第8話 忠告

 天羽とまた仲良くなれるよう協力してほしい、そう彼女は言った。


 だが、それがもちろん相川の本心でないことは性格からしてわかる。


「ごめん。相川が仲直りしたくても大原がどうしたいか俺にはわからないから協力はできない」


 天羽と相川に何があったのかわからないし、人の気持ちを無視し、天羽が嫌な思いをするのは嫌だった。


「そっか……。あっ、私寄るとこあるからまた明日ね」


「うん、また明日」


 




***






 翌日の放課後、天羽に部室へ一緒に行こうと誘われ、教室を出て部室へ向かう。


「そうですよ、私と相川さんは同じ中学です」


「知らなかった。仲良かったの?」


「いえ、仲良くないですよ」


 迷いもない言葉。ということは仲がいいと思っていたのは相川だけか。


 階段を降りようとしたとしたその時、後ろから声をかけられた。


「ねぇ、大原さん。ちょっと話あるんだけど?」


 後ろを振り返るとそこにはクラスメイトの女子が3人いた。


「私これから部活なんですけど手短に終わりますか?」


「まぁ、大原さんが認めてくれるなら早く終わるわね」


「わかりました。奏くん、先に行ってもらえますか?」 


「う、うん……」


 天羽をこの場に残して俺は1人、部室へ向かうことにした。



 


 奏くんが部室へ向かった後、私はクラスメイトの朝井さん、三澤さん、桐谷さんと一緒に人気のない校舎の4階へと移動した。


「で、話って何ですか?」


 私がそう尋ねると朝井さんがスマホの画面を私に見せてきた。


「大原さんさ、奈々ちゃんと紺野くんが付き合ってるってこと知ってるよね?」


「えぇ、知っていますよ」


「ならなんで紺野くんに近づくの? 2人を別れさせたいの?」


 あー、なるほどそういうことですか。どうやらこの3人は相川さんに言われて私に紺野くんに近づくなといいに来たのですね。


「紺野くんとはお友達ですよ」


「そうだとしてもこの距離はダメだと思うけど。こんなとこ見たら奈々ちゃん可哀想だよ」


 そう言って朝井さんが見せてきた写真は昨日、私と奏くんが一緒に写真を撮っているときのものだった。


「彼女持ちの友達と写真を撮ったらダメなのですね。わかりました、今後は気を付けます」


 その写真を見せたら可哀想と言うが、おそらくその写真を撮ったのは相川さんだ。あの時間帯に窓からグラウンドを見てと相川さんに言って誘導したのは私だから。


「あともう1つ。紺野くんと奈々ちゃんは付き合ってるんだからさ紺野くんに仲良くするのはやめた方がいいよ?」


「仲良くするなとは? つまり友達をやめろということですか?」


「そこまでは言わないけど、同じ部活だとしてもちょっと距離近すぎ。奈々ちゃんを不安にさせるようなことしないでね」


 どうやら今の私は彼女持ちの男子に近づく女と思われているようだ。まぁ、それが、狙いでここ最近奏くんとの距離を縮めるようなことばかりしてたんだけど。


「そうですね、友達だとしても紺野くんには相川さんがいますし行動には気を付けます。ところでこんな話は知っていますか?」


 部活があるが少し遅れても大丈夫だと思った私はこの3人に言うことにした。


「何?」


「相川さんが二股している話です」


「どういうこと? 奈々ちゃんがそんなことするわけないじゃん」

「大原さんがそんなひどいこという人とは思わなかったよ」


 期待通りの反応で私はつい笑ってしまう。もちろん、心の中で。ここで笑ってしまえば何笑ってんだよと言われるだろう。


「これ、私が偶然動画で撮影したものなんですが、この動画に相川さんと彼女の友人の声が入っていたんです」


 そう言って私はスマホをカバンから出して切り取った音声データを流した。


『あんた二股みたいなことしてたら森本先輩にバレたときヤバイんじゃない?』


『大丈夫だって』


 もちろん、これは切り取ったもの。罰ゲームの下りは要らないのでそこは使わなかった。


「これ、ほんとに奈々ちゃんの声だ。もう1人は多分宮野さんだよね?」


「うんうん、奈々ちゃんと宮野さんの声だね。さすがにこれ聞いて信じないとはならないかな。大原さん、さっきはなんかごめんね、こんな酷い子の言うこと聞いて近づきすぎとか言って」


 朝井さんは謝った。こんな酷い子の言うこと聞いてと言っていたので相川さんがこの3人に何か頼んでこうして私を呼び出したんだろう。


「いえ、先ほどこんな酷い子と言いましたが、相川さんのことですか? もしそうであれば何を言われたか私に教えてください」







***







 部活終わり、天羽と部室を出るとそこには相川がいた。

 いつもなら校門でのまちあわせだが、今日はなぜか部室の前で待っていた。


「あっ、天羽! せっかくだし天羽も一緒に帰ろうよ」


 相川は、隣にいる天羽の手を取り、彼女を誘うと、天羽は一歩後ろに下がった。


「いえ、お二人は付き合っているんですし私は邪魔者かと」


「え~、私は別に天羽のこと邪魔者だなんて思わないよ?」


「けど……」


 天羽の様子を見る限り本気で嫌そうだった。ここは俺が何とかしないと相川が何かしそうだ。


「そう言えば天羽、早く帰らないと行けないんだったよな? ここで喋ってたら遅れるぞ」


「う、うん。じゃあ、またね」


 天羽は、立ち去る前にありがとうと小声で俺に伝え、この場から立ち去った。


「やっぱ、嫌われてる……。ねぇ、奏くんは、私と天羽のどっちが好きなの?」


 そう言って相川は、スマホの画面を見せてきた。画面に写ったのは昨日の放課後に俺と天羽が写真を撮っていた時の写真が写っていた。










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