「彩詠術」と呼ばれる太古の神秘のわざと、それに関わる人々の、壮大な物語です。
緻密な世界観。清濁併せ持つ生き生きとしたキャラクター。難しいテーマをやさしく、かつ深く物語に落とし込む作者様の高い力量。特に彩詠術のシーンの神秘的な美しさは圧巻で、今まさにここで光と音を感じているかのようです。
英雄譚、叙事詩、愛憎劇、神話、純愛、ミステリー……ひとつの作品に様々な要素が含まれており、とても読み応えがあります。とはいえコミカルなやりとりも多く、美しい文体も相まって大変読みやすいです。
そう、文字数を含め圧倒的なボリュームでありながら、不思議と読みやすいんです。とにかく読む手が止まりません。第一部の一章、二章、三章……と読み進めるうちに、気がつけば続きを渇望している自分がいます。可能であればじっくり腰を据えて読んでいただきたい作品です。
歴史の移り変わりと、世界や人々が変わりゆくさまを、そしてその後の人々の決意と歩みを、作品の熱を、ぜひ体感してください。
太古の神秘のわざ、「彩詠術」を巡る人々の愛憎劇。
知識を用いて世界を変えていこうとする人々と、変わりゆく世界、そしてそれらの葛藤が描かれている大変スケールの大きな作品です。
とても難しいテーマを扱いながらも、ミステリや恋愛等の要素、時にはコミカルなやり取りも交えつつ、大変読みやすく綴られた作者さんの技量に痺れます。
一人一人の感情描写も丁寧で、『金枝を折りて』のヴィルメについては、読み終わったあと何度も繰り返し思い返すこととなりました。ネタバレで語れないので、是非読んでいただきたいです……!
通して読むと、変わってゆく世界の、歴史の、目撃者となれます。
神の名の下に、いわれなき罪で父を失った少年シェイダール。
彼は神の存在を信じず、幼馴染の少女ヴィルメ以外には秘したまま、天候や作物の収穫の実情を調査し、神の不存在を確信していきます。
ところが、村に王の使いが訪れ、不思議な白石に虹の色を見たシェイダールを神に選ばれた次王の候補だと告げるのですが——。
細部まで作り込まれた世界と、詞(ことば)に色が見えるという不思議な感覚がまるで本当にそこにあるかのように脳裏に浮かぶ描写が美しく引き込まれてしまいます。
第一部となる「金枝を折りて」では代々受け継がれる王の力の秘密と、腐敗した神殿との対立など世界そのもののあり方と秘密が語られていきます。若い力に満ち、新しい技術と理想で世界を変えていこうとするシェイダールと彼を支える仲間たち、その一方で苛酷な運命に呑まれていく人々。
古き良きファンタジーの面影を残しつつ、世界の謎に迫る部分はミステリのようなわくわく感もあり、とにかく先が気になって読み進む手が止まりません。
ラストは、ああ……と思わず声が漏れてしまう、とにかく圧巻の物語でした。
第二部となる「夜明けの歌、日没の祈り」では、シェイダールたちが広めた技術が広まりつつある世界で、王都から離れた場所で信仰に生きる祭司と征服者としてやってきた導師の運命的な出会いが描かれます。
信仰と新しい技術との間で悩む祭司タスハ、若く希望に満ちた導師ジェハナ。二人は立場は違いながらも、互いに惹かれていきます。シェイダールがウルヴェーユの使い手として神を否定する立場であったのに対し、タスハは祭司として深い信仰を持ちながらウルヴェーユの才を誰よりも持っていることでさらに悩みを深めていきます。
第一部に比べると少し穏やかながらも人間の自己中心的で醜い部分とも真っ直ぐに向き合い、それでも正しいと信じる行いと思いやりや優しさ、信念で乗り越えていく物語でした。
二人のもだもだもとっっても見どころ。さっきまで真剣な話してたのに急に我に返って赤くなったりもじもじしたりと果てしなく可愛くなるんですよ、この二人……!!
「金枝を折りて」の五十年後の世界ということで、そちらを踏まえてから読んだ方が理解が深まるのは確かですが、こちらの物語から読んで改めてあちらへ戻るのもおすすめ。
現時点で五十万字となかなかのボリュームですが、文章の美しさと次々と巻き起こることごとや人々の運命のその先が気になって、あっという間に読み切ってしまいました。
小説という文章ならではの表現を改めて楽しむことを思い出させてくれる素晴らしい物語。ぜひ手に取ってこの世界に浸ってほしい一作です。
この後の物語も楽しみにしております!