第4話 演技には演技を

「あっ、おはよう」


 翌朝、階段を上っていると後ろから相川が話しかけてきた。


「おはよう」


 彼氏がいてよく付き合おうなんて言ったもんだ。彼氏いるなら罰ゲームだとしても断れよ。


「ねぇ、昨日何かあったの?」


「用事ができたんだ。ところでさ今日の放課後、部活ないから一緒に帰れるよ」


「あっ、うん。嬉しいなぁ~」

 

(演技か……)


 



─────昨夜。




「演技?」


『はい、あちらが演技をしてくるなら私達も演技をするんです』


 電話越しから聞こえるのは大原の声だ。寝る前に明日どうするかを話し合っていた。


『こんな酷いことをしたんです。彼女の本性を暴露しましょう』


 相川の人気は男女共に高い。なので俺達が相川が彼氏がいるのに俺に罰ゲームで告白してきたということを口にしても誰も信じないだろう。


 信じてくれないことをやっても意味がないので俺達がやることは確実に信じてもらうやり方。


『暫くは相手が別れようと話を切り出すのを阻止してください』


「わかった」


『そう言えば調べたところによると彼女、相川さんは同じ学校の森本先輩と付き合っているそうですね』


「誰から聞いたんだ?」


『相手さんの友人に。意外とすんなり教えてくれました』


 すんなり……ねぇ……。声のトーンがあまりにも明るすぎて何かしたんじゃないかと思い、怖い。


「ちなみに森本先輩ってどんな人とかわかる?」


『わかりますよ。3年生では1番モテている方です。サッカーのキャプテンをやっています』


 なんか答えが普通に帰ってきて検索したら答えが帰ってくる的なシチュエーションを感じる。


「周りが言うところのお似合いカップルだな」


 美男美女と周りから言われてもおかしくないが、周りは、相川と森本先輩が付き合っていることを知られていない。


『そうですね。さて、ここからが本題です。明日、森本先輩に話しに行きます』


「話すって何を?」


『もちろん、相川がやったことすべて』


「もしかして2人を別れさせようと……」


『しませんよ、メリットありませんし。私がしたいのは協力者を増やすこと。信じてくれる人が私達には必要です』


 大原が何を考えているかわからないが、やはり彼女の本当の目的が見えない。


 やり返しと言っているがそのやり返しが俺と彼女では違うように感じる。


 俺は、相川に嘘をつかれて罰ゲームで恋人がいるのに告白してきたことに対してのやり返し。


 だが、彼女は何のためにそのやり返しに協力してくれるんだろうか。






***







「紺野くんに酷いことをする人は許せません。やはりああいう酷い方はいつまでも変わらないものですね……」


 紺野くんとの電話を終えた私は、ベッドに仰向けになって寝転び近くにあったクッションを手に取る。


 人の恋愛に何かをいうつもりはない。だから紺野くんから相川さんと付き合い始めたことを聞いたとき私は素直に祝福した。


 例え相手が私が1番嫌いな人でも紺野くんが付き合い始めたいと思ったのなら応援してあげたい。


 けど、やっぱりそれは間違いだった。彼女の性格の悪さを知っている私が止めれば良かった。付き合うのはやめた方がいいと。


 相川さんに彼氏がいるというのに罰ゲームだからと言って紺野くんに告白し、3カ月付き合っていたことを知ったあの日。


 私は相川さんに対して呆れていた。中学から全く変わっていないなと。


 けど、中学の頃、ある出来事があった。


「天羽ちゃん、これ一緒に持っていってくれる?」


「う、うん。いいけど、これは、自分で持っていくものじゃないの?」


 課題のノートを提出しに行こうとすると奈々はついでに持っていってほしいと私に頼んできた。


「お願い、天羽ちゃん」


 上目遣いでお願いしてきた奈々に私は断れずうんと頷くことしかできなかった。


 断りたかったが、周りが行ってあげなよという目線で私を見てきたからだ。


 奈々は、自分の見せ方が上手く、男女共に人気があり、ほどんどの人が彼女の味方だ。彼女といると逆らったらダメという空気ができあがる。


「天羽ちゃん、奈々ちゃんってわがままだよね。頼まれても断った方がいいと思うよ」


 私の友達にはどちらかというと奈々が苦手な子がいた。だから何かを頼まれている私のことを

よく心配してくれていた。


「私もそうしたいけど……ね?」


 断わるのが怖かった。クラスの女王様的な存在である奈々を敵にしたらもしかしたらいじめられるんじゃないかって。


 そんな日々が続く中、私は聞いてしまった。彼女と仲がいい人達の会話を。


「天羽って奈々ちゃんのこと何でも聞いてくれていい子ちゃんだよね」


「うん。天羽ちゃんは私の自慢の親友。私は天羽のこと好きだから頼ってるんだよ? 天羽も私のこと大好きだから頼まれたことに全部『うん』って答えてくれるんだよ」


(違う……私は奈々が好きだからわがままを聞いているんじゃない)


 この時、わかった。奈々は私のことを何でも言うことを聞いてくれる人と思っていることを。


「奈々は、私のことそう思ってたんだね」


「あっ、えっ、天羽……。もしかして今の聞いてた?」


「聞いてたよ」


「……う、嘘だよ? 私は天羽のこと大切な友達だって思ってるし、そんなこと───」

「もういいよ、演技上手いね。裏では人の悪口ばっかりで表は善人ぶるのやめた方がいいよ」


 もう、奈々の言うことは聞かないし、彼女と関わることもしない。


 その日から彼女と関わることはなくなった。同じ高校だと知った時は驚いたが、クラスも違ったので会うこともなかった。


 けど、あの日、紺野くんと部活帰りに久しぶりに再会した。


「あ、あの、今から話せないかな?」


「急用?」


「う、うん……できれば二人で……」


 チラッとこちらを見て相川さんはニコッと笑いかけてきた。その笑みがどういう意味なのかあの時はわからなかったけど今ならわかる。


 相川さんは私が紺野くんのことが好きだと知ってそれで罰ゲームのために相手を紺野くんを選んだんだ。


 誰でも良かったんじゃない。これは、相川さんの私への嫌がらせだ。

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