第1話 63型装甲巡洋艦
西暦1936年5月1日、海軍艦船の開発・設計を担当する第一中央造船設計局は、レニングラードやニコラエフにて建造中のキーロフ級巡洋艦の設計を流用し、太平洋艦隊向けの新型巡洋艦を開発開始。モデルたるキーロフ級の建造時に発覚した設計ミスの改善や、同時並行で進められている幾つかの大型巡洋艦のアイデアを盛り込む事で僅か2か月で完成した設計案は、スターリンの鶴の一声で採択された。
基本となる設計コンセプトとしては、『日本海軍の金剛型戦艦に勝てる装甲巡洋艦』であり、建造に掛かるコストの低減による量産化も考慮されていた。設計が開始されていた時点で欧米諸国では、ロンドン軍縮条約の制限を考慮しながらの巡洋艦の高性能化が試みられており、さらにフランスとイタリアでは、高速戦艦の開発・建造がスタートしている。これに対して先手を打つ形で、優秀な戦闘艦を直ぐに建造できる様にする事で、スターリンから好評を得ようと画策したのである。
実際この頃、スターリンはいわゆる『大粛清』を開始しており、その実行役たる
まず船体はキーロフ級の拡大発展型ともいうべきものであったが、単に縮尺をいじっただけでは怠慢の罪を負わせられる事になる。そのため海外の艦艇を参考に、『七つの海を制するもの』の象徴となる様に、艦首は前方に強く傾斜させ、シアも上向きに増したクリッパー・バウに改めた。さらに建造のしやすさを考慮して、船体形状はキーロフ級の艦首側を一段高くした短船首楼型から、全く段差のない平甲板型に変更。これらの設計は後に69型大型巡洋艦に流用される事となる。
次に動力たる機関だが、キーロフ級で用いられているヤーロー式重油専焼水管式ボイラーを8基、イタリアで開発されたアンサルド式蒸気タービン4基を採用。ボイラー4基とタービン2基を1セットにして前後に配置するシフト配置とした。シフト配置は万が一魚雷で被害を受けた際、機関室が全滅して航行不能に陥るリスクを回避する事が出来るメリットがあり、この設計は後の戦争で大きく役立つ事となる。
防御力に関しては、前述の機関配置のみならず、艦首に装甲を集中させて砕氷船としての能力を付与したり、バルジの採用による対魚雷耐性の向上が図られたが、基本的には機動力で敵弾を回避する事となる。そのため装甲の規模や平均的な厚さは元の設計からやや減少したが、後の時代を鑑みれば適切な設計だったと言えよう。
そして最後に、肝心の兵装であるが、これらは基本的に従来艦の採用するものを流用した。主砲はガングート級戦艦の採用する1907年式52口径30.5センチ三連装砲を採用。艦首側に2基、艦尾側に1基の計3基を搭載し、巡洋艦には余裕で撃ち勝てる火力を得た。副砲としては当時開発中であったB-2LM50口径13センチ連装砲を採用し、両舷に4基搭載。対空砲として45ミリ単装高射砲8基と7.62ミリ機銃を18基装備し、水雷兵器も53.3センチ魚雷三連装発射管2基や機雷120発を搭載するなど、いわゆる万能艦としての姿を現したのである。
そうして現時点のソ連海軍が求める姿となった63型装甲巡洋艦は1937年6月3日に、ナホトカの第201造船所にて1番艦が起工。その1か月後にウラジオストクの第205造船所にて2番艦が起工された。諸元は以下の通りである。
全長 222メートル
全幅 30メートル
喫水 9メートル
基準排水量 27000トン
満載排水量 34500トン
機関 ヤーロー式重油専焼水管ボイラー×8、アンサルド式ギヤードタービン×4、4軸推進
機関出力 192000馬力
速力 32ノット
航続距離 8000海里/16ノット
兵装 1907年式52口径30.5センチ三連装砲×3
B-2LM50口径13センチ連装砲×4
1932年式45ミリ単装高射砲×8
M1910・7.62ミリ単装機銃×18
53.3センチ三連装魚雷発射管×2(予備魚雷×18)
機雷×120個
艦載機 ベリエフ〈KOR-1〉水上偵察機×2
なお、日本海軍の規模や、ドイツ海軍の艦隊整備計画を受けて、さらに2隻の建造が承認され、追加で4隻の建造が要求されたものの、スターリンはさらなる強力な軍艦の建造を要求していた。そのため追加要求分の4隻は69型重巡洋艦が充てられ、さらに第205造船所では23設計戦列艦の4番艦が建造される事となり、建造スケジュールは大幅に見直される事となったのである。
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