第6話 カルザス平原の死闘(前編)
「まーたゾロゾロと金魚の糞みたい連なって大軍さんのお出ましだぜ大将」
「分かってるライオット、だがお前の仕事は切込みには変らないぞ」
「あの大軍に突っ込めってのか?そりゃ自殺と同義だろ」
少しでも地的利点を抑える為、草原でも比較的高台に当たる丘陵地帯に本陣を構え直し、
そのライオットの疑問に対しニヤリと口角を上げて何かを企んでいる雰囲気を見せつつウィルはライオットに答える
「大丈夫だ、突撃の合図はこちらで出す、それまではミシェルとお前が壁となって金魚の糞を抑えておけ、それと1小隊をナターシャ隊の
「何か考えがあるんだな。俺は頭悪いからよ作戦とかは分からねぇ。だから俺達騎馬隊の命、大将に預けるぜ」
「任せておけ、あとナターシャ居るか?」
作戦を各部隊に伝えていく最中ナターシャを呼び出す
「何?隊長」
「お前は今回遊撃は行わず、最後方配置だ」
「最後方?何?私の事心配してくれてるの?」
「違う、特別任務だこの箱の中身を後方の森林に倒して括り付けて来い」
「えー何々?」
興味津々と言った様子で箱を開くナターシャだがその中身を確認した瞬間ウィルの思惑、そして作戦を理解する
「なるほど、括り付けて一斉に建てるのね、準備できたら閃光弾を打ち上げるわ」
「流石ナターシャだ、迅速な遂行を期待する。」
続いてマーカスとエミリーの方へと歩み寄り同様に指示を出していくただしやはりいつもの戦術とは大きく異なっている
「マーカス、お前に遊撃を任せる、ただしライオットとミシェルの援護を最優先だ。そしてエミリー、お前は
「それで生き残れるってんなら従ってやるよ」
「了解しました。中衛の任しっかり努めて参ります。」
万全の体制を整え、小高い丘に構えて帝国の旅団級部隊を迎える。
帝国軍も陣形が整い、大将と思われる人物が前方に出てきて名乗りを上げる。
「我はガーラント帝国、国境方面軍准将ギムシャス・
「マールヴ王国第五師団所属、第八大隊長ウィル・アーダント。ガーラント帝国の将ギムシャスの発言は全くのデタラメであり、先に領土侵犯を行ったのはガーラント帝国側であり、我々の行為は正当防衛に当たる、よって我々は王国の正義に則り、悪逆たるガーラント帝国を打ち倒す!」
「ふん…若いのに中々に肝が座っておる…だがこの圧倒的差が分からぬほど愚かではあるまい、今なら投降を受付けるぞ?」
「既に第五師団への伝達は済んでいる、御託は良いからさっさと掛かってきたらどうだ?」
「その言葉後悔するなよ!全軍前進!」
敵将ギムシャスの号令により、帝国の騎兵隊、そしてウォォォーと鬨の声を上げて、大集団による人の波がウィルの構える本陣へと押し寄せ始める
人数比は凡そ8倍、普通に考えれば撤退一択の絶望的な差であり、まず勝ち目は見えない。
「ミシェル隊、ライオット隊、
ウィルの号令により、ミシェル隊とライオット大蛇が横長で=の形となるように陣形を変えて帝国騎兵隊の突撃を押し返そうと構えを取る
「エミリー、
「
「局所的な回復の光よりも、広範囲に広がる慈悲の雨の方が役に立つ」
「なるほど隊長、勉強になりました。」
兵隊の練度の差によるものだろう、ライオットとミシェルによる防衛陣形は良く働き本陣への道をしっかりと塞いでいる、そこを効率良くマーカスが打ち倒して行っている為、局部的に見ると第八大隊側が有利には見える。
しかし、絶対的な数の差を覆すには至っておらず寧ろ、その数の差により全体的には帝国側が圧している状態である。
「エミリー!次、3秒後ミシェル隊左翼に慈悲の雨、3…2…1…今!」
「
練度の差と回復魔法で何とか誤魔化しつつ戦いを有利に進めてはいるものの、重たい鎧や、武器を装備しての全力の戦いである当然ながら兵隊達の体力も尽きてくる。
「ちぃっ…馬共もヘバッて来やがったぞ…」
そんな僅かな緩みから防衛陣形というのは突破されるもので…
「ちっマーカスすまん、そっちに少し漏らしちまった。」
「おいおい、いい歳来いてお漏らしか?ライオットお坊ちゃん、仕方ないでチュね~」
「うっせぇ、もう漏らさねーよ」
馬上槍を振り回し続いてやってくる帝国の歩兵を薙ぎ払いながらライオットとマーカスはお互いに軽口で冗談を言いあっている。だがそれも強がり半分と言った感じで現状の維持だけで一杯一杯と言った様子を見せ始めていく
「ナターシャ…頼む急いでくれ…」
崩れかかる直前ではあるが、実はここまではウィルの考案した作戦通りである。
後はナターシャの信号弾さえ上がれば逆転の一手が撃てると言う段階だ。
当然帝国の兵団はそんな事など知る由もなく、間もなく数の差を以て王国側の陣形を押し崩せると信じて勢いを増していくだけである。
そこに待ち侘びたナターシャからの閃光弾が打ち上がる
「来た…」
ナターシャの合図を目視で確認した後に、隊員の一人に命じて
「援軍が来たぞ!お前ら反撃の狼煙を上げろ!」
ウィルの上げた声をナターシャは聞き届けると、森に仕掛けたギミックを起動させる、すると豪華な装飾が施され、赤い地に金色の刺繍で獅子の顔が
「あの軍旗は…」
「あぁ紛れもない『王国の金獅子』」
「ゲイル・アーダント様の部隊だ!」
「勝てるぞ、押し返せ!」
思いもよらぬ援軍に押され気味で下がっていた士気も一気に盛り上がり帝国の兵団の勢いを飲み込んでいく
「ナイスタイミングだナターシャ、そのまま追撃を、
「なるほど、了解」
「ライオット、後5分したら突撃を仕掛けるぞ、陣形を整えておけ」
「いよいよ反撃かい大将。」
「あぁ、お前の力を見せてやれ」
「了解」
圧倒的に不利と見られた戦いではあったが突如として第八大隊の後方の森から現れた軍旗により、王国最強の騎士とも謳われる、第一師団長ゲイル・アーダントの大部隊が援軍として現れたと
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