第3話 振られる前にこちらから振る

「ねぇねぇ、罰ゲームは告白することだけなんだし別れたら? だって別に奈々はあの子好きなじゃないでしょ?」


 そう言ったのはおそらく相川さんの友達だ。教室には5人ほどいて全員相川さんのグループの人達だと思われる。


「あっ、そっか。忘れてた~」


 相川さんの声が聞こえ、俺と大原は顔を見合わせて「相川さんですよね?」と目で会話した。


「今日の帰りとかにごめんなんか好きじゃなくなったとか言って別れるわ」


「うわ、ひどっ」


「酷いのはそっちでしょ? 罰ゲームで帰り偶然見かけた人に誰でもいいから告白しろって言ったのは」


「あはは、そうだった」


 話し声は全部聞こえた。俺は、怒るというより先に罰ゲームで俺に告白したということに納得していた。


 そりゃそうだ……相川さんが話したこともない俺のことを好きになるわけがない。


「昨日帰る時になんかクレープ好きかとか急に聞かれてさ、私、その後クレープに誘われる気がして断ったんだよね」


「えぇ~、奈々、甘いもの好きだし頷いたら良かったじゃん。もしかしたら奢ってもらえたかもよ?」


「あ~、ほんとだ。好きって言えば良かった。私の彼氏ケチだし」


 盗み聞きはよくないが、俺と大原は少しではなくかなり聞いてしまっていた。


 相川さんに彼氏がいるとは知らなかった。なのに告白するか普通……。


 だんだんと腹が立ち、そして納得する。


 大原が言っていた通り、相川さんは本当に甘いものが好きで。断った理由は俺にクレープを食べに行こうと誘われると思ったから。


 もう聞いているのが辛くなってきたのでここから立ち去ろうとすると大原が俺の頬を右手で触ってきた。


「相原さんは、最低ですね……」


「大原……?」


 大原は、なぜか不敵な笑みを浮かべて頬から手を離した。


「紺野くん、ノート取りに行って部室に戻りましょうか」


「う、うん……」


 大原に言われなくても戻るつもりでいたので教室に立ち寄り部室へ戻ることにした。


「紺野くん、今日、一緒に帰りませんか?」


「……そ、そうだね」


 さっきの会話を聞いて、相川さんと帰るのは無理だ。


「罰ゲームで嘘の告白をするなんてあり得ません。あれ、紺野くんじゃなくても誰でも良かったって言っているのと同じですよ」


 彼女が物凄い怒っていることは俺にはわかった。俺も相川さんには腹が立っているが、彼女がそこまで怒る理由はわからない。


 相川さん、別れるって言ってたし俺から何かを言うことはないか……。


「紺野くん、振られるよりこちらから振りませんか?」


「えっ……?」


 部室に入る直前、彼女からそんな提案をされて俺は首をかしげた。


「仕返しです。ただ振って終わらせるわけにはいきません。罰ゲームと言って関係ない人が嫌な思いをして終わるのは腹が立ちません?」

 

 腹が立たないわけがない。偶然会った俺が罰ゲームに巻き込まれて好きと嘘をつかれた。


 事実を知って相川さん……いや、相川がやっぱり好きじゃないと言って別れを切り出されるのは釈然としない。


「腹は立ったけどやり返しって具体的には?」


 そう尋ねると大原は、両手を背中に隠し、小さく笑った。


「そうですね。こちらには嘘をつけないようにするための彼女の証言があります。ここは私に任せてもらえません?」


「お、おう……なんかわからんが、任せる」


「では、決まりですね」


 彼女は両手をパチンと合わせて俺に向かってニコッと笑いかけてきた。


 その笑顔は優しくて可愛い笑顔にも見えるし怖いようにも見える。


「では、やり返しを始めましょうか」








***







 帰りの際、俺と大原の2人でカフェに立ち寄った。


『あれ? 先に帰るって紺野くん、なんかあったの?』


 相川からそんなメッセージが来て俺、ではなく大原が見ていた。


「紺野くんの先に帰るのメッセージの返信がこれですか。別れようと切り出すのは明日でしょうね。それか直接ではなくメッセージで」


 個人的にはメッセージでもいいなと思いながら目の前でカフェオレを飲んでいた。

 

「メッセージで来そうだけど……」


 だって相川、別に俺と会って話したいような奴に見えないし……。


「あら、怒った顔、可愛いですね」


「怒ってない。イライラはしてるけど」


「一緒では?」


 大原に軽く突っ込まれ、俺は、彼女からスマホを返してもらった。


「相川さんと連絡先交換したんですね」


「昨日、連絡先交換した。けど、消すよ。嫌なことは消すか破るかだろ?」


「それは写真の話です。まぁ、他のことにも当てはめられますけど。それより……」


 彼女は自分のスマホを取り出し、頬を膨らませてこちらを見てきた。


「私とは交換してくれないのですか?」


「えっ……あぁ、確かに同じ部活仲間なのに連絡先交換してなかったな」


「では交換しましょう」


 嬉しそうにニコニコしながら彼女は俺の隣に移動して座った。


(そう言えば付き合って3ヶ月経ったのに連絡先も交換してなかったのか理由が今やっとわかった。相川は俺のことをどうでもいいと思っていたからだ)


 大原と連絡先を交換し、彼女はイヤホンの片方を俺に渡してきた。


「これ、耳につけてもらえませんか?」


「何か聞くの?」


「はい、聞いてみてください」


 そう言われたので俺は言われた通りイヤホンを右につけた。もう片方は大原が左耳につけていた。


(何かカレカノっぽいな……)


「これって……」


 聞こえてきたものは自分が聞いたことのある会話で驚いた。


「ふふふ、必要な材料だと思いませんか?」


 そう言って彼女は、スマホの画面をこちらに向けた。



 

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