第5話 天羽と奈々

「ねぇ、そう言えばさ紺野くんとは別れたの?」


 放課後、一緒に帰ろうと紺野くんを誘ったところ断られた私、相川奈々は、よく一緒にいる友達と教室に残っていた。


「まだだよ? 私、適当に紺野くんを選んだわけじゃないもん」


 そう、私は罰ゲームのために紺野くんを選んだのには理由がある。それは、紺野くんと最近よく一緒にいる天羽が彼を好きだからだ。


「えっ、なにその理由。もしかして本当に紺野くんのこと好きなの?」


「いやいや、あんな子私のタイプじゃないよ。私が好きなのは森本くんだけ」


「あんた二股みたいなことしてたら森本先輩にバレたときヤバイんじゃない?」


「大丈夫だって。森本くんにはちゃんと伝えてあるし」


「えっ……?」


 伝えてあるという意味がわからず私の話の話を聞いていた全員がえっ?と驚く。


「えっと、伝えたって何を?」


「二股みたいなことするってことだよ? ちゃんと理由説明したら許してくれたもん」


 私だけじゃない、森本先輩もヤバイ人だとこの時誰もが思った。普通、許さないのが彼氏じゃないかと。


「で、話戻すけどなんで紺野くんなの?」


「えぇ~、秘密だよ。大好きな友達のためを思っての行動なの」


 益々意味がわからなくなり尋ねた本人は困惑していた。


「けどさ今日一緒に帰れないって言われたけど実は罰ゲームのこと知られて一緒に帰りたくないって思われてるんじゃない?」


「……もしかして紺野に誰か罰ゲームのこと言ったの?」 


 私はここにいる全員の顔を見て疑うが全員否定する。


「言ってないよ。けど、盗み聞きされてる可能性はあるね」


(盗み聞き……か)






***





「紺野くん、今日は一緒に帰れる?」


 翌日の放課後。部室へ行こうとする紺野くんを見つけて声をかけた。隣には彼と同じ部活である天羽の姿があった。


「ごめん、今日は部活なんだ」


「なら、教室で待ってるね」


「いや、いいよ。終わるまで待たせるのはさすがに悪いし……」


 もし、私に気を使っているわけじゃないとしたら紺野くんは罰ゲームのことを……。


「大丈夫だよ。紺野くんに会えるなら何時間でも待てるし」


 ううん、罰ゲームのことを知っているならすぐにあちらから別れようと言ってくるはずだ。紺野くんが二股オッケーな人じゃない限り。


「じゃあ、5時に校門前でいい?」


「うん、待ってるね」


 私はニコッと紺野くんに、ではなく天羽に笑いかけた。すると天羽は、なんですか?と涼しげな表情で返してきた。


「紺野くん、先に部室へ向かってくれませんか?」


「えっ、あぁ、うん……」


 天羽は、紺野くんをこの場から離れさせ、私の方を見た。


「相川さんは、紺野くんのことが好きなんですね」


 中学の時は下の名前で呼んでいたのに天羽はいつからか名字で呼ぶようになった。おそらくあの日がきっかけだろう。


「うん、大好きだよ。なんか天羽と久しぶりに話せて嬉しいな」


「ふふっ、そうですね」


 てっきり私は嬉しくないですけどとかそういう言葉を言うかと思った……。


「ねぇ、あの時のこと、ちゃんと反省してるからまたあの頃に戻れないかな?」


 すぐには答えてくれなかった。けど、彼女は頭を軽く下げた。


「ごめんなさい、相川さんとはキャラが違うし一緒にいてもお互い辛いだけです」


「そっか……。ねぇ、天羽……もしかして」


 一歩彼女に近づき、耳元で囁いた。


「紺野くんのこと好きなの?」


 そう言って私は後ろに一歩下がり首を小さくかしげた。


「好きですよ。それが何か?」


 求めてる反応と違い、私は舌打ちしそうになったが唇を噛みしめてどうにか抑えた。


「ごめんね、取っちゃって」


 彼女の諦める顔が見たくてそう言ったが、彼女はクスッと笑った。


「……少しでも隙があれば私は紺野くんにアタックするつもりですよ」


「……そ、そうなんだね。またね、天羽」   


「はい、機会があれば……」






***





「ごめん、少し遅れた」


 部活が終わり、校門へ行くと相川は、1人で待っていた。


「ううん、待ってないよ。じゃ、帰ろっか」


 久しぶりに彼女と帰った気がする。罰ゲームだと知らなかったら多分相川と楽しく話せたんだろうけどな。


 話す気にもなれず黙って歩いていると相川は口を開いた。


「紺野くんってさ私のことどう思ってる?」


「どうって……」


「ほら、お試しで付き合い始めたじゃん。私としてはやっぱりずっとお試しのままっていうのは嫌だなって……」


 つまり二股をしたいってことか。それかあちらを諦めて俺に乗り換えたか……。


「ちょっと考えさせてくれる?」


 勝手に決めてしまうと大原とのやり返しが失敗する、そう思った俺は、保留を選んだ。


「わかった、お返事待ってるね」


(残念だけど答えはもうノー以外あり得ないんだけどな)










     

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