第11話
漂白剤とアルコールが入り混じった独特な匂いがする。
私はその匂いに嗅ぎ覚えがあった。
病院や保健室と言った場所の匂いだ。
私はモゾモゾと掛けられた布団を剥がし起き上がる。
私が動いた事を察知してか、ベッドの脇に置いてある椅子に座った少年はスマホに落としていた視線を私に向ける。
「要約起きたか……」
そういったのは
「ここは?」
周囲を見渡すと採光や換気のための窓がある病室らしい病室ではなく、精神病院や死体安置所、手術室のような窓のない部屋であり、壁にはにはびっしりと呪符が張られている。その雰囲気は異様の一言に尽きる。
「ここは、東京都。国立病院の地下にある特別病室だ」
「特別病室?」
私は聞いた言葉を、まるで乳幼児のように聞き返す。
「そう、特別病室。あなたは鬼神の強力な鬼気に充てられて、
少年はそう事務的に言うと手荷物タイプのスクールバッグに、手を突っ込むとコーヒーの缶を取り出した。
カシュリと音を立ててプルタブを開けると、喉をゴクゴクと鳴らしてコーヒーを飲む。
「
「だから封印なんですか?」
「封印は貴女の中にある鬼を封じるものです。この業界では
「良かった……」
と安堵の息が漏れる。が、瞬間。
「じゃぁなんで私は、特別病室に入れられてるのだろう」と思考が巡る。
「まぁ通常の
「――――まぁ人工透析みたいなモノですよ」と付け加える。
「そんな……」
「まぁこの程度で済めば御の字だったんですけどね……」
「へ?」
「
これは本来ならば陰陽師協会が幼少期から鍛え育てるような希少な才覚だ。今回君
「秘匿死刑? どんな法的根拠があるって言うんですか!?」
「そう、秘匿死刑。『陰陽師の罪は陰陽師しか判断できない』だから、警察も司法も我々陰陽師を裁くのには無理がある。と言う事で陰陽師協会――――その前身である陰陽寮は古くから独自の私刑を行って来た。それを明文化し纏め上げて体系化したものが『陰陽法』だ。君の死刑を求めている彼らは、その秘匿法を根拠に君を殺したがっているんだよ」
「そんな無茶苦茶な……」
「そう。彼らの論理は『危険性が極めて高いから死刑に処せ』と言っているだけだ。ただそのデタラメな言い分を通せるような解釈を現行の陰陽師が認めているだけだ。
現場に出ない。現場に出たけどブルっちまって奥に引っ込んだデスクワーク組は恐れているんだ。使役出来れば戦力になる鬼神の巫女……つまりは【
「それは仕方のない事かもしれませんけど……私としては気分の良い話ではありません!」
仁科祐介と名乗った男に抗議しても仕方ないのだが、自分の生死が掛かっていると思うとふと口を付いた。
「ははははは、そりゃそうだろうね。伝え忘れていたけれど君は俺の式神になった」
しかし少年は楽しそうにケラケラと笑う。
その姿に私は心底イラっと来る。
「どういう事ですか? 助けてくれるって言ったじゃないですか!?」
「さっきも説明したけど、君が鬼に肉体を支配されている。このままだと秘匿死刑だ! と騒ぎ出す人物に心当たりがあってね。君の中の鬼を調伏し使役式つまり式神にしてしまえば、俺の持ち物となる。
陰陽法では他人の式神や呪具などを取り上げるには厳しい条件が必要なんだ。だから君の中の鬼を俺の式にしたという訳だ」
「そういう事ですか……」
助けられたことを喜べばいいのか。
勝手に所有物扱いされている事を怒ればいいのか私には分からない。どちらかと言えば彼に対して好ましいという感情さえ向けてしまっている。
これがストックホルム症候群と言うモノだろうか?
「はぁ」と短く溜息を付くと彼に、こう問いかけた。
「それで私はどうすればいいんですか?」
「取り合えず。シャワーを浴びてご飯を食べよう。まずはそこから是からについて説明しょう」
そういわれたので私はシャワーを浴びて、ユニシロで買って来たと思われる。セックスフリーの可愛くないシャツとズボンを履いた。
部屋のなかにあったのは病院に、とても似つかわしくない。弁当屋の弁当とお茶が3つ置かれている。
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『あとがき』
読んでいただきありがとうございます。
本日から中編七作を連載開始しております。
その中から一番評価された作品を連載しようと思っているのでよろしくお願いします。
【中編リンク】https://kakuyomu.jp/users/a2kimasa/collections/16818093076070917291
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