詞(ことば)を彩る神秘の技。それは神の御業かはたまた悪魔の技術か——?

 神の名の下に、いわれなき罪で父を失った少年シェイダール。

 彼は神の存在を信じず、幼馴染の少女ヴィルメ以外には秘したまま、天候や作物の収穫の実情を調査し、神の不存在を確信していきます。
 ところが、村に王の使いが訪れ、不思議な白石に虹の色を見たシェイダールを神に選ばれた次王の候補だと告げるのですが——。

 細部まで作り込まれた世界と、詞(ことば)に色が見えるという不思議な感覚がまるで本当にそこにあるかのように脳裏に浮かぶ描写が美しく引き込まれてしまいます。

 第一部となる「金枝を折りて」では代々受け継がれる王の力の秘密と、腐敗した神殿との対立など世界そのもののあり方と秘密が語られていきます。若い力に満ち、新しい技術と理想で世界を変えていこうとするシェイダールと彼を支える仲間たち、その一方で苛酷な運命に呑まれていく人々。
 古き良きファンタジーの面影を残しつつ、世界の謎に迫る部分はミステリのようなわくわく感もあり、とにかく先が気になって読み進む手が止まりません。

 ラストは、ああ……と思わず声が漏れてしまう、とにかく圧巻の物語でした。

 第二部となる「夜明けの歌、日没の祈り」では、シェイダールたちが広めた技術が広まりつつある世界で、王都から離れた場所で信仰に生きる祭司と征服者としてやってきた導師の運命的な出会いが描かれます。

 信仰と新しい技術との間で悩む祭司タスハ、若く希望に満ちた導師ジェハナ。二人は立場は違いながらも、互いに惹かれていきます。シェイダールがウルヴェーユの使い手として神を否定する立場であったのに対し、タスハは祭司として深い信仰を持ちながらウルヴェーユの才を誰よりも持っていることでさらに悩みを深めていきます。

 第一部に比べると少し穏やかながらも人間の自己中心的で醜い部分とも真っ直ぐに向き合い、それでも正しいと信じる行いと思いやりや優しさ、信念で乗り越えていく物語でした。
 二人のもだもだもとっっても見どころ。さっきまで真剣な話してたのに急に我に返って赤くなったりもじもじしたりと果てしなく可愛くなるんですよ、この二人……!!

 「金枝を折りて」の五十年後の世界ということで、そちらを踏まえてから読んだ方が理解が深まるのは確かですが、こちらの物語から読んで改めてあちらへ戻るのもおすすめ。

 現時点で五十万字となかなかのボリュームですが、文章の美しさと次々と巻き起こることごとや人々の運命のその先が気になって、あっという間に読み切ってしまいました。

 小説という文章ならではの表現を改めて楽しむことを思い出させてくれる素晴らしい物語。ぜひ手に取ってこの世界に浸ってほしい一作です。

 この後の物語も楽しみにしております!