第8話 カルザス平原の死闘(後編)

※第八大隊視点※


「ウィルー!大変よ敵が突撃仕掛けてくるわ、旗の仕掛けバレたのかも」


「元より長く持つ仕掛けでは無い、勝負はこれからだ」


「流石ウィル、ちゃんと続く作戦も考えてるのね」


「大した事は無い、相手の突撃をすり抜けて相手本陣に奇襲を仕掛ける」


「どうやってあの大軍をすり抜けるのよ」


「任せておけ、俺を信じろ。全軍鶴翼陣クレーンシフト


号令により陣形を整えて帝国の部隊を待ち構える、真正面からぶつかり合えば当然ながら勝てるはずも無い物量差だ


「マーカス隊後退、ライオット隊前進」


真正面から盾を構えて受けても敵の鉾が鋭ければ盾は突き抜かれる、それならば受け流すように陣形を動かし兵団の流れをスライドさせていくのだ

この行動により、帝国の兵団は自分達が優勢であると勘違いを起し進軍の勢いが増すそれに合わせてこちら側の兵団のスライドする速度を上げていく、帝国の兵団が勘付いた時にはもう遅い、第八大隊の兵団が帝国側の兵団の背面を取る形になっておりせっかくの物量も2割も活かせず背面からどんどん討ち取られていくのだ


「よし抜けた、ライオット、馬を貸せ俺と共に突撃を掛けるぞ、マーカス、ナターシャもある程度相手をなしたら続け」


「凄いな大将、ここまで鮮やかに決まるなんて」


「人間は勝ち馬に乗った時が一番油断するものだ、その心理を突けばこの程度簡単に出来る」


ライオット隊の馬に跨り共に掛けてギムシャス准将の構える本陣に迫っていく、向こうもこれで勝負を決めるつもりだったのだろう、構えていた兵はギムシャスが直接指揮を取る小隊の極僅かな兵隊だけであった

恐らく、敵将ギムシャスからもこちらの姿が見えているだろう、相手からしたら己の命を刈り取りに来た死神の如く写っているかもしれない。


「馬鹿なっ一体どのようなまじないを行ったと言うのだ…」


相手の将の口から混乱による狼狽ろうばいの声が漏れ出す。

さっきまで数の差で押し潰す側にいた人間が一転して数の差で潰される側に立たされたのだ狼狽うろたえもするだろう


「敵将ギムシャス!覚悟」


「舐めるな小童こわっぱがぁ」


ギムシャスの兵種は槍兵だ、このまま馬を使って戦えばリーチの長い槍に対して小回りの効かない騎兵は不利に働く

ギムシャスの槍が届かない範囲で馬から飛び降りると、帯刀している片手剣ショートソードを抜き放ち、ギムシャスの槍を掻い潜り一気に肉薄する

こうなれば、槍のリーチの長さは裏目に出てしまう、小回りの効く片手剣は槍を一振りする間に幾度も振れるため槍側が防御を強いられてしまう。

それでも長年の槍兵としての経験によりギムシャスはウィルの剣を器用に柄で弾き隙を見て石突きで反撃し槍の間合いを保とうとする


「悪夢でも見ているのか…8000の兵が1000と少しの部隊に良いように往なされて」


「少しは戦術を勉強するべきだったな」


「誰が貴様のような破天荒はてんこうな戦術など」


「その結果がこのザマだ」


キンッキンッっと何度も金属と金属がぶつかり弾き合う音が響く推しているのは当然ながらウィルの方だ

それでもギムシャスは長年の経験により不利な槍で斬り合いに付いていく


「そこだ!」


「ぐぬっ…!」


ウィルの渾身の一振りによりギムシャスの態勢が崩れ、槍で固めていた上半身の防御が開く、その隙を当然見逃すはずも無くウィルの片手剣がギムシャスの胸の上部から喉に掛けて貫く


「ゴフッ…やるものだな…」


「伊達に大隊長は任されていない」


「小童…名を何と言う…」


「ウィル・アーダント」


口から溢れるように血を流しつつも最後に問答を行いウィルの名前を聞いた所で納得したように頷く


「そうか、金獅子…ゲイル殿の御子息の…手に掛かって終わる人生か…ゴホッガフッ」


一際激しく血を噴き出してギムシャスは体が崩れ落ちていく。その光景を見届けるとギムシャスの首を落とし上方に掲げる


「敵将ギムシャス!このウィル・アーダントが討ち取ったァァァァ!!勝鬨を上げろぉぉ!」








「「「「ウォォォォーーー!」」」」







ウィルの号令から一瞬の沈黙の後王国陣営から一斉に勝鬨が上がる

同時に帝国側にも准将ギムシャスの討死が伝わりその時点で勝敗は決まった。


帝国兵は白旗を掲げて投降する者、悪足掻きを行い暴れた末に首を刎ねられた者、川を引き返し国境を渡って逃亡を果たした者と多岐にわたるが結果として最終的には帝国兵の旅団の凡そ半数は戦場に散ったのだった。

逆に王国側の被害は、死者13名、重傷者24名(内復帰不能者4名)、軽傷者312名と素晴らしい成績を残したのだった。


「この程度の被害で済んだのは正しく奇跡だな」


「ウィルー、奇跡なんて謙遜はダメよ、アンタの指揮が良かったからよ」


「確かに大将の作戦通りに動いたら随分と楽だったな。」


「ふん、まぁあの大軍を潜り抜けれたのはアンタのおかげだろうな」


各部隊長が思い思いに声を上げていくがミシェルは相変わらず無口のままだが槍を上に掲げて感謝を示すようなジェスチャーを取り、そして第八大隊所属の兵士達はこの歴史的な大勝に歓喜の声を上げていた。


そしてエミリーはと言うと、重傷者用の養護テントで恍惚の表情を浮かべ両手の平で顔を撫でるようにしたヤンデレスマイルで重傷者の傷口を眺めつつ治療に当たっていた


そうして捕虜の束縛、負傷兵の治療、そして戦場に散った者たちの埋葬それら一切の戦後処理が凡そ終わった頃、まるでこれらの戦い全てが終わるのり綺麗に片付き終わるのを見計らったかのように・・・・・・・・・・


第五師団の印である黒地に赤い鷲の刺繍が施された団旗が立ち上り本陣後方の森林地帯から近づいて来るのが確認出来た。

第八大隊の面々はその旗を見るのも嫌だと言わんばかりに、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて居たのだった。

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