第7話 カルザス平原の死闘(中編)

※ガーラント帝国視点※


「王国側がやたら騒がしいが何があったか?」


圧倒的な戦力差によりたかだか一大隊程度の部隊など簡単に押し潰す予定であった、ギムシャス准将は中々に攻め落とせない現状に苛立ちを見せつつ、左手を顎に当てて顎髭を撫でながら、何やら動きがあったと見られるマールヴ王国陣営についての報告を部下に求める。


「どうやら援軍があったようで…前線が混乱をしていると…」


「何?援軍だと?この地点なら…来るとしたら…第五師団の飼いならされた豚ども…大した脅威には…」


伝令でんれーい伝令でんれーい!」


直後、前線から早馬が届き伝達役が到着する。


「どうした、前線で何があったのだ?」


「王国側に援軍、掲げられた軍旗は赤地に金の獅子…」


「なるほど…『王国の金獅子』…旗の数は如何ほどか?」


「正確な数は分かりませんが30近くはあったかと…」


「30ともあれば一師団相当もしくはそれ以上か…確かに混乱もしようか…」


「そ…そんな…大部隊…勝てるわけが…」


本陣に構えていた数多の部隊がその報告を聞くと負け戦になると判断し、構えていた陣形を崩し思い思いに撤退を始める


「貴様らっ、帝国の魂すらも無くしたか!敵前逃亡すると言うならこの私が首を落としてやろう、今死にたくなければ持ち場へ戻れ!」


敵将ギムシャスの喝により幾らかは持ち場を何とか守るもののもはや士気はガタ落ちである


「ダメです…前線も士気が落ちきってしまい崩れかけてます。ここで粛清でもしようものなら…」


「なんと情けない、とにかく陣形を保つ事を最優先だ。」


「了解」


「恐らくこの勢いに乗って騎兵隊の突撃が来るはずだ。槍兵を前に出して方陣スクウェアを作れ!」


「ハッ伝令を回します!」


伝達役に作戦を伝えて再び前線へと送り返し、一応の落ち着きは見せる帝国本陣ではあるが、ここからの逆転の策を考える必要があるためギムシャスは頭を抱えるのだった。


※第八大隊視点※


「よし、崩れた。ライオット突撃だ」


「了解、大将!お前らは馬がへばるまでトバせよ」


『王国の金獅子』ことゲイル・アーダントの軍旗の登場により士気が落ち、統率が取れなくなった帝国の前線部隊へと突撃を仕掛ける。

ライオットの騎兵隊が帝国の歩兵を追い上げていく、そこにギムシャスの作戦によって構えられた槍兵の方陣が現れてライオットの勢いを殺そうとするがナターシャの護衛についていた騎兵隊が横からぶつかり、相手の陣形を崩してライオット隊に合流する。


「マーカス、ナターシャと合流し、ライオットの露払い頼む」


「任せろ、やっぱ防衛より攻める方が楽しいな。」


「ほらほらボサッとしてんじゃ無いわよ」


第八大隊の隊員達にいつもの調子が戻りだす。ナターシャが射り、マーカスが斬り伏せて、ライオットが蹂躙するいつもの光景だ。

第八大隊は士気の上がった兵団を勢いに任せて進軍させて、帝国の兵団を国境の川向こうまで追いやる事に成功する。


「今だナターシャ、火矢を放て!」


帝国軍の大多数が国境を超えた事を確認し

た所で火矢により国境の橋を落としていく

当然、繋ぐ橋は1つでは無いさらに言えば、風水術師ジオマンサー等の地形に影響を及ぼす魔法使いウィザードが居れば仮設の橋を作る等容易い事である。

当然のことながら、旅団規模ともなればその程度の兵種は少数程度なら所属させているものであり、それは帝国側も理解していた。簡単に国境まで引いたのはそれがあるためで無理に突っ張るよりも一度引いて陣形を整える方が得策であるとギムシャス准将も考えたのであろう。


「ここからが正念場だ、まだ多数の兵士が混乱している今がチャンスだ、追撃を掛けて敵将ギムシャスを討つ!」


「「「ウォォォー」」」


大隊全体に号令を掛けると軍勢が鬨の声を上げて武器を構えて陣形を整えていく。


「突撃ぃ!」



※帝国側視点※


「何故だ…たかが一大隊程度の部隊になぜ我々が押される?」


確かに後方には王国第一師団が控えて居るのかもしれない。しかし未だ前線で戦っているのは第八大隊の面々であり、第一師団は未だに合流の気配は見当たらない


「もしや…誰か!」


「ハッ」


騎兵小隊ライダー魔術小隊ウィザードを率いて、川の下流から王国の陣の裏に回れ」


「そ、それでは…第一師団と鉢合わせしませんか」


「恐らく大丈夫だ、もし第一師団と遭遇したら赤い・・光弾を打ち上げて、全力で撤退しろ、遭遇しなければ緑の光る弾を打ち上げて、そのまま挟撃を仕掛ける」


「つ、つまり、あの『王国の金獅子』の軍旗はブラフと言う事ですか?」


「まだ確証は無いが、旗が掲げられて暫く経つが未だに第一師団の兵団を見かけていない、そのためお前を行かせるのだ、必ず任務を果たせ」


「ハッ」


ギムシャスの勘付きにより、隠密行動用の小隊は川の下流を渡り、主戦場となっている草原地帯を大きく迂回して王国側の陣の横を抜けて行く、そして間もなく王国本陣の裏手に広がる森林地帯に差し掛かろうとしたその時だった


ザクリッ…


隠密行動を取るための軽装が悪かったのか、それともそもそもこの行動が読まれていたからなのか…

激しい流血と共に胸から鋼の棘が咲いていた


「……………………………」


刺したのは王国の重槍兵ミシェルであった


「ここ…ま…りを…置く……や…り…」

……ギム……ス様………………みど……あげ…」


共に進行していた帝国の魔術小隊が緑の光弾を打ち上げる、が当然ながらミシェルの槍兵隊に発見されてしまう。

そして、前衛として付いていたのが騎兵隊であることが災いした。

リーチの長い槍兵は騎兵に強い為ほぼ一方的な戦闘が可能となる、そして前衛を失った魔法兵が身を守る術等あるはずも無く、隠密小隊はいとも簡単に全滅したのであった。



ーーーーーー――


「見たか、緑が上がったぞ!、『金獅子』はブラフだ!全軍配置を戻せ」


緑の光弾が決死の覚悟による行動とはギムシャスは気付く事もなく、自身の予測が当たった事により兵団を鼓舞していく、帝国の兵団も大部混乱は収まり、後退していた部隊も徐々に帰ってきはじめる。

流石に全部隊が戻ってくることは今更は難しいだろう、しかしそれでも声が届く範囲の部隊が全て帰ってくれば、第八大隊を押し潰すだけの戦力は整うはずである


「フッ…小童如きが妙な知恵を付けたようだが、所詮この程度の事よ」


ギムシャスは勝ち誇った様に笑みを浮かべると落ち着き定石通りの指示を進めていく。何事も無くこのまま行けば帝国の勝ちは揺るがないはずである………

しかしその直後ギムシャスの目に写った光景は王国の騎兵を先頭にこちらの陣形を崩し突撃してくる姿であった


「馬鹿なっ一体どのようなまじないを行ったと言うのだ…」


既に兵団の大多数は王国の本陣を落とすために突撃の号令と共に出て行ってしまった、今更呼び戻したところで間に合わないのは目に見えており、ギムシャスはこの戦の敗北を感じ取ってしまっていたのだった…

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