第10話 思っていたこと

 放課後、先生に許可をもらいプロジェクターを使って写真や動画の鑑賞会が始まった。


 教室には2クラス全員が残っており1人で準備していると朝井さんが話しかけてきた。


「紺野くん、手伝うよ」


「あ、ありがとう……」


「あっ、そのカメラで撮った写真を見せた後はこのスマホで撮ったやつ流してもいい? 天羽ちゃんから頼まれたからさ」


 そう言って朝井さんは、天羽からもらったスマホを俺にこっそりと手渡した。


「わかった」


 天羽は帰ったのだろうかと教室を見渡すと帰らず教室の端で座っている彼女の姿があった。


 何も教えてくれなかったけど天羽は一体何をするつもりなんだろう。


「じゃあ、写真と動画を混ざってるけど順番に流すね」


 準備ができ、クラス全員に言って鑑賞会は始まった。


 俺がカメラで撮ったものと天羽が撮った写真、動画を流した。




「あっ、夏ちゃん、写りに行ってるじゃん」

「違うよ~。紺野くんに単独写真の許可もらったし~」

「それなら俺も撮ってもらえば良かった~」


 みんな楽しそうに見ていて俺は嬉しくなった。自分が撮った写真ってあんまり見てもらう機会ないからなんかいいな。




 カメラの分を全て流し終え、天羽のスマホを線に繋ぎアルバムに入っているものをプロジェクターに写した。


 何を流せばいいかは朝井さんから教えてもらったので迷わず言われたアプリを押した。


 写真、動画と交互に流した。文化祭や校外学習での写真で教室は大いに盛り上がっていた。残すは最後の動画。


 ここまで普通に楽しそうに皆が写る写真や動画だったけど……。


 益々、天羽の考えていることがわからず取り敢えず最後の動画を再生した。その動画は音声だけだった。


 始めに聞こえたのは相川の声だった。




『え~、罰ゲームとか嫌だな~』

『ダメだよ、罰ゲームとして奈々は誰かに告白するんだよ』

『も~、みんな厳しいなぁ~。じゃあ、私、紺野くんに告白しよっかな』

『なんで紺野くん? クラス違うじゃん。どこで知り合ったの?』

『知り合いじゃないよ。初対面。だから一目惚れって言う設定で告白するの』

『はぁ……奈々は可愛いしオッケーされそうだなぁ~』

『いやいや、それはないって』





 そこで音声は切れ、辺りはざわざわし始める。そりゃそうだ、こんなものが流れたのだから。


 天羽が罰ゲーム後の音声データを持っていて俺は驚いた。持っているということは天羽は、罰ゲームのことを俺より前に知っていたということ。


 天羽の方を見ると彼女は俺の視線に気付き不敵な笑みを浮かべた。その笑顔は、まだ終わっていませんよというメッセージ。


 動画は終わっておらず、また誰かの声が聞こえ始めた。その音声は音も聞いたことあるものだった。






「ねぇねぇ、罰ゲームは告白することだけなんだし別れたら? だって別に奈々はあの子好きなじゃないでしょ?」

「あっ、そっか。忘れてた~」

「今日の帰りとかにごめんなんか好きじゃなくなったとか言って別れるわ」

「うわ、ひどっ」

「酷いのはそっちでしょ? 罰ゲームで帰り偶然見かけた人に誰でもいいから告白しろって言ったのは」

「あはは、そうだった」

「昨日帰る時になんかクレープ好きかとか急に聞かれてさ、私、その後クレープに誘われる気がして断ったんだよね」

「えぇ~、奈々、甘いもの好きだし頷いたら良かったじゃん。もしかしたら奢ってもらえたかもよ?」

「あ~、ほんとだ。好きって言えば良かった。私の彼氏ケチだし」








 動画が終わった後、驚きを隠せない人は皆、相川に視線を向けていた。


「えっと、奈々ちゃんの声だよね?」


 相川のクラスの女子が彼女にそう問いかけると相川は下を向いて何も言わない。




「うわ、黙るってことは本当なんだ。昨日のメッセージも全部嘘だったってことだよね?」

「そういうことになるよね。てか、奈々ちゃんって性格悪かったんだね」

「みんなの前ではいい子ちゃん演じてたんだね」

「最後、彼氏いるっていったよね? 森本先輩と付き合ってるってことはまさか二股?」

「ヤバッ、まず紺野くん可哀想だよ。相川さん、謝ったら?」

「いやいや、謝って済む話じゃないでしょ」




 周りが何と言おうと相川は何も言わない。相川奈々の本性が知られてしまい、天羽は満足していた。


 暫く沈黙が続き、シーンとした空気になる。だが、イスを引く音がしてその空気は破られた。


「あははは、みんな顔が怖いよ? ほんとの私が知れて良かったね。そうだよ、私はみんなが思うような人じゃないよ」


 急に話し出した相川は、この場の空気を一気に変えた。 


「思ってること口にしないだけでいつも可愛いとか優しいねとか言ってくる人達は全員バカなぁ~って実は思ってた」


 本性がバレたからもういいやと思った相川は、次々に思っていても言わなかったことを言い出す。


「可愛い仕草するだけで男子はコロッと態度変えてきて気持ち悪い。女子は私といたら男子にモテるって勘違いしてるのか知らないけど仲良くなりたくないくせに近づいてきてうざい」


 相川は天羽が座っている席の前まで移動し、ニコッと笑った。


「ごめんね、天羽。昨日のメッセージとか後、好きな人取っちゃって。紺野くんとは別れるから大丈夫だよ」


「大丈夫……何言ってるかわからないです」


 天羽は、小さな声で呟き、イスから立ち上がった。


「私に謝るよりまず紺野くんに謝るべきじゃないですか?」












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