第4話 初陣(後編)
※ライオット視点※
「ちぃっ…汚いカマ野郎がケツを狙ってるぞ、トバして引き離せ!」
「「「了解!」」」
ライオットの号令により追従する騎馬隊は一糸乱れぬ統率で付き従い、背後から追い上げてくる盗賊の騎馬隊と距離を開けていく。
「はっ馬の扱いで俺様に勝とうってのが甘いんだよ。」
ライオットは十分に距離を取れた事を確認したところで馬を
しかし
そこに盗賊の弓兵隊による一斉射が襲いかかる。
「クソったれが、一息つく間も無いってか。お前ら、一旦引くぞ!」
矢の雨から逃れる為に、進路を変えて馬の脇腹を3回蹴り
弓兵による一斉射から逃れる為に一斉に駆け出したライオット隊だが、それら全てが盗賊の作戦の内だったのだろう。
程なくして、先程まで後ろから追い掛けていた盗賊の騎馬隊に追いつかれてしまい、進路を塞がれてしまう。
「カマ野郎が追いついてきたか」
馬の手綱を引いて、馬の
「逃げてばかりのチキン野郎、ようやく捕まえたぜ」
「ハッ、男のケツばかり追いかけてるカマ野郎に捕まっても嬉しくないね」
「減らず口を、後ろからは仲間の弓使いが、迫ってるお前の弱い
そう言葉を発してライオット隊をさらに追い込む為に、盗賊の騎馬隊が前進し詰め寄ってくる。
正直言うと、このままでは相手の言う通りジリ貧である。
だが背中を向けて立去るにも退路には弓兵、何よりライオット自身の
残された僅かな時間を目一杯使い何か打開策を考えると藪の隙間に濃い灰色の見覚えのある甲冑が目に入る
どうやら重槍兵のミシェルが救援に駆け付けていたらしい。しかし潜んでいるところを見ると、どうやら奇襲を掛け返す様子のようだ。
ミシェルの意図を汲み取ると、相手の騎馬隊を誘う為に、敢えて進路を引き返し盗賊の弓兵隊が陣取る方向へと駆け出していく。
「へっチキン野郎が逃げ出したぞ!矢の雨を食らわしてやれ!お前らそのまま突撃だ!」
「
静かな号令と同時に重装の槍兵が藪から突如現れて、突撃を繰り出した盗賊の騎馬隊を包囲するように囲い込むと馬の腹や足を斬りつけて機動力を殺していく
背後の憂いが無くなったライオットは持ち前の機動力を取り戻すと、弓兵の矢を潜り抜けて蹴散らすとそのまま馬の体重を用いた
適正距離を取った弓兵は脅威だが、素早い機動力で矢の雨さえ抜けてしまえば弓兵は無手の歩兵と変わらないのだ。
窮地を脱したライオットはピンチを救ってくれたミシェルの方を見るとそちらも既に勝負がつきかけており、ミシェルの堅固な防御を破れず、機動力を殺されてもはや虫の息となった盗賊の騎馬隊の姿が目に入ってきた。
※ミシェル視点※
ライオットが追われているのが分かり、いち早く駆け付けていたミシェルだが、より効率的な討伐を考えて、敢えて藪の中へと潜んでいた。
そんな時だったライオットと目が合った。
2人は言葉を交わすことなくお互いの意図を理解しアイコンタクトによる合図を送りあったのだ。
もちろん言葉を発さない以上ミシェル隊はその意図を理解することは出来ないのだが、ミシェル隊の副隊長だけは辛うじて理解が可能であった。
「もうすぐ、ライオット隊が反転移動を行う。すると相手の騎馬隊がライオットを追いかけ突撃するはずだ」
「…………」
相変わらずミシェルは一言も発さないが、肯定を示すようにコクコクと頷いている。
「相手の騎馬隊が動いたら包囲して、相手の機動力を殺す、陣形は…」
「………クレーン………」
「
ようやく言葉を発したミシェルが陣形を伝えて作戦の全貌が見えてくる。
「へっチキン野郎が逃げ出したぞ!矢の雨を食らわしてやれ!お前らそのまま突撃だ!」
ミシェルが藪から身を乗り出し、タイミングを計る
後ろにも分かるように手を後に見せて指を3本上げて、1本ずつ折り曲げてカウントダウンを勧めていく
カウントダウンがゼロになった拳を振り下ろし号令を下す。
「
勿論、声にだして号令を掛けたのは副隊長である。
「な!なんだテメーら!」
突然の奇襲により盗賊の騎馬隊は隊列が崩れる。
そのまま槍による刺突で次々と馬の機動力が殺されて行き、あっという間に形勢は固まっていた。
「奇襲とか汚い真似しやがって、お前らは王国の騎士様じゃねーのかよ。」
「…………………」
相変わらず言葉を発さないミシェルだが、相手の罵りに反応する感情は当然ある
だが鉄仮面により覆われたミシェルの顔からその様子をうかがい知ることはほぼ出来ない
「ミシェル隊長キレてますよ、突きの威力が通常時の2割増し程度に見て取れます。」
「副隊長も、副隊長でスゲーよな」
「なんであれだけで読み取れるんだ」
「何か念話魔法とか…」
ざわつく周囲だがミシェルが隊員を石突部で小突き隊列を包囲するように動かしていく。
「……………」
「このまま包囲!奴らの馬の足を殺せ」
ミシェルの作戦を周囲に伝えると「正解」と言うかのように、コクリと頷き作戦開始の号令となる槍を振り下ろす
合図を皮切りに隊員達が一斉に突きを繰り出し、やがて盗賊たちの騎兵隊は全滅したのだった。
※マーカス・ナターシャ視点※
「マーさん!右に追い込むよ」
「だ~っ!マーさんって呼ぶな、せめてマーカスさんだろ」
「なはは、マーさんの方が呼びやすいんだから良いじゃん、次20秒後左前方」
「任せろ!大判振る舞いだ!必殺[
ナターシャの計ったタイミング通りに追い込まれた盗賊の歩兵部隊がポイントに差し掛かったところで、マーカスの必殺技により生み出された強烈な衝撃波がゴォッと轟音を轟かせ一気に飲み込んで薙ぎ払われていく。
「いつもながらナイス追い込みだな」
「任せてよ。ほらほら撃ち漏らしがあるんじゃない。」
辛うじて、マーカスの衝撃波を回避した歩兵の眉間に矢がまるで訓練場で的を撃っていくかのごとく次々と突き刺さっていき、その場へと倒れていく
「相変わらず、えげつない命中率だ」
「隊長が見てるからね、ある程度は真面目にやらないと」
ナターシャは軽口を叩きながらも次々と盗賊達を倒しつつ、肘でウィルの方向を指してマーカスに合図を出す。
「あの小僧が隊長ね…ナターシャの昔馴染かもしれねーが、まだ俺はアイツの指揮下に入るのは認めてねーぞ」
「アカデミーは首席卒業だから指揮力は折り紙付きのはずだけど、ちょっと堅苦しい所があるのは否定出来ないわね」
「まぁどっちみち隊長の評価は暫く様子見だな。」
「まぁすぐに、マーさんもウィルの事を認めると思うわよ」
一通り片付いた所で、マーカスは周囲を見渡す。丁度ライオットが弓兵を仕留め、ミシェルが騎馬兵を包囲して殲滅したタイミングだ。そして気に食わないがウィルの方を見る………
「おい…ナターシャ…アイツ何者だよ」
「説明したでしょ。アカデミー開校以来始めて全年首席を維持して卒業した天才、そして王国騎士団第一師団長ゲイル・アーダントの息子、ウィル・アーダントよ」
「血筋だけのボンボンかと思ってたんだが…」
マーカスの目線の先には中隊程の人数はあろうかと言う位に生きて捕縛された盗賊達の姿が写っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます