第12話 大好きで大嫌い

「天羽、一緒に帰ろう」


 放課後、帰る準備をしている天羽のところへ行った。


「あっ、すみません。今日は予定があるので。明日は帰れますから」


「うん、わかった」


 俺は教室を出ていき、天羽は2組の教室の前まで向かう。


 2組の教室から出てきた奈々を見かけた天羽は、近寄った。


「奈々、一緒に帰らない?」


「いいけど……」


 気まずくなるのは互いにわかっていたことだ。奈々は、なぜ天羽に誘われたかわからず何を考えているんだろうかと考えていた。


「もしかして説教しに来たの? それとも謝罪しろって言いにきたの?」


 中々話を切り出さないので奈々は、天羽に尋ねた。


「どちらもですね。ほんとは説教したいですけど私には似合いませんし」


「あはは……天羽らしいよ。私より全然いい人だよ。性格もいいし、可愛いし」


「ありがとうございます。ですが、今朝と言ってることが矛盾してます」


 今朝は性格が悪いと言ってきて、今は性格がいいと言ってきた。


「私には奈々の行動がよくわかりません。私にどうしてほしかったんですか? とてもじゃないですが、仲良くなりたいと思っているようには見えません」


 推理力がある天羽でも奈々の行動の意味は全くわからなかった。嫌がらせだけならこんなことはしないはずだ。


「仲直りしたいって思ってた」


「仲直り……ですか」


「天羽さ私のこと好き?」


「今は嫌いです。けど、出会った頃は好きだったのかもしれません」


 1人で困っているときに声をかけてくれたのが奈々で天羽はあの時救われた気がしてした。


「ストレートだね。私は天羽のこと、大好きで大嫌い。素直で一緒にいたら得するとか言って近寄ってきたわけじゃない天羽が好きだったから私は誰にも天羽を取られたくないって思ってた」


 その結果が天羽に頼って自分から離れないようにしてしまおうと思うようになっていた。


「そうだったんですね……。奈々って思ってることあんまり口にしてくれないから私、困ってたんですよ」


 今ここで彼女の本心を聞いたとしても関係性を元に戻すことはもう無理だろう。お互いそれはわかっている。


「そうなんだ。そう言えばあの音声データ、誰がとったのか犯人探ししたいわけじゃないけど半分天羽で、半分は私の友達でしょ?」


「……どうなんでしょうね。奈々が犯人探ししたいわけじゃないと言ったので肯定も否定もしません」  


 奈々の言っていることは正しかったが、今さら音声データの持ち主が誰であるかを知ったとしても意味はない。


「うん、それでいいよ。天羽って聞かなくてもだいたい反応でわかるし」


「反応ですか?」

 

「うん、紺野くんのことが好きだって顔見たらすぐにわかったし。天羽、利用されやすいタイプだから気を付けなよ」


 奈々はそう言って立ち止まった。ここからは家の方向が違うのでここで別れる形となる。


「多分もう話すことはないね。バイバイ、天羽」


「うん、バイバイ奈々」


 振り返ることなくお互い別の道を歩いた。








***









 春休み。クラスで仲のいい人達でお花見に来ていた。もちろん、その中には天羽もいた。


「お待たせ~」


 現地集合となり後は俺と天羽だけだったようで急いで皆の元へ行く。


「遅いよ、イチャイチャカップルさん」


 そう言ったのは朝井さんだ。

 

「イチャイチャなんてしてません。美乃里にはバスが中々来なくて遅れるって伝えたはずです」 


「え~、そう言いつつ本当はどっか2人で寄り道したんじゃない?」


「してません。奏くんも何か言ってくださいよ」


「えっ、うん……普通に遅れた」


「反応が怪しい……」


「怪しくないか……って、なんでいるの?」


 天羽は、お花見に来たメンバーを見て何かに気付き、俺も遅れて気付く。


「なんか来てたよ。天羽ちゃんが誘ったって聞いたんだけど」


 朝井さんや他のみんなもそういうので本人に聞くのが1番と思った天羽は彼女、奈々の元へ行く。


「私、奈々のこと誘ってないんだけど」


 天羽は奈々にだけ聞こえるようにそう言うと彼女は笑う。


「いいじゃん。嫌ならここで私に帰ってって言ってみたら?」


「……言えないってわかってて言うなんて。嫌な人ですね」


「ふふっ、私は変わろうとしてるんだよ? 天羽にもみんなにも酷いことしたって自覚あるから今度は誰も傷つけず仲良くするの」


 奈々の言葉に天羽の表情は曇る。絶対彼女にはできないと思っていたからだ。


「無理だと思いますけど」


「天羽ちゃん、ひっど~い。ほら、髪も切って変わろうとしてるんだよ?」


 奈々は長い髪を切り、ショートカットになっていた。確かに何かを決意して切ったのかもしれないが……。


「そうなんですね。私が何かを口出しする権利はありませんし仲良くできるよう頑張ったらいいと思いますよ」


「うん、そうするね」


 奈々と話終えた天羽は、ニコニコしながら戻ってきた。


「さて、食べましょう。奏くんの分もお弁当を作ってきました」





 桜を見ながらお弁当を食べた後、俺と天羽、相川以外はお菓子を買ってくると言って近くにある店へ買いに行った。そのため非常に気まずい空気が流れる。


「奈々、人が多いところ好きじゃないなぁ~」


 相川は、俺と天羽に聞こえる大きさで呟いた。


「じゃあ、何で来たんだ?」


「ん~、天羽がいて楽しいと思える居場所がどんな感じか知りたくて……」


「……俺思ってたんだけど相川って天羽のこと好きだよな」


 俺がそう言うと相川は髪の毛を触りながらそうだねぇ~と呟く。


「君よりは好きだよ。大好きすぎて気が狂いそうなくらい」


 相川がそう言って俺は天羽のことを後ろから抱きしめた。


「いや、俺の方が天羽のこと好きだ。天羽はもちろん俺の方が好きだよな?」


「もちろんです」


「お似合いだよ、2人とも。さて、ここにいるのもつまんないし帰ろうかな」


 相川は立ち上がり他の子達には言わず帰ろうとする。


「バイバイ、天羽」


「……奈々?」

 

 天羽は、何かに気付き、立ち去っていく彼女の後ろ姿を見えなくなるまで何も言わずに見つめていた。










         

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