第9話 師団合流
「おや、もう済んでいたのだな」
「結構、結構、我らの手間も少なくて済むと言うもの」
浅黒い肌にスキンヘッドにだらしない口髭を携えでっぷりと下腹部に脂肪を蓄えた男、マールヴ王国第四師団長バアル・フレイマン、痩せ型で金髪のロングヘアに戦場には似付かわしくない絢爛豪華な鎧を着用した男、ウィルの直接の上司でもある第五師団長アンソニー・ロイスの二人がウィルの陣地を訪れ、第八大隊を見下したように悪態をつく
「流石です。御貴族様は大層素晴らしい時計をお持ちのようだ」
第四・第五師団長は貴族派であり、現国王による治世を好ましく思って居ない、さらには師団長当人もそれぞれ子爵・男爵位を持つ貴族であるのだが、だからと言って一方的に言われるがままになるほど人間が出来てる訳でも無い。
そのため皮肉を込めて支援要請に大幅に遅刻してきた事を言い返す
「すまんな、これでも最善を尽くして駆け付けたのだが、ゴmゴホンゴホン第八大隊が優れていたのだろう」
第八大隊の事をゴミ溜めと言おうとし悪ぶれた様子も無く言い直してくる態度に隊員達も苛立ちを見せるがウィルの宥めるような態度に何とか溜飲を下げている様子であった。
「まぁ良い
「何でしょうか」
「第四・第五師団と合流し、ティムダル峠を超えて先行した第二師団と共にアダール攻略作戦に参加せよ」
「出立の予定、補充兵の合流はどうなっているでしょうか?」
「出立の予定は一刻半後、補充兵は必要な程消耗している用には見えないのだが?」
両師団長は意地悪そうな笑みを浮かべつつ案の定と言うべきかやはり意地の悪い回答が帰ってくる、その答えを聞きウィルは歯軋りをして悔しさを噛み締める
「その予定は流石に大隊長として反対せざるを得ません」
「ほう、話してみよ」
「
「一刻半もあれば休養は十分では無いのか?」
「加えて、その時間からの出立であれば、ティムダル峠を超える頃には日を跨いでしまうかと、これだけの大軍を抱えての夜間行軍は奇襲等の危険性も考えた場合とても納得出来るものではありません。」
「大した問題では無いな、それに一刻半後に
本隊を出立させる時間が一刻半後、つまり第八大隊はほぼ無休で進軍する事となり、更には安全性を確保するための斥候を放つ時間さえ必要無いと言う判断のようだ
「それでは万が一の事態に備える事が…」
「クドい!上官命令だ。」
「それに帝国のゴミ共はお前たちが掃除してくれたのだろう?」
「そうか、所詮
ハッハッハと小馬鹿にしたように笑い飛ばし、明らかに無理のある行軍予定を押し付けてくる両師団長、頭に蛆が湧いてるのではと思いたくなるほどの馬鹿すぎる予定ではあるのだが 『上官命令』の言葉を出されてはそれ以上の反論は、上官侮辱や命令違反と言った罪を押し付けられかねない。
多少語尾が荒くなりつつも、必死に噛み締めて承諾の返事をかえすのであった。
「分かりました、もう結構です。それでは兵達の準備がありますのでこれにて失礼します」
話に出たティムダル峠と言うのはマールヴ王国とガーラント帝国の国境に跨り存在するダルド厶火山を頂とした岩の尾根を通る山道であり、険しい岩肌とが人の足を遮り、火山の熱で溶け出したコールタールにより異臭と黒い油膜が支配する土地である。
当然のことながら、兵団ましてや2個師団もの大軍勢を率いて進軍するには非常に厳しい地理条件であるものの峠を超えてしまえば目と鼻の先にガーラント帝国の守りの要でもあるアダール要塞を併設する城塞都市アダールが存在する。
そう言う意味ではアダールに強襲を仕掛ける為のルート選定としては
そうして会議というのもおこがましいレベルの押し付けにより決まった行軍予定を第八大隊の野営テントに持ち帰り各部隊長に伝えていく
「おいおい、上は何を考えてんだ?使い捨ての駒とか思ってんじゃないのか?」
「酷い押し付けね」
「馬もしっかり休めないと、最高のコンディションは出せねーんだぜ」
「………………………」
と勿論ながら数々の不満は漏れて来るのだがウィルが頭を下げて願い出た事、何より先の圧倒的な戦力差を引っくり返した戦いで実力を示した事により信頼を勝ち得ていたため第八大隊は納得を示していた
程なくして出立までの時間が無い事もあり野営用のテントを片付け陣形を整列させると狙ったかのように第五師団から派遣された伝令官が出立の時間であることを伝えてくる、とことん嫌がらせに徹している様子が伺える。
勿論先頭は、第八大隊である
万が一にでも崖崩れ等起きた場合に真っ先に被害を
「おい、もっと急がんか、このままでは夜までに峠を超えられんぞ」
「仕方ないだろう、斥候を放って無いのだ、道中にどのような危険があるか分かったものじゃ無いからな」
「グズグズするようならアンソニー様に報告して命令違反の報告書を提出しても良いんだぞ」
出立がそもそも日中を回って居たのだ、余程進軍速度が早く無い限り峠を日没まで超える等無理な話だったのだ、ましてや2個師団と言う大軍である、当然ながら人数が増えれば増えるほど軍隊の進軍速度が落ちるものなのだ
「チッ」
わざとらしく聞こえるように舌打ちをした後に腰の片手剣を抜き構えると伝令官を睨みつけると伝令官は怯えた様な表情でビクっと怯んだ態度を見せる
「な、なんだ、逆らうつもりか、本当に命令違反…」
「何を勘違いしてるんだチキン野郎、俺は号令を出すために剣を抜いただけだ」
「チ・チ・チキン野郎だと、上官侮辱に…」
「何を勘違いしてるんだ、お前はただの伝令官、軍隊での立場も大隊長の俺の方が上なんだが」
「な、何を私はアンソニー様直属の伝令官、私の言葉はアンソニー様の言葉と…」
「だがお前の立場が上がるわけじゃ無い、なんならお前の方を上官侮辱で軍法会議に掛けてやっても良いんだが」
ウィルの言動ですっかり言いくるめるられると流石に立場を弁えたのか、虎の威を狩りた様な横柄な態度はすっかり大人しくなるのだった
「さっすが大将、スカッとしたぜ」
「もう少し早く言い返してくれても良かっただろ」
「そう言ってくれるな、これ以上の速度は流石に限界だと判断した結果だ」
伝令官をよそ目にわざとらしく聞こえるように小馬鹿にした様に第八大隊のメンバーが口を開いていく、その言葉を聞いた伝令官はグヌヌと言った表情を浮かべるものの、ウィルの言う通り地位的にはウィルの方が上のため強く言い返せないでいる
「しかし、日も傾いて来たな、これ以降の進軍はより一層の警戒をして進む。ナターシャお前の目頼りにしているぞ」
「任せてよ、伊達に弓兵隊長努めてないわ」
「マーカス先頭を頼む、ライオットは俺の直衛を」
「任せな」
「オッケー大将はしっかり守ってやるよ」
しっかりと陣形を整えて進んでいく何とか一番難所であるティムダル峠を過ぎた頃には案の定予想通りと言うかすっかり日没を迎えていた、兵達も疲労の表情を見せ始め本当に一瞬の隙だった
「今だ突撃ぃぃぃ!」
ガーラント帝国の紋様が刻まれた甲冑姿の兵士が1小隊程の少数が正面からぶつかって来たのだった
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