第6話 照れ隠しなわけない
「私としてはやっぱりずっとお試しのままっていうのは嫌だなって……って相川は言ってたけど」
夜、大原から電話がかかってきたので今日の帰り道の出来事を伝えた。
『本心なわけないでしょうね。紺野くん、これ、完全に遊ばれてますよ』
「それは俺も思う。けど、なんで俺なんだろう」
適当とわかっていても俺はそれで、納得できない。罰ゲームなら普通もっと早くに俺を振るんじゃないか?
相川には彼氏がいる。それなのにこんな二股みたいなことをしたらバレた時に大変な想いをするだけなのに。
『それは私にもわかりません。もしかしたら友達の前では罰ゲームだから告白したって言ったけど実は本当に紺野くんのことが好きでしたって、可能はありますね』
それはない気がする。「ごめんなんか好きじゃなくなったとか言って別れるわ」とか裏で言われたし。
「照れ隠しってやつ?」
『そうです、人前では嫌いって言うけど、実は好きってやつです。まぁ、相川さんには彼氏がいますのでその姿を可愛いとは思いませんが……』
それは大原と同意見だ。相川に好かれていても俺は全く嬉しくない。
「なんかこんなことあったら暫く恋愛はできそうにないな……」
付き合ってまた罰ゲームでした、みたいな展開になるのはさすがにごめんだ。そんなこと中々ないだろうけど。
『そうですか……。私だったらそんなこと絶対にしないのに……。告白は好きな人にだけするものです』
「そう言えば、大原って好きな人がいるんだったよな」
『はい……。あの、紺野くん』
「どうした?」
急に大原の声が小さくなり何かあったのだろうかと心配になる。
『わ、私達ってその友達で同じ部活じゃないですか……親しい仲というかなんというか……』
「そうだな……」
『だからその……下の名前で呼んでほしいです。それと私、奏くんって呼びたいです』
電話のため相手の顔は見えないが、彼女が今どんな顔をしているのか想像してしまった。
「わかった。じゃあ……あ、天羽」
『はい……天羽って呼んでくれると嬉しいです』
「うん、これからはそう呼ぶよ。ところで話戻すけど明日また聞かれたらどう答えるのがいいんだ?」
お試し付き合いをやめて本当の恋人になるという問いはノー以外あり得ないが……。
『そうですね。もし、聞かれたらわかったと言ってもらえますか?』
「えっ?」
『準備もできましたし、まずは紺野くんと相川さんが付き合っていることを周りの人に知ってもらいます。おそらく今、2人が付き合っていることを知っている方は、私と相川さんの友人ぐらいだと思います。後、森本先輩が』
最初の頃、付き合ってるんじゃないかと噂されていた。けど、だんだんと相川と俺が一緒にいることが減ってきていたので噂は自然消滅した。
『周りの人に相川さんが男の子2人と付き合っていることを知らせる。周りがそれを許すわけがありません』
なるほど、相川が二股してるって皆に知らせるってことか。それならちゃんとやり返しになる。周りに二股してる女と思われたら彼女の今ある立場はなくなるだろう。
『今日、森本先輩に相川さんが二股してますとお話しに行きましたが、どうやら先輩は知っていたようです。彼氏彼女どちらもおかしな方です』
おかしな方……まぁ、それは天羽と同感だ。二股オッケーな彼氏というのは少しおかしい気がする。
相川が彼氏にどういう伝え方をしているか知らないが……。
『最後に。二股していると皆に知られたその時、奏くんは思いっきり彼女を振ってください』
***
翌日、最近はあまり誘われていなかったが、相川がお昼休みになるなり、教室に来た。
「紺野くん、一緒にお昼食べよ」
教室には入らず出入り口で言うものなのでクラスメイト全員に聞こえてしまった。
なので、「えっ、やっぱり2人って付き合ってるの?」と辺りがざわつく。
(まさかあちらから来るとは……)
俺は、周りの視線を気にせず教室の端に座ってこちらを見ていた天羽と目で会話した。彼女は小さく笑い、俺も小さく笑った。
「ちょっと、あんまり大きな声出すなよ。周りに付き合ってること知られるぞ」
俺は、相川と元に行き、知られるのが目的だが、知られるのが恥ずかしい雰囲気を醸し出す。
「ご、ごめん。私としては別に周りに知られてもいいんだけど……。あ、あの、久しぶりに一緒にお昼食べない?」
「いいよ、中庭で食べようか」
「やった、嬉しいな」
教室を出て中庭に食べることになった。実は相川からの誘いがなかったら俺から誘うつもりだった。
教室に迎えに行き、付き合っているんじゃないかと思わせる行動を起こそうとしていた。
けど、まさかあちらからそう言った行動を起こしてくるとは思ってもいなかった。
「そうだ、昨日聞いた問いに答えは出たかな?」
「うん、ちゃんと考えてきたよ。俺達ちゃんと付き合おうか」
好きだから付き合うわけじゃない、やり返しのためだ。
俺の言葉に普通なら喜ぶはずだが、当然彼女は驚きそして半分こいつ、本気なのかと疑ってるような表情をしていた。
「相川?」
「えっ、あっ、うん……う、嬉しいな。じゃあ、これから本物の彼氏としてよろしくね、紺野くん」
「うん、よろしく」
(振られるまでの間だけ)
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