怒りと哀れみが入り混じった目で軍服姿の女を睨む。
「あぁ……そうだな。」
女は地位に見合わぬ質素な装飾のサーベルを抜き、先端をトゥームストーンに向けた。
「行け、撤退しろ……」
「し、しかし、それでは少尉が」
ズドドドォンッ!!
「ッ!?」
「次は肺に当てる。」
トゥームストーンの放った弾丸が全員の頬をギリギリで掠め、兵士たちは青ざめた。
「早く逃げろ馬鹿者!私の腕を疑うのか!?」
「……はっ!」
兵士達は屈辱に顔を歪めつつ、彼女の命令通り撤退した……トゥームストーンが銃を向ける事はない。
「この俺が標的を撃ち漏らすか……湿気のせいか関節の調子が悪いようだ。」
トゥームストーンは手早くリロードし、銃をホルスターに戻す……その目には先程のような軽蔑はもうなかった。
「……我が名はエデレーン・グラズノフ。コードネームはストレイド、階級は少尉!先程の温情痛み入った!願わくば武人として貴殿に一騎討ちを申し込みたい!」
「……トゥームストーンだ、悪いが本名は捨てた。」
「では、いざ尋常に……」
両者は互いに背中を向けて充分な距離を取り、同時に構える。
「「勝負!」」
ギイィンッ!!
次の瞬間、薄暗い街を火花が照らす!先に仕掛けたのはストレイド!超遠距離からサーベルを横に振って真空波を飛ばし、これを跳躍で回避したトゥームストーンに上段から斬りかかった!
しかし相手はこの程度で不覚を取る程の使い手ではない!壁を足場にした変則的なステップで斬撃を躱し、そのまま壁面を走ってリボルバーを乱射!
ズドドドドドドドドォッ!!
周囲の街灯やネオン管が破壊され、辺りが完全な暗闇と化す!
「しまった、最初からこれが狙いで……」
「そこだ!」
蹴りが脇腹にクリーンヒットし、ストレイドの身体が吹き飛んで壁に減り込む!
(痛い……だが声を出す訳には……!)
トゥームストーンは殺気を抑え、音もなく彼女の辺りを高速で駆け回っている……プロの暗殺者でも簡単には真似の出来ない芸当だ。
(視覚と聴覚は使い物にならない。ならば!)
ストレイドは身を屈めて素早く移動し、噴水の影に隠れた……呼吸音や心臓の鼓動を水音がかき消し、装飾は遮蔽物にもなり得る。
ズドォンッ!!
ストレイドから数メートル離れた箇所に弾丸が埋まる。トゥームストーンは彼女を見失ったのか?
「何をするつもりだ!」
否、彼は火薬の炸裂による光と発砲音の反響で敵の正確な位置を特定したのだ!その間僅か3秒!しかし、冒険者同士の戦闘ではその3秒が命取りとなる!
(ならば獣となり、暗闇に適応するまで!)
「
ストレイドのシルエットが一瞬にして巨大な黒い
「!」
「こうするつもりだ……食らえ!」
膂力に任せて蹴りを跳ね返し、鋭い爪を高速で振り回す!彼女が一撃繰り出す度に真空波が発生し、彼のコートを切り裂いた。
ズドドドォッ!
「フン、痒いわァ!」
トゥームストーンは早撃ちを繰り出すが、魔犬の硬い皮膚と分厚い脂肪に阻まれて致命傷にはならない。ストレイドの一撃が彼の肩を抉り、黒ずんだ血がコートに滲む。
「確かに強い。だが、これ程の力を持っていながら下衆に尻尾を振るとはな……変身対象が犬な訳だ。」
ズドォッ!!
「ぐっ……!」
至近距離から放たれた早撃ちが同一箇所に命中し、ストレイドは激痛で嗚咽を漏らす。
「貴殿も兵士であったなら分かるだろう……上に歯向かえば待っているのは死だ!二度も仲間を失う痛みに、私は耐えられぬ!」
「よく躾けられた犬には餌をくれてやる。」
トゥームストーンは懐からダイナマイトの束を取り出し、自分の右腕ごとストレイドに食わせた!
「おすわり」
バアァンッ!!
ダイナマイトの炸裂によって内臓に重篤なダメージを負ったストレイドは膝をつき、負傷が蓄積していたトゥームストーンも肩で息をしている状態だ。
「見事…だ……トゥームストーン……かつて、13師団最強の、兵士を……最後の、生き残りを、亡霊を打ち倒した……英雄よ……」
ストレイドはふらふらと立ち上がり、夥しい量の血を吐きながら彼を賞賛する。
「俺は英雄ではない……同じ亡霊だ。」
「妙な……感覚だ……あれだけ死を恐れていた筈なのに、死にゆく今は高揚感すら感じる……」
トゥームストーンはもう一度血を吐いて倒れそうになった彼女を反射的に支えた。
「トゥームストーンさん、大丈夫っスか!?」
「この女、よくも旦那を……殺してやる!」
「待て、早まるな!」
クラウザーとジェイドが武器を持って駆けつけるが、トゥームストーンは彼らを止める。
「22年式暗号は解るか……貴殿に……頼みたい事がある。」
「……あぁ。」
「コートの裏側にある隠しポケット……ジョンソン議員からの司令書と、不正の証拠が入っている……貴方が信頼出来る者に……預けて欲しい…」
「分かった。」
「ありがとう……私も、貴方のような仲間が欲しかった……」
「俺もです、エデレーン少尉……」
バァンッ!!
エデレーンは安らかな顔で眠りについた。
トゥームストーンは左腕で口元の血を拭ってやり、彼女を自分の馬車に乗せる……
「何処に連れて行くつもりだ?」
「……仲間の所へ連れて行く。」
ー数日後ー
「……うっ!」
頭が痛い。身体がベタベタする、腹が減った……どれだけの時間、眠っていたのだろう。
「やったぜ、少尉が起きた!」
まだ少年と呼んで差し支えない、若い兵士がベッドの上の彼女に駆け寄って来る。
「なぜまだ生きてる……?」
「それが不思議なもんで、少尉に撃ち込まれた弾丸が奇跡的に脳と心臓の出血や損傷を食い止めてたんですよ!」
「……そうか。」
「しかし運のない男でしたね!少尉を道連れにする筈だった自分の弾丸が敵を活かしちまったんですから……希少種族の誘拐なんて企てたからバチが当たったに違いない!」
「フッ……そうだな。」
エデレーンは水を口に含み、テーブルにあった新聞を広げる。
「さて……眠っている間、彼はどんな働きを」
新聞の見出しが目に入った瞬間、彼女は口に入った水をベッドの上に全てぶち撒けた。
ジョンソン議員緊急逮捕!Sランク冒険者の奇襲攻撃に成す術無し、情報提供者は不明
「……全く恐ろしい奴がいたものだ、我々も負けていられないな。」
「少尉!司令書の件でキャンプに記者が押し寄せてます、追い返した方がよろしいですかね?」
「いや構わん、全員通せ!」
エデレーンは軍服に袖を通し、いつものように拡声器を持ってテントから出る……亡霊が蘇った瞬間だった。
ー完ー
おまけ: 新聞記事の続き
昨日午後8時、自治領政府は威力部門のジョンソン・コープランド元上院議員(62)がSランク冒険者「スワッシュバックラー」様によって拘束、身柄を憲兵に引き渡された後に逮捕されていた事を発表した。
ジョンソン容疑者には希少種族保護法違反や収賄など12の嫌疑がかけられており、隣国デミゴルゴアの視察中に複数人から襲撃を受けて拘束されたとの事。
また、拘束に踏み切ったスワッシュバックラー様に話を伺った所、衝撃的な回答が飛び出した。
Q. 情報をリークされた経緯は?
「夜6時くらいに起きたら、家のテーブルに不正の証拠とか犯人のスケジュールが全部置いてあって……でも鍵は全部閉まってる。不気味というよりは手際に感動したかな。」
Q. 突入の流れを教えて下さい。
「犯人は家の三階で奴隷と一緒にいた筈……かなり油断してたので、奴隷にテレパシーで合図して。人質にされない距離まで離れて貰ったあと剣でドアを斬って、いつもの三人で突入。」
Q. 何者かに不法侵入された訳ですが、訴訟や犯人探しをする予定は?
「絶対にしない。恩を仇で返す事になるし、また来たら騎士団でスカウトするつもりなので。」
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