口角を上げて物思いに耽る若い男が見える……

 俺には立ち止まって考える癖がある。

 特に面白い地形を見つけると戦術を考えざるを得ない。

 ただ、俺は軍師じゃない。だから、兵の動かし方だとか、兵站だとか、そういうものはさっぱりだ。

 つまり、俺が想定するのはそういうことではなくて、『3次元的にエリアを指定して、そこにオブジェクトを配置する』いわゆる、ゲーム的半自動装着を作る、ということなのだ。


 俺がこの世界にやってきたのは6才の頃だった。神童と持て囃されていたが、時代が俺について来なかったのか、もしくは若すぎたのか。俺は恐れられ、疎まれて、年相応の油断と隙を利用されて早々に殺された。

 その事自体を、当時の俺はかなり冷静に受け止めていたと思う。むしろ、なるべくしてなったんだと思った。皆と違うことは自覚していたし、それが最終的に己に牙を剥くことは分かっていた。

 だって、俺でもそうする。気味悪がって、拒絶して、最後には排除していたと思う。何故だか、それはとても自然なことのように思えて、死の直前に思い出したのだ。

 俺にはその前の記憶すらあったことを。

 だからたぶん、それを面白がった神がいて、俺を転生させたのだろうことを。


 6才の前の俺は、いわゆる根暗だった。その世界に魔法はなく、科学というものが発展していて、魔物はいない。ただ、歴史的にはその代わり人間同士で争いがあったらしい。

 らしいというのは、俺が生まれた頃にはそれは過去のことになっていたからだ。文明が発展し、各国は経済やスポーツで競争するようになり、戦争は野蛮なものとされていた。

 その中で生まれた娯楽の一つで、俺は魅入られたように遊んでいた。


 それはビデオゲームと呼ばれる部類のもので、ゲーム機を映像が映る機器に接続して、コントローラーと呼ばれる操作機器をさらにゲーム機に接続して、映像の中の主人公を操作して遊ぶ、という遊びができていた。

 それは当時の娯楽の中では、非常に画期的で世界的ヒットを短期間で連続して打ち出していた。

 そして、黎明期だったその頃には一種の残虐さを持ちながらも、一風変わったゲームが数多く販売されていた。


 その中の一つに定められたエリア内に制限されたコストを使って罠を配置してゆき、そのエリアに侵入した者を惨たらしく殺すというゲームがあったのだ。

 それは大胆で、残虐であればあるほど得点が高かった。いかにして限られたコスト内で最大効率を得るのかというパズル制が性にあっていたのだろうと思う。

 俺は青春時代をそれに捧げて、それを大して惜しいと思わなかった。

 そして俺は成人してつまらない大人となり、そんな頃があったことも忘れて擦り切れるまで働いて死んだ。


 ともあれ、俺は現状に満足している。孤児だったが魔法の素質は高く、前世の記憶もあるとなれば早々に貧民街を出てサバイバルしつつ、他の街を目指すことはそう難しいことではなかった。

 現在は冒険者として日銭を稼ぎつつ、旅を続けている。前々世のゲームは趣味となり、そして実際に生きた魔物を罠に嵌めることにも役立った。

 特に図体が大きく、一度や二度の攻撃魔法では沈まない相手にはとても効果的だ。

 そのために俺は設置型の魔法を編み出し、発動待機を覚え、それらを一連の動作の一つに組み込む連鎖式魔法を開発した。


 仕組みはそう難しいものではない。エリア内を正方形の区画に分け、その区画単位で個別に魔法を設置していく。その際に起動方法を決めていく。例えば、踏み込めば発動、というようにするのだ。

 そして、それに連なるように次の区画に魔法を設置していく。ポイントは前の魔法を受けた結果、対象がどこに向かうか、あるいはどこに吹き飛ばされるのかを想定することだ。例えば風魔法なら吹き飛ばされるだろうし、土魔法なら押し出されるだろう。その先に次の魔法を設置するわけだ。


 前世のゲームもそうだったが、罠には幾つかの種類があり、単に対象を移動するタイプや小さなダメージを与えるタイプ、最終的に派手に対象を処すタイプなどがあった。

 ゲームとしては、連鎖するごとに各仕掛けに設定された倍率に応じて得られるポイントが増えてゆく仕組みだった。

 それを置き換えると、移動させる魔法で体勢を崩し、小さなダメージを与える魔法でダメージを稼ぎ、疲弊させたところに止めで大振りだがダメージはでかい魔法で決着をつける、と、こういう風になる。

 ただ、敵はゲームのように必ず入り口から入ってくれるというわけではないため、誘導する必要が出てくるが、基本仲間の居ない俺にとっては敵を安全に狩る方法として非常に役立つ。


 現にこの方法で危機を何度か救われた。

 一番最初は盗賊に襲われた時だった。

 このときは準備など出来なかったので、自前で体勢を崩す魔法、小さなダメージを与える魔法、大振りな必殺魔法をそれぞれに当てた。

 前々世の記憶からか、とにかく立体的に周辺に何があるのかを知覚出来る感覚のようなものがこの時、研ぎ澄まされた。

 お陰でどの地点の盗賊が今どういう状態にあるのか、というのが逐一わかったのだ。


 だが、だからといって万事うまく行ったわけではなかった。複数人を一度に相手取ると忙しく、幾ら俺の魔力量が多いとはいえ、連発、それも一々違う魔法をとなると混乱し、使う魔法を間違えることもあった。

 そのことから、本来である罠を仕掛けていく方針にしていったのだ。そうすれば、万が一が起きた場合にもカバーが出来るわけだ。上手く嵌らなかった場合でも、相当かかりが甘くなければ逃げ出すことは出来る。命は一つしかないし、次にまた転生出来るとも限らない。安全第一である。


 それからも何度か戦闘があり、連鎖罠で攻略してきた。

 特に考えるのが楽しい地形は高低差がある地形だ。特に崖や滝があると、その上から落とすだけでダメージを与えられるため、魔力の節約が捗る。例え飛行能力があっても、そこに至るまでに小ダメージを与えるなどして、その能力を奪えば良いのだ。

 やはり、重力は魔法でやるより、自然を利用する方が断然コストが安い。


 ただ、トドメの刺し方によっては、というか連鎖罠で魔物を狩る場合は、どれだけ素材を売るつもりなのかをよく考えてから設置しなければならない。

 皮が必要なら擦り傷は少ない方が良いため、土魔法で引っ掛けて転がす、骨が必要なら土魔法で転がすと骨を折る可能性があるため、風魔法で吹き飛ばす、などだ。

 ダンジョンなどの魔法生物ならば、世界の法則によって魔石や素材が落ちるが、野生の場合は傷がつけばそれがそのまま素材にも反映されるため、注意が必要だ。とはいえダンジョンはダンジョンで特定の魔法や連鎖が掛けにくいというデメリットもあるが、それはこの際良いだろう。


 一方で人間の敵ならば、本人確認のために首か、あるいは本人を証明する何らかの登録証があれば良いため、どうやってもいい。

 しかし人間は余程の下衆でなければ体勢を崩させて一撃死を狙う。何より同族殺しであるし、魔物より格段に弱いからだ。効率を考えるならそれが一番良い。

 ただ、死さえ生温いというヤツには苦しんで死んでもらう。ある町で俺の身ぐるみを剥がした挙げ句、集団で甚振ろうとした冒険者崩れ共には死ぬより辛い目に遭ってもらった。前々世の地獄を模ってやったので、さぞかし苦しんだことだろう。

 だが、それが原因か、その町の住人らからとても人を見る目ではない視線を向けられ続けたため、俺も早々に町を出たが。


 そうやって旅をする内に俺の連鎖罠は進化してゆき、今では汎用式や高低差式などのセットが生まれ、幾つかの試作もあり、とても充実してきた。

 冒険者としても中級を越え、上級間近といったところだ。

 ただ、上級になると義務も発生するため、その更に上の最上級になっておきたいところだ。そこまで行けば実力が認められ干渉されにくくなる。

 そのためには、さて、大きな依頼を幾つか熟すか、大型の魔物を討伐し、その首級を持ち帰ることだが。もう答えは決まっている。


 もちろん、大物を罠に掛けて殺し、その首を持ち帰る。

 さて、どんな罠を作ろうか。今から楽しみでしょうがない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る