第9話
「ガァァァアアアアアアアアアアアアアアアっ!」
少女に宿った鬼は周囲に張り、巡らされた結界に猛攻を加えているがビクともする様子はない。
「凄いな禁術の防御術式……」
次第に封印された鬼神を使役する方法が脳裏に刻まれていく……
「分かる、分かるぞ……これなら
俺はそう呟くと印を結ぶ。
「
俺の陰が収束し
古来より異界に繋がっているとされる場所は数多くある。
その一つに影があるのだ。
人間の腰ほどの背丈の大型の狼が影から現れる。
「アォーーン!!」
――――と黒い狼が
鬼は何が起こったのか分からずたじろいでいる。
式神
仁科家に伝わる古文書によると、最も扱いやすく強力とされているのがこの式神であるのだが、霊力がカツカツの状態の俺にはかなりキツイ……
「
主と認めていない俺からの指示に対して、黒い狼がくしゅりと鼻息を鳴らす。
その姿は「楽勝だ」と言っているようでも、「誰がお前の命令を聞くか」と言っているようにも聞こえる。
そんな嘲りを含んだ鼻息だった。
「やれ」
短い言葉で支持を飛ばす。
刹那。
黒い狼は一瞬で消え鬼に襲い掛かる!
ボクサーのように脇を絞め、両腕を胸の前で上に上げて顔面・頭部の攻撃に備えるような姿勢で、黒い狼の引っ搔き攻撃を防御する。
「もしかして、四肢に纏っている黒い外骨格以外は生成できないのか?」
胸元から以前作った特製の呪符を取り出す。
禁術の封印を解いた呪符と異なりドス黒い何かで描かれている。それは丹や樹脂由来の
それは
「
墨汁で描いたような濃淡だけで現わされたような呪いの焔が、妖刀・
さながらその姿は不動明王が持つ智慧利剣。倶利伽羅のようであった。
「この呪焔は、特別な方法以外では消して消える事はない炎さえ焼き尽くすとされる……さて鬼よこの呪いに耐えられるかな?」
「!?」
「
俺もそれに続いて剣を八相の構えから顔の耳の横に構え右手は『く』の字になるように左手は胸の前にくるような姿勢……いわゆる
飛び掛かる
「ちっ! 今の
不意を突いた一撃だったが、鬼の
「――――くっ!! はぁぁああああああああああああ!!」
小太刀が空を斬りその切っ先が地面に触れる前に、手首を返し返す刀で逆袈裟斬りを放つ。
「――――っ!」
見事鬼の外骨格を切り裂いて、少女の白身魚のような真っ白な腕が露出する。
「やれ、
俺の指示によって影に控えていた
「――――グルルルル!!」
――――と唸り声を上げながら絡みつくようなその姿はさながら警察犬のようだ。
(恐らく、少女の四肢に現れた黒い外骨格は鬼神の力が具象化したもので、これを破壊することで一時的に力を弱める事が出来ると推察される……まるでゲームのボス攻略みたいだ)
俺は迷うことなく残りの外骨格を削ぐべく、黒い呪焔で燃える刀を振るい焼き斬る。
「意識を取り戻してもおかしくないはずなんだが……」
すると少女は喋り始める。
「……助けて、鬼として死にたくなんてないです!」
「分かった微力を尽くそう……そのために君にお願いがある君の精神力で鬼に抗ってくれ」
「!」
「無理、無茶難題だとは思うが今の俺にはそれぐらいの奇跡がなければ君を救う事は残念ながら出来ない」
「他の人なら……」
「酷い事を言うようだが君を救えるような高位の陰陽師はこの国には少ない」
「今から君の体を拘束する術を使うその間だけでも、鬼から体の制御を奪ってくれ……」
「分かり、ました」
「大丈夫君は優秀な巫女だ……
先ずは九字を切り、霊力を用いて空に一文字毎に線と印を結びながら縦に四本、横に五本の格子紋を形成する。
この格子状の文様はドーマンとも呼ばれ、魔を祓い退ける呪術的防御力をそなえており、裏を返せばそれは霊体への攻撃力を有しているという事になる。
また九字には十字と言う派生があり、『臨兵闘者皆陣列前行』九字の後に一文字の漢字を加えて効果を一点に特化させる効果がある。
一文字の漢字は特化させたい効果によって異なり、今回は捕縛、拘束が目的であるため縛と付け加えた。
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