第2話
「あの子の手前……ああは言ったものの、地獄の15時間勤務の始まりよ」
店長は少し後悔するのであった。
………
……
…
『PPPPPP』と渡された携帯番号にコールすると……
『はい。星川です』
――――と少し怪しがっている声音で、先ほどの少女が電話に出る。声まで美少女なのがなにか悔しい。
さて、バイトが早く終わった理由を何と説明しようか?
事実を伝えるのは相手に気を使わせ兼ねないので、申し訳ないが店長に泥を被ってもらおう。
「もしもし、俺
『今、ドリンクバーでリア〇ゴールドを飲んでいるところですが……』
「了解、そっちに向かうから」
『お待ちしております』
………
……
…
「いらっしゃいませ、一名様で宜しかったでしょうか?」
声を掛けて来た店員に、「ツレが居るので……」と言って店内を見渡す。
あ、居た。
あの亜麻色……間違いない。
彼女と同じくドリンクバーを注文し席代を払う。
少しの時間と空間を借り受ける対価としてワンコインは、男子高校生のお財布に優しくない。
恐らく『
俺がコーラを片手に戻ると案の定、机の上には資料が置かれていた。
「で、なんで俺は呼ばれたんだ?」
「『
「……」
俺は黙って資料を見る。
要約
現在現場は下級霊が吹き溜まり、強力な陰の力場を形成していて近い将来に妖怪の実体化が懸念される。至急現場を調査し、可能であれば
「私は厳しいと思うって言ったんですけど~
「はぁ……仮にも俺は三年前の
「三年前の大霊災と言うと、
「海外では名古屋の
「私は海外暮らしが長かったので未だに慣れません。先輩が行ってくれないと私だけで行くことになりそうです」
「旧家なだけあって、潜在能力は高いんだからいけるだろ?」
「それを言うのなら先輩だって、まだ戦えますよね?」
「習慣で鍛えているだけだ。お前の
「正体不明の鬼神でしたか……資料を読む限り穢れに触れないようにしているとか……その中で霊の吹き溜まりを何とかしろ! と言うのは、爆発物のある倉庫の中で火遊びをするような危険を感じますね……」
と無理難題を吹っかけてきた
「それは当初の話だ。今は清めの霊水や塩、お神酒あとは日々祖神に上げる祝詞や読経。食肉避けたりする程度で済んでいる。名古屋を崩壊させた鬼神を封印している対価と考えれば破格と言っていい」
「そういわれればそうですが……」
バツの悪そうな表情を浮かべもごもごしている。
「実を言うと先代当主……祖父から弟子を持って日本に貢献しろ! と言われていてる。今どれだけ術が使えるのか試すには、良い機会だと思っている自分が居る事も確かだ」
「前向きなんですね」
「依頼文を読むと主は俺だ。だが俺には些か不安がある……そこで星川いろは、君に俺の補助をお願いしたいんだ」
「本部からの指令である以上、一介の陰陽師である私に拒否権はありませんのでご自由に……
「俺の名前で領収書切って置くから、本部か支部に行った時に払ってもらってくれ……」
「元Sランクの割にケチ臭いですね」
「コンビニバイトの高校生に何を求めてるのかねぇ……じゃぁお前の留学先の言い方『清貧』とでも言い代えれば聞こえはいいだろう?」
「……私、電話をかけてきます」
………
……
…
支部から回されたセダンで、東京神田にある古い武家屋敷まで送られた。
「じゃぁ用意をしてくる。家に来るならお茶ぐらいは出すけど……」
形だけの提案をする。
「私、お茶は紅茶しか飲みませんので……」
「流石、フランス帰りは違うね……健康志向の方々は抹茶を飲んでいるらしいって聞いたけど……」
「そんな事はどうでもいいので早く武器を取ってきてください!」
「相変わらずつれないね……」
「陰陽師なのに武器を使うなんて野蛮です……」
車内の少女は少年が遠ざかった事を確認するとポツリと呟いた。
するとバックミラーに映る運転手の、何かを言いたげな視線に気が付いた。
はぁと短い溜息を付くとこう続けた。
「言いたい事があるならどうぞ……」
「……お公家様には分からないでしょうが、魔を討つ事を生業としている武士や忍者は多いんですよ。その中でも仁科家は、源平両家の血を引いた旗本で、木っ端の武士崩れからしたら殿上人なんです」
言いにくい言葉を紡ぎやすくするため、ペットの緑茶を一口嚥下し、続けた。
「陰陽頭をやってきた土御門や
「……っ留意します」
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TIPS 【陰陽師】
現代で言えば【魔を祓う者】程度の意味合いでしかなく、アブラハムの宗教の『
また日本には、主に宮中や都で活躍してきた『公家系の術者』と、騎乗し剣を薙ぎ弓を射る『武家系の術者』の二種類がいる。
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