第14話

 内容を覚えていたぶん、目覚めは前ほど悪くなかった。結局原因のわからない不機嫌よりそうでないほうが解決しやすい。とくに今朝は彼女が朝食をつくってくれたからそれだけで気持ちは持ち直せた。

 彼女はスクランブルエッグをつくってくれていた。いつも僕がつくるのとおなじメニューだが作り手が変わると味もちがった。僕はときおり食べる彼女のスクランブルエッグと焼きたてのパンが好きだった。

 僕は彼女に礼を言った。彼女は微笑んでこう返した。

「いいの。今日は大事な日でしょ。貴方が私と付き合うことでKさんとの時間をうばったところもあると思うからそのお詫び」

「そんなことないよ」

 と僕は言った。「それに」

「それに僕とKは君と付き合う前から関係が崩れかけていたんだ。いま考えるとね」

「そうなの? よく話に出てなかったっけ、彼」

「いま考えると、だよ。まあ暗い話はよそうよ、はやく食べたいな」

 結局、彼女は僕に連いてこなかった。説得したが、彼女はもうすでに女友達と予定しているらしかった。僕は仕方なく一人で彼のいたところへ訪れた。

 彼の住んでいた実家はここから車で三十分もかからないところにあった。それははじめて知ったことだ。僕は彼の実家まで彼を送ったことはあったがこれほど近い距離という記憶がなかった。

 そういえばKが車を運転するのを僕はほとんど見たことがない。Kは僕よりはやく免許をとったくせに頑ななペーパードライバーだった。Kは運転のときの細かく素早い判断が苦手だと言った。僕は慣れれば大丈夫だとそう返した。

 Kの家は仔細な部分に目をつむれば彼が住んでいたときと変わりがなかった。といっても僕はその家のなかに入ったことがない。そもそも僕は彼の家に入りたいと思ったこともなかった。実家ということは両親がいるわけで、わざわざ人の親に気をつかいたくはなかった。

 三階建ての家、たしかここの一階はKの父親の事務所で、Kは外階段を上り二階から帰宅したのを覚えている。僕はその記憶にならって二階に上った。チャイムを押す、しばらくして人が玄関に歩み寄る音が聴こえた。僕はおどろいた。表札がなかったから、てっきり誰もいないのだと思っていた。Kの両親はもう他界しているという話を聞いていた。

 鍵を開けたのは僕が想像していたよりもっと若い人だった。若い、といっても僕より年上で、もう四十代にさしかかったような男だった。僕はここに来た経緯を語り、男はKの従兄であることを名乗った。

「あがっていきますか」

 そう言われて僕はKの部屋に向かった。

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