第11話 男禁エリア
『2人共、そこから先が『男禁エリア』だよ』
イヤホン越しにセナが言う。
どうやら見えない壁に辿り着いたらしい。
アヤカはカメラの方を見て、
「視聴者の皆、見えてる? ここから先が『男禁エリア』になるみたい」
〈見えてるよ~〉
〈そこに見えない壁があるはずだよね〉
〈彼氏さん本当に入れるのか?〉
〈噂の真相や如何に!?〉
コメント欄から伝わってくる、”本当に男が『男禁エリア』に入れるのか?”という期待と不安。
でもさ、
「ここ……普通に入ったことあるぞ」
俺は足を踏み出す。
そして何事もなく、スタスタと歩を進めた。
当然、見えない壁になどぶつからない。
〈おおおおお!〉
〈マジで男禁エリアに入れるんだ!?〉
〈凄い!〉
〈歴史的な瞬間だろこれ!〉
視聴者たちは大盛り上がり。
歓喜や驚愕のコメントがブワーッと流れていく。
よっぽど凄いことなんだな……。
俺としてはただ歩いただけなんだけどさ。
アヤカはニッコニコの笑顔で、
「見た!? 見た!? 私の彼氏、本当に『男禁エリア』に入れちゃうんだよ!」
〈見た!〉
〈マジで世界に1人の逸材やん!〉
〈噂は本当だったんだ!〉
〈ダイモス・ギルドの者です。お2人でぜひウチに来ませんか?〉
〈プロテウス・ギルド。ウチなら年俸1億出す〉
次々と書かれる勧誘のコメント。
中には、俺でも知ってる大手ギルドの名前もある。
しかし――
「悪いが、俺はギルドに所属する気はないんだ」
セナは”効率悪い”って言ってたし。
少なくともしばらくの間は個人勢としてやっていくつもりだ。
あ、でもアヤカの考えをまだ聞いてないな。
「アヤカはどう思ってる?」
「わ、私はソウタが断るなら一緒に断るわよ! 彼女なんだから!」
「そういうことだ。すまないけど、2人きりの時間を漫喫させてくれ」
「ふぇっ……!?」
こう言っておいた方が彼氏っぽいよな――?
そう思っての発言だったが……アヤカはだいぶ気が動転したご様子。
「ふ、2人っきりの時間……な、なんて甘美な響き……!」
「ア、アヤカ……?」
「そうだよね、2人きりなんだもんね。ならどんな放送事故が起きても……それで既成事実を作って……えへへへ……」
「あの~、アヤカさん……?」
〈本当にこのバカップルはよぉ……〉
〈もう殴る壁がなくなりそう〉
〈いっそ世界で2人だけになれ〉
〈砂糖吐いていいすか?〉
『お義兄ちゃん、すぐにアヤカさんの妄想を止めて。でないと私、駅のホームに身を投げるから』
「セナ!? 待て、早まるな!」
コメントとセナの脅迫でしっちゃかめっちゃかになりつつ、俺たちは『男禁エリア』の中を進んでいく。
勿論、アヤカを正気に戻した上で。
〈彼氏さんの戦い観たい~〉
〈そろそろモンスターと出会わないかな?〉
〈そういやまだ遭遇してないね〉
「……皆も気付いたか? なんだか今日は、ダンジョンが妙に静かなんだよな」
――そうなのだ。
どういうワケか、『池袋ダンジョン』に入ってから一度もモンスターに遭遇していない。
大抵の場合、雑魚共が襲い掛かってくるんだけど……。
〈池袋ダンジョンの男禁エリアもSランク相当で有名だよな~〉
〈そういや最近、池袋ダンジョンで行方不明者が続出してるらしいよ〉
――ふと、そんなコメントが目に止まる。
「え? そうなのか?」
〈男禁エリアに入った女性パーティが失踪してるとか〉
〈まだ見つかってないんだっけ?〉
……へえ、知らなかった。
一応注意しといた方がいいかな?
〈また彼氏がアヤカちゃんを救うシーンが観れるか?〉
〈楽しみ~〉
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次話は本日の13時頃に投稿予定です。
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