第6話 カップル配信をやるべき
「それにしてもお義兄ちゃん、『男禁エリア』に入れたんだ。驚き」
「俺も知らなかったよ。今までダンジョン内で弾かれたことなくて、不思議だとは思ってたけど」
「今、いろんなギルドがお義兄ちゃんのこと探してる」
「ギルドかぁ……」
正直、これまでもギルド所属は考えたことがある。
ソロでダンジョンに潜るより、収益が安定するはずだからな。
だけどギルドに入ればノルマとか残業とか色々発生しそうだからさ。
セナを1人にさせる時間が長くなりそうで、積極的になれなかったんだよな。
セナは家事全般が壊滅的に下手だし。
「お義兄ちゃん、ギルドは駄目」
「え? なんで?」
「お義兄ちゃんは私のもの。色目なんて使わせない」
「あのな……」
「それに非効率」
「え――?」
「お義兄ちゃん、今とってもバズってる。ネットの人気者。それなら配信者をやるべき」
「俺が――配信者――?」
……考えたことなかった。
俺にとって、ダンジョンはあくまでアイテムや素材を集めて生活費を稼ぐための場所。
エンタメとして配信が流行っているのは勿論知ってたけど、自分でやろうと思ったことはない。
「『男禁エリア』に入れる男性探索者なんて他にいない。唯一無二の強み」
「それは、そうかもだが……」
「絶対に人気配信者になれる。広告収入でお金もたくさん」
「で、でも配信者とか、なにをやればいいかわからないしなぁ……」
「大丈夫、私がプロデューサー代わりになってあげる」
「セナが?」
こう見えて、セナはかなりのネットギーク。
ネットコンテンツに関して非常に詳しく、情報収集の能力も高い。
加えて最近は株式投資やらFXやら仮想通貨やらも始めて、「高校生になったら起業してみたい」なんて言ってたりもするし。
俺と違って賢いから、パソコンかスマホさえあればお金が稼げちゃうのかもな。
「うーん、ちょっと考えさせてくれ……」
「……それと、アヤカさんとのカップル配信も続けるべき」
「…………は?」
「勘違いしないで。あくまで偽の彼氏として続けてと言ってる」
セナは僅かに眉をひそめ、いつも無表情な顔をむすっとさせる。
「……今は普通の配信より、カップル配信の方が人気なのは事実。それにアヤカさんは悪い人じゃない。他の女と一緒に配信するくらいなら、アヤカさんがいい」
――セナとアヤカは顔見知りだ。
昔から、俺と一緒によくセナの面倒を看ていた。
そのため人見知りでやきもち焼きなセナでも、アヤカにだけは比較的柔和になる。
今でこそ「アヤカさん」なんてよそよそしく呼ぶが、昔は「アヤカお姉ちゃん」って呼んでたくらいだ。
「セナ……」
「本当なら、私がダンジョンに行ければいいのに……」
セナは身体があまり強くない。
体調を崩すことも多く、医者からは基本的に屋内で過ごすことを推奨されている。
ダンジョンに入るなど以ての外なのだ。
「気にするな。誰だって得手不得手はあるんだから」
俺は彼女の頭にポンと手を乗せ、撫でてあげる。
「わかった。明日アヤカと相談してみる」
「うん、それがいい。でも――ひとつ注意」
「ん? なんだ?」
「もし”偽”じゃなくて、本当にアヤカさんと付き合ったりしたら……私、高層ビルの屋上から紐なしバンジージャンプしてやるから」
――怖い。
なにその自〇宣言。
勘弁してくれよ。
「……わかった、注意する。だから早まらないでくれ」
「ん、わかればオッケー」
「ところで晩飯はなにがいい? シャワー浴びたらすぐ作るから」
「お義兄ちゃんが作ってくれるなら、なんでもいい。それとお風呂なら一緒に入る」
「駄目です」
「駄目じゃない。家族なんだから一緒に入るのは普通」
「もう中学生なんだから1人で入りなさい」
俺は一緒に風呂場へ向かおうとするセナを押し留め、シャワーを浴びて晩飯の用意を始めるのだった。
やれやれ……まだまだ手間のかかる、可愛い義妹め。
よし、今夜はセナが好きなチャーハンにしてやるか。
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