第3話 初陣(前編)
部隊長会議から数日が経過
第8大隊駐屯地の広場にほぼ全隊員が集合していた
そう、今日は例の国境沿いの盗賊の捕縛作戦の実施日である
イマイチやる気は見えないものの俺の根気強い説明で重要な任務である事は理解してもらえたらしく多少嫌嫌感は見え隠れするものの任務に対しては前向きに取り組むようだ。
だが、ここで素直に行かないのが
「隊長さんよぉ、無事に目標通り盗賊の捕縛と
守銭奴らしくマーカスが分かりやすい追加報酬を求めてきたため、他の大隊員達も俺の返答に注目する。
ここで下手な回答を行おうものなら、大隊の士気は崩壊し任務の成功率も大幅に減少することだろう
「確かにマーカスの言う通りだな。だが全員に追加報酬をくれてやる程ウチの隊も裕福では無い。先着3名、信憑性の高い情報を持ってきた者に追加報酬を出そう」
どうせ追加報酬など出ないと高を括っていたのか、俺の返答にに対してマーカスは驚いたような表情を見せ、そして何やらライオットに耳打ちすると、やる気満々と言った雰囲気で小隊員に気合を入れている。
「あの…隊長様、一つ私からもお尋ねしたいことが…」
エミリーがもじもじした様子で後ろから声を掛けてくる。
俺はエミリーの本性を知っているだけに外面モードを発動させているとは言え、背後からエミリーに声を掛けられると思わずビクついてしまう。
「ど、どうかしたのかエミリー」
「はい、盗賊を吐かせる手段は問わなくて結構なのでしょうか?」
冷たい声にエミリーが何を考えているのか一発で理解してしまう。
要するに盗賊の口を割らせる為に非人道的な拷問を用いて吐かせようとエミリーは考えているらしい。
これが戦争であり、吐かせる相手が敵国の捕虜である場合は違法である、しかし盗賊の素性が解明されていない現状であれば、相手はただの犯罪者であり当然人権等も存在しないのだ、つまり拷問に掛けようが、私刑を行おうが自由である。
当然、外面を気にする貴族派連中は綺麗事や美辞麗句を並べて拷問の類を否認するだろうが俺には関係無い。
もちろん俺がエミリーに対して出した答えはイエスの三文字だった…
満額の返答に対し思わず顔が綻びそうになるエミリーだが、外面モードを崩すわけにも行かず、何とかグッと表情を堪え、俺の顔が背面を向くと同時に満足した様子で両手で頬を撫でてヤンデレスマイルを繰り出すのだった。
こうして無事に、各部隊長への対応を済ませ大隊の士気も十分に高まり任務に対する姿勢も十分であった。ただ一つの部隊を除けば…
そう人格的には何一つ欠点らしい欠点は見当たらず、部下や配下に対する対応も満点に近いナターシャ率いる弓兵中隊である
「だから言ったじゃないですか隊長…」
「ごめん…エリック副長…」
そう何を隠そう、第8大隊が作戦準備を進める中ナターシャは弓兵隊員に体を支えられ、駐屯地の隅で乙女の尊厳を盛大に撒き散らしていたのだった
流石にその光景を見かねた俺は弓兵中隊の集合場所へ向かい、任務準備の指示を代理で行うと、ナターシャを所謂お姫様抱っこの要領で抱えあげ救護室へと連れて行く。
決して清潔とは言えない救護室のベッドにナターシャを寝かせると、木製バケツに汲まれた水をナターシャの顔目掛けて
「ちょっとぉ…いきなり何を…」
ナターシャの頭部はびしょ濡れになり、前髪からは水滴が滴り落ち、一瞬何をされたのか分からないと言った感じに気の抜けた用な表情をする。
「大事な任務の当日に、二日酔いでまともに部隊も纒められない部隊長に対して、優しく介護でもすると思ったか」
「ウィル〜ごめ~ん」
幼なじみであることを利用して、猫なで声で謝罪を行い有耶無耶に帰そうとするナターシャ、酒さえ絡まなければ普段の生活態度は
と言いたい所だが当然このまま無罪放免としては、他の罰を与えた大隊員に対して示しが付かなくなる。
考えた結果俺が出した答えは…
「次にやったら、大隊駐屯地への酒類の持ち込みを禁止する」
酒豪である、ナターシャは当然、その裁定に大隊構成員はこぞって悲哀の感情を示すのであった。
◇
「総員!出撃!」
まず駆け出したのは機動力で最も勝る騎兵隊のライオットだ。
色々と問題のあるライオットではあるが、瞬発力、行軍速度はかなり目を見張るものがある。一般的な騎兵隊の速度と比較して2割近い速度が出ている、それでいてその速度で統率が乱れず素早い行軍を実現させている。
「コイツは拾い物かもしれないな…」
そう呟きライオット隊の動きを注視し続ける。
「オラオラァッ!ライオット様のお通りだ!賊共、頭が
相変わらずライオットの粗野な態度と共に荒々しい怒号が響いてくる。
もう少し態度を改めて欲しいと頭を抱えたくはなるが、それは別として考えるとライオットの戦闘能力は相当に高く、馬上から槍を振り回し、馬の機動力を活かして盗賊達の
盗賊の大半は
もはやライオット一人でも方が付くのではと自身の歩兵隊の指揮を取りつつもライオット隊の様子を注視していると背後から賊の騎兵隊が出現
「やれやれ、悪知恵だけは働く奴らだな」
流石のライオットも背後から奇襲されては敵わないだろうと、俺は隊列を変更し、ライオットの方へと進行方向を変更する。
だが流石にそうは甘くないらしい…
俺の進行方向に賊の歩兵が現れて道を塞いだのだ。
「死にたくなければどけッ!」
「ヘヘッそんなに怒るなよ、俺達と遊ぼうぜ、それともそんなにお仲間ちゃんのお尻が大事かい?」
「どけと言ったはずだ次はない」
「ハハッ振られたもんだ、だがもう少しゆっくりして貰って…」
ヒュンッ…
一陣の風と共に鋭い風切り音が響く
「なんだ?何も…」
「次はないと言った」
一瞬の時を経て、ウィルの進路を塞いだ歩兵隊の内2人の腕が斬り落とされる
「あっアァァァァ!俺の手がぁぁぁぁ」
「アァァァァ、かーちゃーん!」
威勢の良かった盗賊集団も利き手を失ってしまえば情け無い態度で狼狽しもはや統率が取れるような状態ではなかった。
しかし、歩兵盗賊の目論見はほぼ成功したようなもので、今の俺の位置からはほぼライオット達とライオットを背後から奇襲しようとしている騎馬隊に追いついて加勢することは不可能な位置取りとなっていた。
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