アルヴァス大陸戦記
@GAROAD
第1話 配属そして…ゴミ溜めへ
「ウィル・アーダント、汝をマールヴ王国第5師団第8大隊長に任命する」
絢爛豪華な王城の謁見の間にて俺は国王から配属を言い渡される
「拝命いたします」
「うむ、汝の益々の精進を期待する」
王から配属の勅命が下されるとクスクスと笑い声が響いてくる。
不敬に当たらないようにと顔を動かさず周囲に視線を向けると、でっぷりと脂が乗り意地悪そうな人間性が
それもそのはずで、王国軍の師団や部隊は数字が若くなればなるほど優秀さを表している。第1師団は王国防衛を主任務とし、近衛兵等も属している最も力がある師団である。それに対して第5師団というのは僻地での戦闘を主任務とし、いわゆる冷や飯食らいの師団であり加えて、あくまでまた聞きの範疇ではあるのだが第8大隊と言うのは、命令違反は当たり前、連携無視に上官侮辱、部隊内での暴言に任務中の飲酒と素行不良の見本市のような部隊なのだ。
なぜ俺がそのような部隊に配属されることになったかと言うと、単純に
アーダント家は元々が現国王の統治を推進する国王派と呼ばれる一派である
しかし、当然ながら現国王の統治を面白く思わない貴族の派閥も少なくないのだ
そこで貴族派は国王派の人間を何とかして陥れようとするのだ。
加えて我が家は父親であるゲイルは第一師団即ち、帝国で随一の実力者が集まる師団の師団長、さらに姉のアリアは第二師団第一大隊長で国一番の魔法の使い手として名を馳せている。
このように一族がみな優秀な部隊に配属されるとアーダント家ひいては国王派の発言力が上がるため貴族と騎士団が共謀し王への進言等でわざと配属先を歪めて足の引っ張りあいをしたりするのだ。
真に国の事を思えばその様な行為は愚劣さの極みだと分かりそうなものだが、人間とは欲望と言う動力源を理性と言う舵でコントロールする生き物なのだ、その舵が少しでも狂えばこのような事は幾らでも起き得るのだ。
「全く…無能の貴族どもが!」
俺は謁見の間を出て呟くと大きく溜め息をついた後に悪態を取る
入団試験の学術試験は主席、実技試験も五本の指に入る程の成績で合格している。
そのはずなのにこの配属は本来あり得ないのだ。個人的には兄貴分が在籍している第3師団の新戦術試験大隊に配属されたかった。
それでも新入の身で有りながら大隊長と言うのはかなり特異である。
そこはやはりアーダント家のネームバリューと入団試験での好成績、それに第一師団長でもあり我が父でもあるゲイルに対する国王の
だが配属命令は王命である以上逆らうわけには行かない、長時間の馬車に揺られて第8大隊の駐屯地に到着する、イマイチやる気が無いがしぶしぶと第8大隊の宿舎の戸を開く、壁に染み付いたキツイ蒸留酒の匂いが鼻を突き、足の踏み場もない程に溜め込まれた洗濯物や食い散らかされた食料品の残骸が床を埋め、吐瀉物を拭き上げたと思われる雑巾が悪臭を放っている
「くっ…なんと汚らしい…」
第8大隊が王国のゴミ溜めと呼ばれている事は聞いていたしある程度の覚悟はしていた、しかし仮にも国が管理する騎士団の一部隊であり最低限の環境は整っていると考えていた。だが現実はコレだ…想定以上に荒れ果てた見るも無惨な宿舎の様子に思わず顔を顰めて嫌悪感を顕にする
「おっ?アンタが噂の新しい部隊長さんかい?」
ボロボロの椅子に腰を掛けて傷んだテーブルに肘を着けてだらけている天然パーマで鳥の巣のようなもじゃもじゃした髪型に無精ひげを生やし主観的に見て30歳丁度位の見た目からして不潔そうな男が気だるそうに声を掛けてくる。
その手には、まだ日の高い昼間だと言うのに、木製のジョッキが握られ、ぶどう酒独特の酸味のあるアルコール臭が漂ってくる。
「おい、このあり様はなんだ」
「ようこそ、王国のゴミ溜めへ」
「質問に答えろ!」
ただでさえ冷や飯食いの部隊に配属されてイラついてる所に、想定以上の破綻した宿舎に、常識の欠片さえもなさそうな部隊を宛てがえられて思わず怒鳴りつける
「はっ、
「どういう事だ…」
「そんな事も知らねーとは隊長さん、あんた第8大隊を見るのは初めてかい」
「そうだ、今年の入団試験で騎士団入りし、国王陛下より第5師団第8大隊長を任じられたウィル・アーダントだ」
「アーダント…聞いた名だな…確か上位師団にそんな名前の奴が…」
「第一師団長ゲイル・アーダントは俺の父親だ」
「納得がいったぜ、つまり親の七光りで大隊長の座に着いた新入りのボンボンか」
「貴様!上官侮辱罪で独房に突っ込まれたいか」
顔を合わせた早々に名も知らぬ相手からいきなり罵倒の言葉を浴びせられ、頭に血が登り男の胸ぐらを掴むと宿舎の壁に押し付けて怒鳴りつける
「随分と短気な奴が隊長になったもんだ。別に良いぜ独房に突っ込めよ。どうせこれ以上この大隊で失うものはねぇんだ」
まるで関係ないと言った感じでものぐさそうに男は言い返して来たためさらにカッとなり掴んでいた胸ぐらを乱暴に床に向けて放り投げる
「殴る度胸もねぇチキンかよ」
床に腰を打ちつけながらも減らず口を閉じずさらに男は暴言を吐いてくる…
そこに宿舎のドアががチャリと音を立てて開きもう一人隊員と思われる女性が入ってくる。
赤く長い髪を後ろで束ねたポニーテールに
強気な雰囲気を感じさせる切れ長の目に鼻筋が通った整った顔立ちだが身長は低めで俺より頭一つ以上小さく小柄な体型には似合わない木製の長弓と矢筒を背負い弓兵であることを示している。
そして俺はその顔に見覚えがあった
「ナターシャ・レイベント…」
「ウィル坊?」
入ってきたのはアーダント家の分家に当たるレイベント家の次女で、年齢が2つ上の幼馴染みであるナターシャであった。小さく可愛らしい出で立ちなのだが年上という意識があるのか昔から何かと姉面をし俺に対しマウントを取ってこようとするため中々に鬱陶しかった覚えがある。彼女が俺を呼ぶウィル坊と言うのもその名残りである
「なんでナターシャが…この隊に…」
「新しく配属される隊長ってウィル坊だったんだ」
「ナターシャは前の部隊で命令違反をしてこの隊に回されたらしいぜ」
先程投げ飛ばした男が声を上げる
だがそれは信じがたい事だ。
彼女の人となりは幼馴染の俺が誰よりも知っている。決してクソ真面目とは言わないがコミュニケーション能力が高く、部下や目下の者に対する面倒見が良い
決して命令違反をして部隊や部下を困らせるような人間じゃない
「ナターシャが…命令違反…?」
「ナハハ…まぁ極論だとそうなるわね。てかマーさん、また新隊長をからかって遊んでたでしょ。ダメだって言ったじゃない」
「悪いな…新しい隊長さんとやらの気概を見たかったもんでな」
マーさんと呼ばれた不潔そうな男がナターシャに怒られつつ、頭をポリポリとかきつつ「悪かったな」と言わんばかりの表情でコチラをみると手の平を顔の横に立てて軽く謝るようなジェスチャーを取る
俺もまだ完全には収まりが付かないところもあるが、ナターシャの顔を立てる意味もあり、何とか飲み込み気持ちを落ち着けていく。
こうして俺は王国のゴミ溜めとも称される部隊へと配属され、最悪な対面を果たすことになった。確かに第8大隊の連中に何も思わないと言う事は無いのだが、そもそもは足を引っ張ることしか考えられない無能な貴族どもの仕業である
当面の怒りはそちらに向けることで抑えつつこの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます