第13話



 俺達四人は坂上さんを中心にとして、五芒星を描くように呪符を配置する。

 最高峰の封印結界である【八陣結界はちじんけっかい】には遠く及ばないものの。

 五行符を用いた簡易結界をとして最善と言えるだろう。


 霊的危険物扱いされている事を改めて痛感し、鈴鹿は言葉を弱音を零す……


「……なんだか危険人物扱いされてて、嫌なんですケドぉ~~」


「はぁ……何をいまさら危険人物扱いじゃなくて、そういう扱いをしてるの!」


 寧々の語気に合わせて彼女が担当している。

 木気と金気の呪符の霊気が一瞬、強くなり五芒星型の結界はグニャリと歪む。


「寧々先輩! 霊圧が強くなってます! 抑えて、抑えて!」


 隣接する水気を担当する。

 いろはは、悲鳴に近い声を上げた。


「あら、ごめんなさい……」


 その一言で出力は抑えられ、歪んだ結界は本来の姿を取り戻す。


「酷いですぅ~~」


 こっちは軽いパニックだというのに、結界内の鈴鹿には随分と余裕があるようだ。


「仕方ないですよ。神仏を降ろせる巫女が一体世界で何人いると思ってるんですか……」


「そんなにすくないんですか?」


「幸いこの国は多いほうですけど、世界的に見れば少ないですね……」


「無駄口叩いてないで行くぞ……」


「「「はーい」」」


「俺は引率の先生か!」


 結界を維持しながら病室を抜け、廊下を抜け特別呪術輸送車がいる救急搬送口に向かうのであった。


………

……


 ガラス製の自動ドアの向こうには、白を基調とし統一された洋服を着た集団がおり、車のバックドアは既に開きまるで大きな口のようだ。

 集団の先頭には年若い女性が佇んでいる。


 恐らく彼女が封印・結界班班長の氷見優子ひみゆうこだ。


 先頭を歩いているのは、近接戦闘に強い俺なのだが俺が彼女に挨拶する事はない。

 現在ランクを持っていない俺の扱いは公的にはただの一般人だからだ。


「特別B級陰陽師の三条祢々です。こちらが……」


「C級陰陽師の星川いろはです」


 女性は俺を一瞥する。


「特別A級陰陽師の氷見優子と申します。三条さん、星川さん、仁科さん対象の護送は我々封印・結界班お任せ下さい」


 そう言うと特別呪術輸送車のエンジンが始動する。


勇奈いさな五行封印の上から簡易八陣結界を張りなさい」


「了解しました」


 勇奈と呼ばれた女性が中心と成って車内に乗り込む。


「そのまま車に乗ってください。五行封印の上から略式で結界を張りますので……」


 言われるがまま、ステップを踏んで車内に乗り込む。

 様々な封印を施すために護摩壇や鳥居、注連縄としった大道具から数珠、鏡、勾玉といった祭具をはじめ専門的な治療設備まで整っている。


 八人の女性が胸元から無垢の木の鞘を取り出すと鞘から払い、短刀を車内の床に勢いよく振り下ろす。


「「「「「「「「急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう」」」」」」」」


刹那。


 刀身が青白い閃光を発し、オーロラのような光のベールが床から浮かび上がると八枚の板を形成し、中心にいる鈴鹿を取り囲む。

 ボソボソと聞き取れるか聞き取れないか分からない程度の音量で、八人は延々と呪文を詠唱を続ける。


 三人でも霊圧を揃える事が困難だというのに、それを八人で行うのだから結界を主に使う彼らには尊敬の念しかない。


 恐らくは、無垢の鞘や短刀には八陣結界を補助する何かがあるいのだろう。


「凄いわね。これが対呪術医療の最前線に向かう車両……」


 元働く車マニアの血が騒いだのか、少年がスポーツカーを眺めるような視線を向ける。


「ホントですね。この呪具って名家の謹製品じゃないですか!」

 

 呪具作成の名門の家紋が刻印された祭具を見つけたようで、星川は大きな声を出す。


「驚かれるのも無理はありません。この特別呪術輸送車は霊的災害に被災された方を一人でも多く助けるための協会肝いりの車両です。なのでこれだけ大が掛かりなんです。仁科さんは既に御存じでしょうが……」


 チラリと俺を見るが即座に視線を二人の方へ向ける。


「ええ、身に染みて……」


「それって……『名古屋の悲劇』ですか?」


 海外生活が長いだけあって、空気を読む事が苦手な星川はこの話題に斬り込む。


「ええ。名古屋の悲劇では国内全ての特別呪術輸送車が出動しましたその中の患者の一人が、元Sランク陰陽師の仁科祐介だったという訳です」


「その節はお世話になりました」


「いえいえ。症状を抑えられているようで安心しました。まだ穢れ・・を遠ざけてられるですか?」


 氷見さんの言葉に俺は一瞬、怒りを覚えるが彼女に対する感情はただの八つ当たりでしかない。

 反射的に寧々を見るが、彼女は目を伏せるばかりだ。


「ええ、完全に制御できるまでは出来るだけ……」


 俺は自分に、そして寧々に言い聞かせるようにそう答える。

 地雷を踏んだと思ったのか氷見さんは露骨に話題を変えた。


「……お三方は夜通し番をされていると聞いております。本部に到着するまで、少しやすまれてはいかがでしょう?」


――――と言葉だけ聞けば、夜通し仕事をした俺達を気遣うような発言をする。


 が、それは本心なのだろうか?




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『あとがき』


 読んでいただきありがとうございます。

 本日から中編七作を連載開始しております。

 その中から一番評価された作品を連載しようと思っているのでよろしくお願いします。

【中編リンク】https://kakuyomu.jp/users/a2kimasa/collections/16818093076070917291


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