第14話 新戦術試験運用大隊

「えーい!何故だ、何故攻め落とせない」


アダール要塞の守備隊長は怒りから癇癪を起こして、眼前の机をドンッと強く叩きつける。


「こうなったら、奥の手を使うしかあるまい、重装甲兵ホプライト部隊を出せ」


「了解しました」


呼び出された重装甲兵とは最近になり帝国で研究、開発された対魔法刻印の刻まれた魔法金属で作られた板金鎧フルプレートアーマーを纏った兵である、その重厚な鎧による防御力から白兵戦に置いては敵無しと言われる程であり、加えて対魔法刻印により魔法に対しても一定以上の防御力を誇るのだ

強いて弱点はと言えば、製造コストと兵の育成が必要な点だろう


「グハハ、これなら幾らゲイルの子供たちと言えどひとたまりもあるまい」



続々と重装甲兵が第二師団の陣営に迫っていく当然、普通の兵では太刀打ち出来ずアリアの魔法で傾いていた戦況を再び返されていく


「一体、何なのよあの鎧集団」


「頑丈って言っても限界があるだろう」


「私の矢も全然通らないよ」


「フハハハ、これぞ帝国の誇る重装甲兵団だ」


板金鎧の集団を束ねる部隊長らしき人物が答える


「ホプライトか、確かに今の戦況にはこれ程無いくらい有効だな」


「このまま、お前たちは我々に圧し潰されるのだ、フハハハ」


「クソっ……何か……」







「そうは問屋が降ろさないってか、ファッツぶっ放せ」


「あいよ、全砲門、一斉発射ファイア


突然キィィィンと風を切る音が鳴り響くと砲弾が雨のように降り注ぎ重装甲兵を打ち据えて行く


「全く遅いのよ」


「姉さん、彼らは?」


「王国第三師団・新戦術試験運用大隊、通称イロモノ集団ね」


「へっ、魔王の翼よりはイロモノの方が幾分かマシだぜ」


名前の通り現れた集団は物珍しい装備を身に着けていた、移動式砲台による砲兵、リーダーらしき男性は刀身が反った片刃の剣、更に奥には飛竜ワイバーン飛甲竜ドレイクによる混成竜騎兵


「ドラゴンを飼い慣らしたのか、凄いな」


「あんなのトカゲと変わらねーだろ」


「トカゲとは失礼ですね、リュー君そこの刀バカを齧って良いですよ」


「おい、バカやめろ……」


リュー君と呼ばれたドレイクも良く調教されており、頭が良いようだ飼い主の竜騎兵隊長らしき女性の冗談を聞いてドラゴンの事をトカゲと呼んだ大隊長の頭にヨダレを垂らして見せた


「改めて自己紹介しよう、俺は第三師団所属新戦術試験運用大隊長、カイン・ランベルトだ、得物は見ての通り極東の島国『那賀都』から仕入れた刀だ」


「砲兵隊隊長、ファッツ・レイモンド、そこの僧侶のお姉さん良かったら今度食事でも、血の滴るような熱い夜をフガッ」


「またファッツったらバカ言って、あっ竜飛兵隊長ミリア・グレイスです。」


「血の滴るような……フフッ嬉しい……」


「えっ?まさかの脈アリ?」


エミリーの本性を知らない男性はこの態度にすっかり騙されるのだ


「所で竜騎兵ではなく竜飛兵?」


「はい、飛兵です」


「速度を重視したんで、今は後から追わせて来てるが、ちゃんと竜騎兵も居るぞ」


「よし、これだけ戦力があればアダール要塞も落とせる、ナターシャ招集の合図を上げろ」


「りょーかい」


暫くすると、ライオット、ミシェル、マーカスの3人が合流する。

しかし同時にモニカ率いる風凰騎士団が追いかけてくるが、新戦術試験運用大隊と合流したことにより部隊総数は相当数に膨れ上がっている。

その為モニカの部隊も一気に攻め込んでは来れずお互いに対峙する形で足が止まる


「ウィルちゃん、貴方に総指揮を任せるわ」


「ちょっと待て、どう考えても姉さんか、カインさんの方が適任だろ」


「私は魔法大隊を率いて、火力担当したほうが効率良いと思うのよね」


「イロモノ大隊は元々結構好き勝手やってる隊だから、余り統率とかあって無いようなものなんだよな」


「ちょっとぉ、大隊長自らイロモノ認定しないで下さいよ。リュー君にまた齧って貰いますよ」


「まぁ、ウィルちゃんはあの第5師団第八大隊をまとめ上げてる実績もあるし」


「分かった、総指揮は取るだが魔法部隊や新戦術大隊の細かい運用は姉さんや各部隊長の方が慣れてるはずだから配置だけ決めておきます」


そして兵の配置が終わりアダール要塞を巡る戦いの第二幕が蓋を開けた、風凰騎士団の騎兵は練度が高めだ、当然ぶつけるのは第八大隊きっての騎馬隊ライオット、そして飛兵隊のミリアだ、流石の風凰騎士団と言えど空からの攻撃には為す術もないはずである


「ふん、ウィルの浅知恵ね……飛兵如きで私達を止められるなんて思ってるのかしら、カラドリア!」


モニカの扱う魔法剣カラドリアに込められた魔力により突風が吹き荒れる、飛兵隊の内飛甲竜ドレイクに騎乗していた兵は何とか持ちこたえていたが、飛竜ワイバーンの方は気流を乱されたせいで大きくバランスを崩していた


「今だ、弓兵隊構え、斉射」


翼を的確に撃ち抜かれたワイバーン達が次々と墜落していく、しかし竜飛兵隊もただやられるわけでは無い


「全軍、ドレイク隊を先頭にストームプレス行くよ」


弓の届く範囲から外れた上空へ上がるとミリアを先頭にして円錐状の陣形を取ると急降下して超高速による衝撃波で弓兵隊を一気に薙ぎ払って行く


「竜の姉ちゃんやるじゃねーか、俺たちも負けられてないな」


続いてライオットが馬を飛ばして突撃を仕掛けるミリアの急降下攻撃により陣形の崩れた所に騎兵の突撃は効果抜群とばかりに一気に陣形を崩していく


「飛兵隊集合、一度体制を整えてライオット隊が作ってくれた時間を無駄にしない」


先程の弓の斉射で撃ち落とされたワイバーン達も体制を整えて再び空へと浮き上がっていく


「飛兵め、やってくれる一旦引け、体制を整えつつ要塞近くに誘い込め」


風凰騎士団達が馬を翻し引いていく、当然現状圧しているため、ライオット、ミリア共に追撃し追いかけていく


「鬼ごっこはもう終わりかしら」


「えぇそうね、鬼の敗北で終わりよ、カタパルト隊放て」


ティムダル峠の襲撃で用いられたバリスタよりも更に大型化した機械仕掛けの投射装置が現れて、ミリアの駆るドレイクのリュー君に十数本の槍が突き刺さる

一度に30本以上の槍を投射出来るカタパルトにより放たれた槍を流石に全部回避することは難しく刺さった箇所から血を流しつつも雄々しく咆哮を上げてモニカ達を威嚇する


「おい、竜の姉ちゃん一旦降りろよ」


「ありがとう、でもリュー君はそんなヤワじゃ無いわよ、まだやれるわね」


そう言ってミリアは優しい手付きでリュー君を撫でて慰める、その気持ちに答えようとリュー君も咆哮し、傷ついた体を鼓舞させて、自身を傷つけたカタパルトを睨みつける


「気合十分だな、カタパルトは任せろ、竜の姉ちゃん」


ミリアの飛竜隊と風凰騎士団お互いに満身創痍と言った感じで、次に大きくぶつかったら決着がつきそうな様子でタイミングを図り合い、緊張感が両者の間に走り沈黙が空間を支配する


そして、どちらからとも無く動きだしたライオットの騎兵隊がカタパルトを蹴飛ばし、ミリアの進路を確保する、タイミングが見事に噛み合いミリアとリュー君の急降下により一気に風凰騎士団を薙ぎ払い吹き飛ばし、モニカは要塞の壁に思いっきり叩き付けられて気を失ったのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アルヴァス大陸戦記 @GAROAD

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ