第2話 部隊長が問題児

ウィルが第八大隊に配属されて1週間が経過した。その間に各部隊長との顔合わせは済ませはしたものの、一癖も二癖もある連中が大半で、なぜ第八大隊ここが王国のゴミ溜めと呼ばれているのか痛いほど理解してしまい、思わず大きな溜め息をつくのだった。


中隊長・・・小隊長・・・クラスの人員リストを眺めつつ頭を抱えて特に問題性の高い人員を確認していく。

第八大隊の問題児としてまず真っ先に名前が上がるとしたらコイツだろう。


騎兵隊長ライオット・バース


銀色で短めの髪が逆立つように上に向かって伸び頂部は平らに切り揃えられている特徴的な髪型で、顔立ちは若干童顔気味でいつもヘラヘラとしたニヤけ面を崩さない。

年齢は20歳とまだ若く、それでありながら部隊長の座についたことを考えるとそれなりの技量を保有していることは推し量られるのだがそれ以上に問題が多数存在する。

遅刻、夜遊びの常習犯で酒を飲んだ勢いで部下と共に馬を駆り騒ぎながら進軍用のラッパを鳴らして暴走活動を繰り返す王国屈指の問題児だ。彼の違反行為を指折りに上げていけば、軍規違反、軍備の用途外利用、素行不良に公序良俗違反と枚挙にいとまが無いのだ。その悪名は師団すら超えて騎士団全体、ましてや近隣都市の近郊や街道沿いでの暴走行為も行うため一般人にすら悪名が広まっている始末である。


続いて個人的に頭を悩めているのが


僧兵隊長エミリー・スカーレットである


神に仕える神職であり戦時特例により衛生兵として教会より徴兵された現役のシスターである。細目で彫りの深い清楚な顔立ちと美しいブロンズのロングヘアーで信心深く毎日のように神に対し自らの血を供物としつつ痛みに耐えて祈りを捧げる姿に何も知らない・・・・・・男共は庇護欲を掻き立てられ、大隊内でもかなりの人気がある。


だが、その実態はかなり異なる

何を隠そう彼女は異常性癖の塊なのだ。

血液性愛ヘマトフィリア欠損性愛アクロトモフィリア加虐性愛サディズムとはっきり言って重症レベルである。

他人が苦しみ流血する姿を何度も見たいと言う理由で治癒魔法を極めたとも言われ、付いたあだ名は「血染めの修道女シスター」武装もメイスやロッドと言った一般的なモノは使わずモーニングスターやスピア等の物理攻撃性能が高い物を好んで使用する。

何より頭が痛いのは戦闘訓練が無い日は必ずと行って良いほどに俺の血が見たいと擦り寄ってくるのだ…


他にも無口の重槍兵隊長や、先日危うく障害沙汰になるところだった傭兵上がりの歩兵と居るのだが癖が強すぎる大隊の隊員を全員確認していては日が暮れてしまう。


当然ながらこのままではまともな部隊として機能するわけもなく何とかして使い物になるようにしなくては行けない。

そんな中、新体制となった第8大隊に任務が降りてきた。

第8大隊駐屯地から北に向かった山林地帯の農村で大規模な盗賊被害が起きているらしい


盗賊の捕縛程度ならわざわざ騎士団が出撃するほどの大事では無く通常なら冒険者や傭兵と言った民間の人間が駆り出されるのだが、今回は場所がまずかった。第8大隊の駐屯地は王国北端、つまり被害が出ている箇所と言うのは隣国であるガーラント帝国との国境沿いと言う事になる。


勿論、少しでも国境線を跨げば国際問題になりかねない、加えて我がマールヴ王国はガーラント帝国とは領土問題で度々戦争状態に突入しているのだ


仮にこの任務で第8大隊が国境侵犯でもしようものなら、戦争状態になりかねない。そうなると意地悪な貴族共は喜々として国王を責め立てることだろう

要するに今回降りてきたこの任務にも貴族派の息が掛かっており上の方は俺たちが失敗することを望んでいるのだ


チッと舌打ちをしつつも、上の望み通り任務を失敗してやるわけにはいかない

失敗したらしたで、俺をダシに新人を大隊長に任命した責任を国王に追求するつもりなのだ。

任務を確実に成功に導く為にも現状のままの隊の状態ではマズいと考え、戦略会議ブリーフィングを開こうと各部隊長に招集を掛けるのだった。


そして凡そ1時間後


まず気怠そうに現れて会議室の戸を開いたのは問題児の一人、騎兵隊長のライオットだった

ふてぶてしい態度で椅子に腰を掛けると


「おう、なんだよ。まだ眠みーのに招集なんか掛けやがって」


口を開くや不満をたれては悪態をつき大きな欠伸をわざとらしく行う

続いて入ってきたのは先日掴み合いあわや乱闘騒ぎになりかけた無精髭天パだ。

名前はマーカス・ジェリドで傭兵上がりのせいか金にがめつく、何かと報酬を要求してくる

俺の顔を見るなり舌打ちをし、そのままライオットの右隣へと腰を掛けて、貧乏揺すりを始める


「隊長様、お呼びでしょうか」


「……………………………」


続けてエミリー、どうやら外面を装っているようだ。

そして一言も言葉を発することなく入ってきたのは重槍兵ミシェルだ。基本的に言葉を発することがなく、またプライベートな時間ですらも甲冑の兜を外さないため表情をうかがい知る事が出来ない為意思の疎通が全く取れないのが難点である


最後に来たのはナターシャだが少し様子がおかしい、チャームポイントのポニーテールが結えておらず、寝癖は残ったままで足元がふらつき顔が青ざめており口を手で抑えている


「ごめん…二日酔い…」




「了解しました」


暫くして、ようやく部隊長が揃い全員が席につく。ナターシャもスッキリした表情でさも当然かの如く俺の左隣に座っている


「それで、ウィル隊長今回の招集は何用ですか?」


朝一番の時間に招集を掛けられて不満タラタラな連中を纏める為にまずナターシャが声を上げ招集理由を訪ねてくる


「第八大隊に任務が下った。」


俺の一声目を聞くなり、マーカスとライオットがまたいつもの下らない任務かと言った感じで、途端にダラけた態度を取り始める

そのあからさまな態度に苛立ちを覚え、会議室の机にドンッと拳を振り下ろす


「短気さは変わらずのようだな、隊長さんよ」


「マーさん!」


マーカスがさらに挑発するようにニヤニヤとした笑みを浮かべつつ言葉を発するがそれを諌めるようにナターシャが止めに入る


「んで、その任務ってのを教えてくれ隊長」


マーカスとナターシャのやり取りをスルーして騎兵隊のライオットが会議を進めようと口を開く


「北部村落の治安正常化任務、要するに盗賊捕縛だ」


「盗賊捕縛ごときに俺たちが出る必要あんのか」


「場所が問題なんだ、ここよりさらに北部、つまり王国最北端だ」


それを聞いたナターシャは顔を青ざめて、本気で言ってるのかと言った雰囲気の表情を見せる。

しかし、ナターシャがなぜそのような表情をするのか、学の低い男連中は理解していない様子で疑問符を浮かべる


「隊長様、それはつまり国境の直ぐ側と言う事ですね」


「そうだ、俺たちがしくじれば国際問題に、最悪戦争状態に突入しかねない」


「めんどくせぇな」


ここで失敗パターンを改めて纏めてみる

1つ目はまず単純に俺たちが国境侵犯をした場合だ。これは言うまでもないだろう


2つ目は捕縛し損ねた盗賊が国境を跨ぎ隣国で被害をもたらした場合。これは国境の治安維持能力欠落としてガーラント帝国から抗議と共に侵攻の理由付けになりかねない


3つ目は村落の壊滅。北端の地方と言えど大切な王国民だ。もし守りきれなければ俺が国王派であることを利用して貴族派が発言力を増してしまう事だろう


これらの条件を1つも落とすことなく、国境沿いに出没する盗賊を捕縛、壊滅させなくてはいけないのだ、なんとも面倒な任務である。

各部隊長にその事実を告げてこの任務をなんとしても成功させるために、入念な作戦を組み立てて説明していくのだった

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