第11話 峡谷は赤き川に染まる
「お前が指揮官か、作戦は裂壊したぞ」
「先頭の部隊長か、中々に頭が回るみたいね」
言葉を交わしながらお互いに肉薄し、両者の剣がぶつかり合って金切音を響かせる、お互いの鋭い剣閃が弧を描き弾き合う両者とも一歩も譲らずと言った様子だ
「確かに潮時のようね、だけど…カラドリア眠りし力を解き放て」
指揮官の握るカラドリアと銘打たれた剣の緑青色の刃が輝き瞬くと渦巻くような突風が吹き荒びウィルを馬ごと吹き飛ばす、さらにその風は周囲を焼き焦がす火を仰ぎ、炎の勢いが一際強くなる
「やってくれたな」
夜も更けて視界も悪い中だが激しい勢いの炎により赤々と周囲をそしてお互いの顔を照らし出す
「………っ!」
「モニカ?」
「ウィル…?」
「どうしてお前が…」
「神様に祈っても、戦争が終わらないからよ」
「だからってこんな無差別なやり方…」
「取り敢えず今は、引いてあげるわ。アダール要塞で会いましょう」
「待て、モニカァっ!」
騎馬隊を翻しモニカと呼ばれた女性が率いる中隊規模の兵団は瞬く間に撤退して行ったのだった
「モニカ…どうして…」
「隊長、今は感傷にふける場合ではありませんわ」
「そうだな、とにかくまずは火を治めないと、
既に空は白んで、日が登り始めた頃合い、赤く燃え上がった大地は血肉の焦がれる臭いで充満し、山道となっている峡谷は兵士達が流した血流が川のように流れ赤く染めていた
このティムダル峠の戦いは死者総数15,000人を超え重軽傷者も凡そ25000人と言う多大な被害を残し第四・第五師団共に全滅、敗退と言う結果を残したのだった
そして、凡そ丸一日経過し死者の埋葬、要救護者の治療を終え、休憩用の陣地で休んで居た所に第五師団長、アンソニー・ロイスが訪ねてくる
「フッ無様なものだろう、笑うが良い」
「笑えませんよ、それよりもフレイマン第四師団長の容態は…」
「衛生兵の話では未だ意識は戻らないものの、命に別状は無いそうだ」
「そうですか、それは良かった」
「しかし、これではアダール要塞の攻略は絶望的か…」
「歩兵の主力は
「再編した所で一大隊程度しか動ける兵も居まい、第八大隊派どうする?」
この戦いにおいて第八大隊だけはほぼ無傷で切り抜けていたのだ、一応、第八大隊と無傷の兵達だけならば、今から下山してアダール要塞へ向かうことも可能であろう、ただし予定していた兵の数は当初の1/4以下でとてもじゃないが帝国の要所を攻め落とすには数も力も足りない
「この人数でアダールを攻め落とせる等とは考えませんよ、一度本国に戻り部隊の再編を行うべきでしょう」
「すまなかった、貴殿の言葉にもう少し耳を傾けるべきだった」
そこに青い羽根をした人の頭ほどの大きさで猛禽類の様に鋭い爪と嘴を持つ鳥が飛来する、腕を差し出してやると、理解しているのか止まり木の様に
良く見ると魔力で刻印が施されており
胴体に
第二師団第一大隊、通称「
稀代の天才魔術師と言われるアリア・
「姉さんの
「第二師団に何かあったのか」
『ダイニ シダン キケン セマル ハヤク エンゴ モトム』
「あの破壊神の部隊が?一体何の冗談だ」
「ロイス男爵、一応俺の姉さんなのだが…」
「オホン、失礼した。しかしアリア殿の部隊が危機に陥ってしまったようだな」
「ロイス男爵、我々第八大隊は進軍します、友軍の危機を聞いて引き返す程薄情では無いつもりです」
「貴殿ならそう言うだろうと思ったよ…オイ」
「ハッ!」
奇跡的に無傷で残った軽歩兵達がアンソニーに呼ばれる
「我が直属の軽歩兵隊だ、連れて行け。足の速さには定評がある」
「そんな、では我々は…ゴミ溜めの…」
「そうだ、だが価値のあるゴミだ、例えゴミでも使い方次第じゃ宝石にも勝る」
「分かりました、我々軽歩兵中隊これより第八大隊に移ります。」
アンソニー直属の軽歩兵を部隊に編入させて、出立の準備を整える、わざわざ
「この地点から一応、下山が可能な険しい山道がある、旧道で管理されていない為、魔物が出る恐れもあるが、最速で下るならその道しか無いだろう」
「そんな所に道が…」
「地元の人間も使わなくなって久しい道だ、それに近くを魔物が通る獣道もある、使うなら気をつけろ」
「進言、感謝します」
アンソニーの助言によって、危機に陥った第二師団への救援の算段は整った、しかし今までが激戦に続く激戦だったわけで碌な休暇も取れないままここまで駆け抜けてきた。姉の心配はすれど曲がりなりにもマールヴ王国随一の魔法使いだ、そう簡単には敗北しないだろう、むしろ隊員達の士気を考えれば数刻程度の休息は必要というものだ。
第五師団が運搬していた食料の一部を拝借し戦時の野外で作れる料理としては破格のご馳走を
「フッフッフ、じゃーん」
「おっ、ソイツは
「流石、ナターシャ姐さんだ」
「ウィルにはナイショだよ、バレたら取り上げられかねないからね」
「誰にバレるとマズイって?」
「そりゃ我らがウィル隊………長」
油断も隙もないとはまさにこの事だろう、俺の目を忍んで酒盛りを始めようとしていた、マーカス、ナターシャ、ライオットをしっかり咎めつつも、縛りすぎては士気を落とすため、一杯だけ許して残りは没収しておいた
「しかし、あの石頭隊長め、どうやって掴んだんだ?」
木製ジョッキの底に僅かに残った葡萄酒を
啜るように口に入れ愚痴をこぼすマーカス
そこに扉を開きエミリーが入ってくる
「やはり善行を積むのは良いですね、仲間が酒精への依存に陥る事も防げますし」
エミリーただでさえ細い目を糸のように瞑りつつニコリと微笑みを浮かべてマーカスの方を見つめる
どうやらウィルに対して告げ口を行ったのはエミリーのようだ、ずっと第八大隊の仲間としてやってきたエミリーの
しかし当のエミリーは酒を取り上げられ落ち込む3人を尻目に口角を上げ不気味な微笑みを浮かべるのであった
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