第11話 君の性格の悪さは知っている
天羽があんなに大きな声を出しているのは初めて見た。天羽の言葉に相川は謝った。
「ごめん、紺野くん」
人に言われて謝られるのは少し嫌だったが、謝ってきたので許す……ことはできなかった。
「俺は、多分一生このことを許せない。何でこんなことしたか知らないけど森本先輩や天羽にはちゃんと謝った方がいいよ。あと、ここにいるみんなにも」
「……うん、そうだね」
「後、相川とは付き合えない……」
「うん、そうだよね。振るのが正解だよ」
相川はそう言って服の袖を掴み、口元にやってなぜか笑った。俺への謝罪をした後、教壇に立ち、みんなの方を向いた。
「みんなごめんね。思ってたことつい言っちゃった。動画でもあったけどあれは全部ほんとだから。罰ゲームで天羽が好きな紺野くんに告白して彼氏いるのに付き合ってた。最低な女なのは自覚してるよ」
みんなの目の前に立って謝る相川。皆は、許すか許さないかで近くにいた人と顔を見合わせる。
「私は別に許してもらいたいなんて思ってないから何も言わなくていいよ」
そう言って相川は、教室から出ていく。
「うわ、逃げた。大原さん、何か災難だったね。昨日のメッセージ信じて悪口言ってごめん」
周囲にいた人が天羽に謝り出すが、彼女はいいよと許す気配がない。
鑑賞会も終わり相川もいないので皆次第に帰っていく。そんな中、天羽はプロジェクターを直す俺のところに来た。気付けば教室には2人だけだった。
「すっきりしました。奏くんはどうですか?」
「俺は……これがやり返しかわからないけどもうこれで相川が天羽に何かすることはないんじゃないかな」
俺は、知らなかった。なぜ罰ゲームに俺を選んで告白したのか。まさか嫌がらせするために天羽が好きである俺を選んだなんて。
「ごめんなさい、私のせいで奏くんに嫌な思いさせてしまって」
「天羽が謝ることないよ。俺こそ相川と何があったかすぐに気付けなくてごめん」
「気付けるわけありませんよ、助けを求めたりしてませんし。さて、そろそろ帰りません? 奏くんと久しぶりに帰りたいです」
一緒に帰りたかったが暫くの間、彼女がいて一緒に帰れなかった。
「うん、今日は部活休むって言ったし帰るか」
「クレープ食べて帰りたいですね」
「あっ、いいな賛成」
一緒に行こうと約束していて中々行けなかったクレープ屋。2人で行こうと約束していたがまだ果たされていなかった。
学校を出てそのままクレープ屋に向かう。そう言えばなんかこれ、放課後デートみたいだな。
「奏くんは、何を頼んだのですか?」
「俺は、抹茶のティラミス。天羽は?」
「私は、イチゴミルフィーユです。食べますか?」
「いいのか?」
「もちろんです。も、もしよろしければ奏くんの抹茶ティラミスも食べたいな……なんて……」
チラチラと横目で俺の抹茶ティラミスのクレープを見て食べたいアピールをする天羽。
(ん、なんだこの可愛さ……)
「いいよ。はい、交換な」
「あ、ありがとうございます」
これが間接キスであることを天羽は気付いていたが、俺は全く気付かず一口もらった。
「美味しかったですね、クレープ」
「そうだな」
クレープを食べ終え、駅まで並んで歩く。クレープの話を終えると天羽が小さな声で俺に言う。
「あの、奏くん。あんなことがあって恋愛できそうにないって言ってましたが、私の話聞いてもらえますか?」
「いいよ」
歩きながら話す内容にも思えなかったので公園のベンチへ座ることにした。すると彼女は俺の方を向いて真っ直ぐと見てきた。
「私、奏くんのことが好きです」
これが嘘の告白とは思っていない。彼女のことは誰よりも信頼しているからだ。
「俺も天羽のこと好きだ」
「ほ、本当ですか!?」
天羽は、両手で俺の手を握り喜ぶ半分、本当かと疑う半分でいた。
「嘘じゃないよ。天羽のこと好きだし、一緒にいて楽しいし、なにより守ってあげたいなって」
そう言うと天羽は、顔を真っ赤にして、うつ向く。そんな彼女を俺は優しくそっと抱きしめる。
「やり返しのためとはいえ天羽が嫌われ者にならなくても良かったんじゃないかって……」
「確かに他の方法もあったかもしれませんね」
「天羽は、相川のこと好きなの?」
「どちらかと問われたら好きでしたよ。けど、今は嫌いです」
「そっか……」
彼女は、俺の背中に手を回し、ぎゅっと抱き締めてきた。
「奏くん、暫くこのままでいてもいいですか?」
「……うん、いいよ」
***
あれから1週間が経った。1週間前と変わったことと言えば相川が1人でいるところを見かけるようになったことだ。
あんなことがあればそうなるのもおかしくないだろう。噂に寄れば相川は付き合っていた先輩に振られたらしい。
理由は教室で言ったことがあの場にいた人以外にも伝わり、先輩にもその話が伝わったそうだ。
二股を知っていて、なぜ急に別れたくなったのか、理由はわからないが。
「おはよ、奏くん」
「あっ、おはよう」
校舎へ入ると後ろから天羽が肩を叩き、俺の横に並んだ。
「昨日は楽しかったね」
「あぁ、また行こうな」
昨日はデートで遊園地に行った。初デートで緊張したが楽しめた。
教室まで昨日ことを話していると階段から降りてきた相川と会った。
「おはよう、奈々」
「お、おはよう……」
天羽から挨拶してくるとは思っておらず相川は驚いていた。
「天羽って性格悪いよね」
「そうかな? 奈々ほどじゃないよ」
天羽は俺に行こうよと言って階段を上り、相川は小さく笑って階段を降りた。
***
「奈々……ちょっと話があるんだけど……」
一人でいることを決めてから話していなかった友達が数人私のところに来た。
「何かな? 私が1人でいるから笑いにきたの?」
私がそう言うと彼女達は頭を下げて謝ってきた。
「罰ゲームだからって嘘の告白は良くなかったのに提案してごめんなさい……」
「私もごめん……」
罰ゲームしたことをあんなに笑って話していたのになんで今になって謝ってくるのだろうか。
「いいよ……もう過去にあったことは話したくない。お互い酷いことしたんだからそっちが一方的に謝ることないよ」
罰ゲームをやると決めたのは私だ。だから悪いのは全て私でいい。
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