第9話 これも彼女の想定内

「その写真……」


「うん、校舎の窓から奏くんが見えたから手振ろうかなって思ったけど……天羽ちゃんと楽しそうだね」


 彼女は、笑っているように見えたが、目が笑っていなかった。


「で、どっちが好きなの?」


 ここで嫌いと言えばやり返しはできなくなる。だからここでの選択肢は1択だ。


「奈々だよ。天羽とは友達だ」


「そうだよね? ふふふ、嬉しいな~」


 本当にわからない。なぜ二股のようなことをしてまで好きでもない俺と付き合おうとするのか。


「奈々は、俺のこと好きだよな?」


 告白してきたんだ。ここで嫌いと言ってくれる方が嬉しいが、言うわけない。


「もっちろん! 大好きだよ」


 今の録音して相川の彼氏に聞かせたらどう反応するんだろうか。会ったことはないが、天羽から聞いた限りかないヤバい人っぽいしな、聞かせてもそっかとか言って終わる可能性もある。


 天羽との写真が相川に撮られていたことは知っていた。事前に天羽から相川がそういうことをするだろうと予想して作戦を立てていたのだから。




 その日の夜。天羽に電話で写真を取られていたことを伝えると天羽もその撮られた写真を他の人から見せてもらったことを聞いた。


 後は部活前、天羽がクラスメイトに呼び出され何を話していたのかを全て教えてもらった。


「罰ゲームの下りもあった方が良かったんじゃない?」


『そうかもしれませんね。ですが、まだ取っておきます』


「そっか……」

 

 話が一旦終わり、別の話題に移ろうとしたその時、学年チャットから通知が来た。


「えっ、なにこれ……」


 会話の始まりは『大原さんが私の彼氏を取ろうとしてる』という相川のメッセージだった。そこからそれに対してのメッセージがたくさんあった。





『大原、大人しい顔して人の彼氏にアタックするとかマジないわ』

『ほんと。奈々ちゃんの方が可愛いし、アタックしても負けるだけだって』

『人の彼氏取ろうとするとかサイテー』

『あの写真見た? 相川がいないとこでアピールしてるじゃん』

『うわ、ほんとだ。アピールしたって無理だから諦めなって』


 


 この後にもメッセージは続いていた。天羽に言おうか悩んだが、天羽も学年チャットに気付いたらしく「これは……」と呟いた。


『奏くん、学年チャット見ましたか?』


「う、うん……中々酷いな。天羽、大丈夫か?」


 本人が大丈夫なわけないが心配すると天羽は小さく笑った。


『明日は教室に行くのが辛いですね。ですが、心配しないでください。こうなるとはわかっていましたから』


「それはどういう……」


 どういう意味かと聞こうとしたその時、学年チャットに相川がメッセージを送ってきた。


『みんな、天羽ちゃんはいい子だよ。だから悪くいうのはダメだよ。天羽ちゃんは紺野くんと友達として仲良くなりたいだけかもしれないし』


(なんだよこれ……天羽が傷つくのわかってあのメッセージを送ってきたのに今度は善人振るのかよ)


 それに続くメッセージはどれも相川の味方である人達のメッセージだった。




『奈々ちゃん、マジ優しい』

『普通彼女いるのに狙ってくる女とか許さないのに、奈々ちゃんいい子』 





「天羽、これほんとのこと言った方がいいんじゃないか?」


 このままじゃ皆に誤解を与えたままになってしまう。だが、天羽は大丈夫と言う。


『言っても私の言葉なんて書き消されます』


「けど……」


『心配ありがとうございます。ですが、私はこの状況を待っていました。相手が望む状況にしてあげたんですから』


「どういう意味?」


 そう問いかけると天羽は電話越しに笑った。


『舞台は出来上がりました。さぁ、仕返しを始めましょう。奏くん、明日、朝井さんが皆さんにあることを提案するのでその提案に乗ってください。朝井さんは味方です』








***







 翌日、予想していた通り、いろんな人から噂されていた。




「うわ、よく学校来れるよね。メッセージ見てないのかな?」

「可愛そうだし教えてあげる?」

「なにその優しさー」




 いろんな人からそう言われて俺は勝手なこと言うなよと言いたくなったが、天羽から助けなくてもいいと強く言われたので何も言えない。


(ダメだろこれ……助けなくてもいいって言われてもこれを見ているだけなのは……)


 元は俺が罰ゲームだからって告白されてそれで仕返しで天羽に頼ったりしたのが悪いんだ。


「ねぇ、今日の放課後、写真部が撮った写真と動画見せてくれるらしいから見たい人は放課後残ってだって。ちなみに2組と合同ね」


 写真部ではないクラスメイトの朝井さんがなぜかクラスメイト全員にそう呼び掛ける。


(なぜ2組と合同? それに写真部で撮った写真を見せる予定なんてないけど……)


「紺野くん、何の写真とか動画見せてくれるんだっけ?」


 朝井さんは、俺の席に移動し、そう尋ねてきた。


「えっと……」


 そんな予定は全くなく困っていると朝井さんが耳打ちしてきた。


「大原さんから聞いてない?」


「えっ、詳しいことは何も……」


 けどそういうことか。昨夜天羽が言っていたのはこれか。


「で、何の写真と動画だっけ?」


 朝井さんはみんなに聞こえるような声の大きさで聞いてきた。


「えっと、体育祭と校外学習とか……」


 適当に写真部がこの1年で撮ったものを言うと朝井さんが皆に言う。


「だってさ、体育祭とか校外学習とからしいよ」




「おぉ、見たい」

「体育祭の写真ってスマホ禁止でなかったから見たいかも」

「放課後残ろうぜ」

「そうだな」



 

 朝井さんの言葉によりクラスメイトのほとんどが放課後残って見ようかと話していた。


 これが何のためになるかはわからないが、天羽の言う通り朝井さんの提案に乗ろう。










       

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