第6話


「報告します。男女五名全員軽傷、かなりの量の瘴気しょうきを摂取しているため、霊水で傷口を清め治癒符で穢れを祓い手当を終えた所です。また本部に増援を要請しておきました」


「助かる。状況がつかめなかったので、こちらでも星川に増援を要請するように指示をだしてしまったが……まぁ問題ないだろう」


「確かにあれだけ強力な悪鬼・・が居るのです。増援の陰陽師が多少増えた所で問題はないでしょう」


コイツの目にもあれは、悪鬼に見えたのか……


「あなたは悪鬼と言ったがもしかしたら、善鬼・・かもしれんぞ?」


「それはどういう事でしょうか?」


「善なる牛鬼もいるという事だ……」


……やれやれ陰陽術を使い鬼を祓う術を身に着けてはいても、鬼の事をしろうとする者は少ないんだな。と少し呆れてしまう。


「もしあの牛鬼が善なる神霊であった場合。あの学生たちが何かをやった可能性が高いんだ。持ち帰ったものや、壊したり触ったモノに付いて聞いて聞き込みをしたい」


「……元Sランク陰陽師である貴方が言う事です。大人しく従いましょう……」


 渋々と言った様子ではあるが俺の判断に従ってくれるようだ。

 先ずはあの一番元気だった女の子に話を聞こう……

 俺は情報の偵察と連絡を兼ねて式を放つ。


急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう


 なけなしの呪力を叩いた6羽のフクロウに指示をだす。


「あ、お兄さんこっちこっち」


 ――――と一人だけ元気に手をブンンブンと振っている。


 美しい濡羽ぬれば色の頭髪は肩まで伸びており、天使の輪が光の加減で出来るほどキューティクルが整っている。

 瞳は大きくくりくりとしており、縞瑪瑙オニキスのよおうに美しく透き通るような白い肌に良く映える。

 スラリとしつつも女性特有の柔らかさを感じさせる肢体と整った容姿は、まるでグラビアアイドルのようだ。


「少しだけ話を聞かせてもらってもいいかな?」


面倒だとは思いつつも一応仕事だから、と自分に言い聞かせて出来るだけの笑顔を浮かべて話しかける。


「え、まーいいですけど……お兄さんもしかしてナンパですか? それにしては笑顔がないみたいですけど……」


どうやら俺の全力の笑顔は、パリピ共には笑顔とすら認識されていないようだ。


これなら取り繕う部分は最小限でいいだろう……


「ちげーよ。仕事だ仕事。なんであの鬼が君たちを襲ったのかなって思ってさ……何か心あたりはないかなって思ってさ……俺は仁科祐介にしなゆうすけ、君の名前を聞いてもいいかな?」


「私は、坂上鈴鹿さかがみすずかです。なんだそういう事か……びっくりしましたよ。私見ての通り“モテる”から、勉強とか教えてくれとか、何か理由を付けて話かけてくる男性ヒトが多くてさ、少し過敏になってるのかもしれません。」


「そういうのはあるかもな……」


 怪我はないな……長袖長ズボンのだから枝葉で切らなかったのだろう。


 廃墟はいきょを探索するのならこういう装備じゃないと、怪我を負いやすくなる。

 それなりの量の瘴気を吸い込んでいっるハズなのに、熱や気分の悪さを訴えたり感じている様子はない。


生まれ持った霊力が多いのだろうか? もし生まれ持った霊力が高く本人にやる気があるのなら、多少年を取っては居るものの陰陽師になるという進路も十分ありだと思う。


「……で、どんな話が聞きたいんですか?」


「あの鬼に追われる前だったり追われている時に、何かモノを拾ったり持って来たり壊したりとかしたのかなって思ってさ……」


「そうですね……あの鬼が出てきたのは錆れた神社の小さいのの前に行った時ですね……」


 神社の小さいのと言うのは恐らくは、摂社せっしゃ末社まっしゃと言われる。

 その神社に関連する神や全く関係ない神を祭る社だろう。

 ――――と言う事は、推論すいろん通り古椿の精霊とされた牛鬼のように、あの鬼も何かを守護・警護あるいは封印していたのかもしれない。


「その時に何かを持ち帰ったりとかしなかったか?」


「私は一番後ろに居たので詳しくは見てないんですけど……他の子が何かをしていたかもしれません。他の皆は何かを騒いでいたので彼らが何かをしたのかも……」


「そうか……ありがとう」


 俺は彼女に背を向けて歩きながら思案する。


 大方、摂社せっしゃ末社まっしゃに祭られていた御神体ごしんたい(その多くは、刀剣や銅鏡どうきょう、玉などの石)を持ち帰って来たか、破壊したのだろう。

 そして守護者のような立場であった。あの鬼が出張って来たという感じだろうか……と彼女の話が全て事実である・・・・・・・・・・と言う前提で推論を立てる。


 だが俺は足を止めて彼女に問いかける。


「細かい事が気になるのが俺の悪い癖なんだ。一つだけ聞いてもいいかな?」


「何かな? 私が答えられる範囲の事なら何でも答えるけど……」


「なんで自分の友達の事なのに・・・・・・・・・・何で個人の名前が出てこないんだ・・・・・・・・・・・・・・・?」


「それは、まとめて呼んだからであって他意はないわ」


「そっかそうだよね。じゃぁ君を除いた四人の名前を教えてくれるかな?」


「どうして私に聞くんですか? 私を疑ってるっていうの!?」


「君には少し違和感があってね。簡単に言えば漏れている霊力が高すぎるんだ……東京の都心を歩いていれば間違いなく目の良い陰陽師にスカウトされるぐらいには……」


「――――っ!?」


 ここからは運転手さんでも対応できるように大声で話す。


「霊力や姿かたちや気配を偽る隠形おんぎょうは苦手みたいだな……




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TIPS 『生成なまなり』


 日本では『狐付き』海外では『悪魔付き』などと呼ばれ、妖怪や鬼などの精神体が憑依しているものを総括していう。

 また『生成り』のなかでも『堕ちる』と言われる。妖怪側の性質に引っ張られる状態になると最悪の場合、肉体を持った(受肉)した鬼が産まれる。

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