【追加分】一話目と同じ設定の短編
『最下層をソロで攻略する魔道士がいる』
その噂から冒険者ギルドは調査員を派遣した。
だが、おそらくそれだけが理由ではない。
ギルドは噂程度では動かない。たぶん俺たちにすら言えない理由があるんだろう。
調査員、と言っても普段は冒険者で日銭を稼いでいる、予備の十数人だ。
どうやら、対象は用心深い性格らしく、ギルド員であることを明かさない方がいいらしい。それだけの実力者であるか、あるいは後ろ暗い理由でもあるのか。
ただ、それは俺たちが気にするところではない。俺たちはただ、対象を観察し、その報告書をギルドに届けるだけだ。
対象は身長差が特徴的な二人組で、片方は魔道士、片方は荷物持ちだそうだ。それだけしか開示されない時点で情報が絞られていることがわかる。
しかし、これ以上ない特徴でもあった。
ふと、そのことに気が付いたのは俺があるパーティーの数合わせに入り、しばらくダンジョンを進んだ時のことだった。
パーティーに加入したのは俺ともう一人とある2人組。欠員募集していたのは同じく野良の剣士2人組で、その構成から後衛を欲していた。
俺は後衛で、もう一人は中衛、とある二人組は片方が荷物持ちで、もう一人が、何だったか。
そこで、俺はおかしいと気が付いた。
何がおかしいのかと、振り返ってみてようやく理解する。
『なぜ俺は共に探索するメンバーすら把握していないんだ?』
冒険者は比較的雑な性格のヤツが多い。金のこと以外は。
とりあえず金が稼げれば他のことはあまり考えないやつが多く、同時に
だから、普通は気付かないんだろう。認識阻害を受けていることに。
当然、味方への妨害は暗黙の了解で禁止されている。
そんなことをすれば自分の命にすら関わるからだ。
だが、そうだな。気付いたやつも気付かないふりをすることがある。
脛に傷を持つやつの中には
通常、奴らは厄介な経歴を持っていることがほとんどで、冒険者は面倒ごとや厄介ごとが嫌いなため、意図して見過ごすことが多い。
ただ、ギルドの名のもとに言えば許されざることではある。
一時的にギルド職員の真似事をしている俺も、それを執行することは越権でも、それを報告する義務はあるだろう。
だが、それがやりたいことかと言えばそれは違う。
厄介なことに足を突っ込んでしまったと少し後悔した。
メモを取り出して、違和感を書き留める。そうでもしないと忘れてしまいそうだった。
「接敵した。数3、猫、猿、鳥だ」
「俺たちは猿をやりつつ牽制するから他を頼む」
遭遇戦が始まり、俺は長弓を構えて鳥を狙う。
それを確認したのかしていないのか、隣の魔道士は猫に向かって左手を上げた。杖は右手に持っている。長杖だ。ごく普通の。
「右の!頭を下げろ! シッ」
俺は猿を浅く切りつけつつ牽制する右の剣士に声かけし、鳥を打ち抜く。
その成果に中衛の男はヒュウと口笛を吹いた。
「やるねぇ、あんた。これは俺も頑張らねぇと、なっ!」
その男は短剣を山なりに投擲し、猿の脇腹を切り裂いた。
なるほど、良い腕だ。が。
「こらてめぇ!投げる時は言えっつったろ!」
「わりぃ!手が滑っちまった!」
「チッ クソが!」
案の定、左の剣士に文句を言われていた。
剣士は短剣男が今後も改善しないだろうことを想定して悪態をつく。
こういうやつはたまにいる。腕はいいのに野良であるのは大概こういう理由からだ。
その間に、いつの間にか魔道士は猫に魔法を着弾させて黒焦げにしていた。おそらく、火弾でも放ったのだろう。
残るは猿だけだ。
が、魔道士はもうこれ以上貢献するつもりは無いらしく、腕を下ろして状況を静観していた。
その間に剣士たちが連携して猿を怯ませ、やれ!と叫んで中衛の男に攻撃させていた。なるほど、
その結果、猿も
剣士と短剣男は仲直りのつもりか、握りこぶしを軽く当て合っていた。
俺もそこに加わり、互いに労い腕を褒め合う。こういうのは割と大事だ。
何よりパーティーの士気と雰囲気に影響するからだ。
だが、魔道士は先ほどの位置から少し前に進んだだけだ。
荷物持ちは落ちた魔石を回収していた。
現状は大人しいが、本当にこの二人なのだろうか。
しかし、疑いはあるために、メモは取り続けることにした。
それは最下層でのことだった。
魔道士がぶつぶつと呟きながら一人、前に出ていく。
「お、おい!危ないぞ!?」
剣士が声を掛け、更には一人が肩に手を掛けようとしたが、そこで初めてその肩の高さに気付いた様子で、その手を
魔道士は、なぜ魔導士をやっているのか、と思えるほど身長が高い。
猫背でそれなのだ。明らかに不自然だが、疑念はすぐに溶けて消える。
そういう魔道具でも身に着けているのだろう。
現に剣士も手をすぐに降ろして声掛けに戻った。
俺も追いかけようとしたが、服の
「邪魔しないで」
そう言ったのは荷物持ちの子供だった。これも勘違いの一つなのだろう。
荷物持ちが子供なら魔道士は大人、という勝手な認識がついていたのだ。
それをメモに取ろうとしてそのメモが無いことに気付く。
さてはあの子供か、と見やれば、その子供はいつの間にか後方から魔道士の方向を見ていた。それにつられて目を向ければ。
あり得ない光景が目に入る。
その魔法の連射の半分ほどが未知の魔法だった。
あれは、何だ?おそらく人間ではない。あれだけの魔法を撃つにはマナの総量が圧倒的に足りない。だが、魔物でもなさそうだった。
知恵持つ魔物は人間を避ける。ましてや奴隷など持たないだろう。
それが終わる頃にはそこには魔石だけが散らばっていた。
俺は口を開けてそれを眺めていたが、ふと我に返り、魔道士を探す。
が、すでに魔道士は奥の転移陣から外に出たようだった。
再びメモを探すが、やはり無い。と同時に思う。この件は俺の手に余る事だ、と。所詮、予備人員である俺は精一杯やったが、能力が足りなかった。と、そういうことだ。
同じく我に返ったその他3人が騒ぎ始めるが、知った事ではない。
俺は先に行くと伝えた後に、ダンジョンを後にした。
実は少しだけホッとしていた。この件に関わらずに済むなら何よりだ。
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