第9話 羞恥
「視聴者の皆さん、『S×Aチャンネル』へようこそ! 私は三枝アヤカです!」
ドローンのカメラに向かって可愛らしく挨拶するアヤカ。
すると、すぐに視聴者のコメントが流れ始める。
〈アヤカちゃん乙!〉
〈配信待ってた!〉
〈初見です〉
〈切り抜きから来ました〉
〈新チャンネルでの初配信、楽しみ!〉
〈SNSでこっちメインになるって見たから、引っ越ししてきたよ〉
「あ、アヤカのチャンネルからお引越ししてくれた人もいるね。ありがと!」
明るく手を振るアヤカ。
俺たちの『S×Aチャンネル』は、これが正真正銘の初配信。
だというのに、チャンネル登録者数が30000人を超えている。
アヤカのチャンネルから来てくれた視聴者も一定数いるようだが、それにしても多い。
この配信も既に10000人を超える人が訪れている。
……俺たち、もうそんな多くの人に観られてんのか。
怖いわぁ。
「これからは、このチャンネルでカップル配信をしていくつもりなんだ。そういうことで――」
アヤカは俺の袖を掴み、カメラの前まで引っ張り出す。
「じゃーん! 私の彼氏にして、このチャンネルの主役をご紹介!」
「ど、どうも。藤堂ソウタです……」
以前と同じく前髪を分け、マスクで顔を隠す俺。
だがそんな俺がカメラに映った瞬間、
〈きた!彼氏きた!〉
〈化け物彼氏!〉
〈アンタを見たかったんだよ!〉
〈またロック・ドラゴンのソロ討伐を観せてくれ!〉
もの凄い勢いでコメント流れ出す。
どうも視聴者のほぼ全員が俺のことを知っているらしい。
有名人にでもなった気分だ。
いやまあ、配信がバズったせいで実際に有名になってしまったんだが。
にしても――
〈イケメン!〉
〈ファンサして!〉
〈結婚してソウタ様!〉
〈は?お義兄ちゃんは渡さない。BANするよ〉
……なんか、ちょくちょくガチ恋勢みたいなコメントが混ざってる気がする。
カップル配信してる男に”結婚して!”とかヤバくないか……?
しかも明らかにセナがコメント欄を見張ってるし。
ドローン操縦しつつコメントまで書き込むとこ、我が義妹ながら器用だなぁ。
でもコメントでまで”お義兄ちゃん”って呼ぶの止めてほしい。
身バレになるから。
後で注意しとこう。
「その、あんまり配信とか慣れてないですけど、頑張ってカップル配信してくつもりなんで……よろしくお願いします」
〈クソ強いのに腰低いな〉
〈好印象〉
〈謙虚な化け物とか無敵か?〉
「よ、よし! それじゃあさっそくダンジョンに潜っていこうか、アヤカ!」
「そ、そうね! いざ『池袋ダンジョン』へ!」
緊張で若干動きがカチコチになりつつ、俺とアヤカはダンジョンへと入って行く。
すると、
『――お義兄ちゃん、聞こえる?』
耳に付けたワイヤレスイヤホンから、セナの声が聞こえる。
俺は小声で応答し、
「ああ、どうしたセナ?」
『お義兄ちゃん、アヤカさんとの距離が離れすぎ。恋人らしくない』
「え? そ、そうか?」
『アヤカさんも聞こえてるでしょ? もっと近付いて』
「ち、近付くって……これくらい?」
『もっと。そのままじゃ、本当にカップルなのか疑われちゃう』
「うぅ~……こ、こうかな……?」
アヤカは顔を赤くしながら、俺の腕に自らの腕を絡める。
――距離感、ゼロ。
俺とアヤカの身体はピッタリとくっ付き、互いの体温がわかるほどになる。
まるで街を歩くバカップルにでもなった気分だ。
『…………ごめん、やっぱり離れて。見てたらムカついてきた』
どことなく怒りに震えた声で前言撤回するセナ。
いや、もうどうしろと……?
しかしそんなセナとは対照的に、
〈お、熱いね~お2人さん!〉
〈ヒューヒュー!〉
〈アヤカちゃんとくっ付けて羨ましい!〉
〈もっとイチャイチャが観たい〉
コメント欄は盛り上がりを見せる。
……なんか羞恥プレイでもしてる気分だ。
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次話は本日の17時頃に投稿予定です。
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