第5話 義妹のやきもち


「……アヤカの奴、大丈夫かなぁ」


 カップル配信を終えた、ダンジョンからの帰り道。


 俺はアヤカをおんぶして家まで送り届け、その後で自宅に向かっていた。


 アヤカとは幼稚園の頃から一緒だけど、互いの家はちょっと離れてる。


 だから俺が自宅に着く頃には、空はすっかり夕暮れ時になっていた。


「ま、腰抜かしただけなら明日には元気になってるだろ」


 結局カップル配信はうやむやになってしまったが、視聴者はかなり集まったっぽいし。


 アヤカとしても満足な結果だろう。


 ――おっと、そういえば家に帰るんだから身なりを直しておかないと。


 分けた前髪を垂らして、マスクを外してっと……これでいつも通り。


 アイツ・・・に怪しまれることもないだろう。


 そして俺は自宅であるアパートに到着し、部屋の玄関を開ける。


「ただいまー」


「……おかえり、お義兄ちゃん」


 すると、1人の少女が出迎えてくれた。


 この子は藤堂とうどうセナ。

 俺の妹であり同居人だ。


 ……まあ、妹と言っても血の繋がりはない義妹なんだが。


「お腹空いたかセナ? すぐにご飯作ってやるからな」


「うん、楽しみ」


 コクリと頷くセナ。


 彼女の年齢は俺の3つ下で、まだ中学生。


 背が低くて髪がとても長く、自慢じゃないがかなり可愛い容姿をした妹だと思う。


 ちょっと無表情で、常にトロンと据わった目をしてるのが玉に傷だが。


「……ねえ、お義兄ちゃん」


「ん~、なんだ?」


「今日はどこ行ってたの?」


「どこって、ダンジョンだけど?」


「……誰と?」


 ――ギクリ。


「こ、高校の男友達とだよ。どうしても付き合ってくれって言われてさ」


「ふーん……」


 ……ヤバい、めっちゃグイグイ見てくる。


 昔からそうなんだが、セナはなんというか、少し嫉妬深い。


 かなり幼い頃に再婚した両親が他界し、義理の兄として男手一つで育ててきたからか、俺に依存しがち。


 俺が男友達と遊ぶのにもいい顔しないし、女性となんて会話することさえ嫌がる。


 まあ、俺が頻繁に話す女性なんてアヤカしかいないんだけど……。


「嘘」


「へ?」


「お義兄ちゃん、アヤカさんとダンジョン行ってた。しかもカップル配信してた」


「!? ど、どうして知って……!?」


「お義兄ちゃん、ネットで話題になってる」


 そう言って、セナは俺にスマホの画面を見せてくる。


 すると――SNSのタイムラインに、俺がロック・ドラゴンと戦う光景が大量に載せられていたのである。


「んなっ……なんだこりゃ!?」


「”カップル配信者が『男禁エリア』内にてロック・ドラゴンを単独撃破”だって。もう世界中で話題になってる」


 ――嘘だろ?

 あの岩トカゲを倒したくらいで?


 っていうか、本当にあそこって『男禁エリア』だったのか……。


 これまで何度もソロで『渋谷ダンジョン』に入ってたのに、全然気が付かなかった。


「……お義兄ちゃん、アヤカさんと付き合ってたんだ……。私、捨てられちゃうんだ……シクシク」


「す、捨てるワケないだろう!セナは俺の大事な義妹だ!」


 俺はセナの肩を掴み、


「それにカップル配信なんて、アヤカに頼まれて仕方なく偽の彼氏を演じただけだ。本当に付き合ってるワケじゃない」


「本当……?」


「ああ、本当だ」


「それじゃあチューして」


「なんで!?」


「本当にアヤカさんと付き合ってないなら、私にチューできるはず」


「義兄妹はチューなんてしません!」


「チッ……」


 残念そうに小さく舌打ちするセナ。

 

 人に向かって舌打ちとかしちゃ駄目だぞ?


 だがそんなマナーの悪さも可愛いと思ってしまう。

 だって大事な義妹だもの。

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