第7話 奈々のお願い

 付き合っていることが広まるのは一瞬だった。奏くんと相川さんが一緒にいることが増え、本人達が付き合っていることを隠さなくなってからは。


「困っちゃいましたね、相川さん……このままじゃ二股女として有名になっちゃいますよ」


 ふふっと小さく笑い天羽は、アルバムに保存された写真をスマホで見ていた。


 ちゃんと反省してるからまたあの頃に戻れないかなと彼女が言われた時、私は何言ってるんだこの人とつい口にしたくなった。


 私のこと散々こきつかって友達っていいつつ全然友達らしいことしたことないのに。


 中学の校外学習でのグループ分けであったことは今でも覚えてる。


 一緒にグループになろうと約束していた友達と無理やり引き離されたこと。


「天羽は、男好きだしこっちのグループがいいんじゃないかな?」


(男好きじゃないし……)


 そうじゃなくても奈々の発言の影響力は凄く、皆すぐに私が男好きということを信じてしまう。


「私は美帆さんと組む約束をしてます。なので他のグループは──」

「奈々ちゃんのいうこと聞きなよ。あんた達はどこでもいいでしょ?」


 なんで、奈々のいうことを聞かないといけないんだろう。私達には好きなこと組む権利すらないんだろうか。


「先生、グループ決まりました!」


 奈々は、勝手に決めて結局友達とはグループを分けられた。


 奈々と同じクラスが嫌で1年間は耐え続けた。翌年からは別のクラスになったので奈々とは卒業後まで一度も話さなかった。







***





 放課後、写真部はいろんな部の活動しているところの写真を撮りにいっていた。


 俺と天羽は、サッカー部担当になり試合が終わったタイミングで撮った写真を確認していた。


「今日も相川さんと帰る約束はしましたか?」


「うん、したよ」


「カレカノっぽくていい感じです。奏くん、ちょっと横に来てください」


 天羽は、スマホを片手に俺に手招きした。一緒に写真を撮るということだろうか。


「夕日をバックに撮りましょう。ほら、いきますよ」


「ちょ、近っ───」


 近い気がしたが、カシャッと音がした。慌てていたので絶対変な顔をしてる……。


「撮った写真見ますか?」


「ま、まぁ……一応見ようかな」


 彼女のスマホの画面を覗き込むとそこには笑う天羽とぎこちないけどちゃんとして写っている俺の姿があった。


「奏くんに送っておきますね」


「ありがと」


 この時、俺は気付かなかった。誰かに写真を撮られていることを。







***






 部活が終わり、待ち合わせの場所である校門へ行くと相川が待っていた。


「あ待たせ、帰ろっか」


「うん! ねぇ、紺野くん、今日は部活で何してたの?」


 歩きだしてすぐに相川は俺に尋ねてきた。天羽に相川から聞かれる質問には素直に答えない方がいいと言われているが、部活動の内容は嘘をつく必要がないので素直に答える。


「今日は外で写真を撮っていたんだ」


「へぇ~、何の写真?」

 

 興味ない癖に聞いてくるなよと言いたくなるが何とか抑える。


「部活の写真だよ。卒業アルバム用だって」


「そうなんだ。何部の写真を撮ったの?」


「サッカー部だよ」


「そうなんだ。いい写真撮れた?」


「まあまあいい感じに撮れたつもりだよ」


 あまり楽しくない会話で俺は、早く相川と別れたかった。


「そう言えば、最初は私のことさん付けしてたのに最近は呼び捨てだね。なんで?」


 いつもみたいな明るい表情ではなく恐怖を感じるような笑みで相川は聞いてきた。


「さん付けだと堅苦しいからだよ。さん付けの方が良かった?」


 いつの間にか本人の前でもさん付けをしてしまっており、聞かれたときはドキッとしたが、何とか動揺を隠す。


「ううん、別にいいよ。けど、私は奈々って呼んでほしいな」


(やだなー)


「いいよ」


 天羽の時はじゃあ、これからは互いに下の名前で呼び合おうとなったが、俺は呼んでほしくないので何も言わない。


 すると、相川は恥ずかしそうにうるっとした目で見てきた。


「なら、私も紺野くんのこと奏くんって呼びたいな」


(まぁ、そんな予感はしてましたわ)


「いいよ」


「ふふっ、じゃあ、これからは奏くんって呼ぶね」


 嬉しそうに笑う相川。そして俺は、小さく頷いた。


「そう言えば奏くんって天羽とはどういう関係なの?」


「部活仲間だけど……」


「そうなんだ」


(あれ、天羽って下の名前で呼んでるけど天羽と相川は、仲がいいのか?)


「なぁ、相川は、あ……大原と仲いいのか?」


 つい気になってしまい俺は、相川に尋ねた。


「あれ、知らないの? 私と天羽は同じ中学校だよ」


「そ、そうなのか……」


 俺は、相川に嘘をつかれて罰ゲームで恋人がいるのに告白してきたことに対してのやり返し。


 だが、彼女がなぜそのやり返しに協力してくれるのかわからなかった。もしかして天羽は相川と何かあったのだろうか。


「天羽と私はすーっごく仲良かったんだよ? 中学2年生の時に同じクラスでいつも一緒。けどね、いつからか天羽に避けられるようになったの。私、何かしちゃったのかな……」


 寂しそうに語る相川。嘘か事実かは何となくわかった。


「喧嘩でもしたとか?」


「喧嘩はした覚えないなぁ~。だって、仲良しだし」


 仲良しなら避けられることないだろ。距離置かれてる時点で何かあったのは間違いない。


「ねぇ、奏太くん。お願いがあるの」


(嫌な予感しかしない。まぁ、聞いてやるか)


「お願い?」


「うん。天羽とまた仲良くなれるよう協力してほしいの」









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