第15話

 関係はいつ崩れはじめるのだろう。僕とKの友好は気づいたときにはボロボロと穴だらけだった。

 Kの大学の卒業まで僕らに何もなかったとは言わない。たとえばKは一年休学して自分探しのようなことをしたし、僕にも就活と就職という人生の大イベントがあった。それでもふたりの関係という意味ではそれほど重大なものはなかったと思う。いやもしかしたらあったのかもしれない。ふたりにかかった橋の、誰も気づけないひび割れが。

 そのひびの酷さは急に露わになった。僕らはしばらくあまり直接会えず、そのかわり通話やメッセージで連絡をとりあっていた。そして僕が社会人に慣れ、彼もまた社会人に成れたころ、彼は大事な話があるといって僕を飲みに誘った。

 話は、Kが会社を辞めて小説家を目指すというものだった、まだ彼が入社して三か月も経たないころ。

 僕は素直に応援した。いや素直だったかはわからない、どちらかというと困惑の色のほうが強かったかもしれない。だって誰でもそうじゃないか、いきなり友人が仕事もろくに続けずに小説家になりたいなんて言い出したら。実は彼が小説好きで執筆もしていたことを僕は知っていたが、しかしどれも趣味レベルだと思っていた。小説家という言葉は何とも画面越しの響きがある。その液晶を超えるには一握りの才能しか許されない。

 僕は話のうちに、なぜ仕事をつづけながら小説を書かないかを訊いた。だってそうじゃないか、才能を秤にかけるのはいいけど駄目だったときはどうするのだろう。

 彼はいくつか理由を述べた。それはたしからしいがどれも根幹ではないような気がした。事実だがクリティカルでない。しかしそれで僕は訊くのをやめた。深堀りはしなかった。結局彼の人生で、たぶん僕が何か言うべきものでもなかった。

 そのころくらいからだろうか、Kは変わっていった。いや変わったのはむしろ僕で、僕はいわゆる普通の、大人的な道を歩んでいたからだろうか。僕らは頻繁に会うわけではなかったがそれでも僕らは二か月に一度ほどは直接会った(僕らはそのとき互いに地元にもどっていた)。そしてそのたびに僕には苛立つことが増えた。どうしてもKの振る舞いに違和感を抱くようになっていた。昔、曲りなりにもリスペクトしていたKがただ怯えた、社会不適合者にしか見えなくなった。いやある意味これは実際僕だけのせいではないだろう。Kは明白にたどたどしかった。

 僕には彼がそのたどたどしさを自認し、それをめいいっぱい隠そうとするのが手に取るようにわかった。隠そうとするのが人にわかるということは、その隠匿に失敗しているということで、実際彼は空回りしていた。店の予約はしたけど道に迷うとかそんな感じだ。あるころの頭のキレを彼は失ったようだった。人にぶつかったり、道行く人の邪魔になったりすることも多々あった。

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